現職のアメリカ大統領リチャード・ニクソンを辞任に追い込んだ”ウォーターゲート事件”を調査したワシントン・ポストの記者カール・バーンスタインとボブ・ウッドワードの執念の取材を基に1974年に発表された2人の著書”All the President’s Men”を原作に製作された作品。 監督アラン・J・パクラ、主演ダスティン・ホフマン、ロバート・レッドフォード、ジェイソン・ロバーズ、ジャック・ウォーデン、マーティン・バルサム他共演の社会派ドラマ。 |
■ スタッフ キャスト ■
監督 アラン・J・パクラ
製作 ウォルター・コブレンツ
原作:カール・バーンスタイン/ボブ・ウッドワード”All the President’s Men”
脚本 ウィリアム・ゴールドマン
撮影 ゴードン・ウィリス
編集 ロバート・L・ウォルフェ
美術・装置
ジョージ・C・ジェンキンス
ジョージ・ゲインズ
音楽 デヴィッド・シャイア
出演
ダスティン・ホフマン:カール・バーンスタイン
ロバート・レッドフォード:ボブ・ウッドワード
ジェイソン・ロバーズ:ベン・ブラッドリー
ジャック・ウォーデン:ハリー・M・ローゼンフェルド
マーティン・バルサム:ハワード・シモンズ
ジェーン・アレクサンダー:ジュディ・ホバック
ハル・ホルブルック:ディープ・スロート
スティーブン・コリンズ:ヒュー・W・ スローンJr.
リンゼイ・クローズ:ケイ・エディ
ネッド・ビーティ:マーティン・ダーディス
F・マーリー・エイブラハム:ポール・リーパー
アメリカ 映画
配給 ワーナー・ブラザーズ
1976年製作 137分
公開
北米:1976年4月7日
日本:1976年8月
製作費 $8,500,000
北米興行収入 $70,600,000
■ アカデミー賞 ■
第49回アカデミー賞
・受賞
助演男優(ジェイソン・ロバーズ)
脚色・美術・録音賞
・ノミネート
作品・監督
助演女優(ジェーン・アレクサンダー)
編集賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1972年6月17日、ワシントンD.C.。
民主党全国委員会本部のあるウォーターゲート・ビルに、5人の男達が侵入する。
彼らは、盗聴装置を仕掛けようとしていたところを逮捕されてしまう。
当初は、単なる物取り事件程度に考えられていたのだが、犯人の所持金の多さなどから、地元ワシントン・ポスト紙の新人記者ボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)は、上司ハリー・M・ローゼンフェルド(ジャック・ウォーデン)に呼び出されて取材に向かう。
ベテラン記者カール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)も、その事件に興味を示していた。
ウッドワードは、進入犯達の情報を得るため法廷に向かうが、元CIAのジェームズ・W・マッコードと、キューバ系市民4人の犯人には、既に弁護人が雇われていた。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
1972年6月17日、ワシントンD.C.。
民主党全国委員会本部のあるウォーターゲート・ビルに、5人の男達が侵入して逮捕される。
単なる物取り程度に考えられていた事件だったが、”ワシントン・ポスト”の新人記者ボブ・ウッドワードは、上司ローゼンフェルドから呼び出されて取材に向かい、ベテラン記者カール・バーンスタインもその事件に興味を示す。
ウッドワードは侵入犯達の情報を入手しようとするのだが、元CIAのマッコードを含むキューバ系市民4人の犯人には、既に弁護人が付き、更に彼らが大統領再選本部の対策委員だということが分かる。
社に戻ったウッドワードは、ローゼンフェルドに情報を示し、取材の継続が決まる。
その後、マッコードの所持品に”ハワード・ハント”という名前と、ホワイトハウスの連絡先電話番号が見つかる。
その連絡を受けたウッドワードは、ハントについて調査をした結果、彼もCIAに在籍していたことが分かる。
局長のシモンズは、重大な政治記事だと判断し上席記者に担当させようするのだが、ローゼンフェルドはウッドワードの熱意を買い、彼に取材させるよう局長を説得する。
バーンスタインは、ウッドワードが記事を書き始めたことを知り、それに手を加え始める。
ウッドワードはバーンスタインに意見するものの、彼の記事を読んで納得し、2人は協力し合うことになる。
しかし、書き上げた記事は主幹ブラッドリーに裏づけ不足を指摘され、2人の取材は行き詰ってしまう・・・。
__________
● 突然の衝撃
2005年5月31日。
世界中のメディアが一斉報道した、ある記事の内容は衝撃的なものだった。
日本の新聞紙上でもトップを飾ったその記事により、何と33年ぶりにアメリカの事件報道最大の謎が解けたのだ。
その報道とは。
アメリカの現職大統領(リチャード・ニクソン)が、唯一辞任に追い込まれた”ウォーターゲート事件”(1972)で、その事件を暴いたワシントン・ポストの記者ボブ・ウッドワードの情報源”ディープ・スロート”が、当時のFBIのNo.2だったマーク・フェルト元副長官だったことが本人の証言で明らかになったのだ。
*(マーク・フェルトは2008年12月18日死亡)
*参考
マーク・フェルトの権力との戦いを描いた「ザ・シークレットマン」(2017)
● 私がこの作品を初めて観たのは...
高校生の私は、難解な内容に困惑しつつも、事件の重要性を考え必死に理解しようとした。
自分自身の事件に対する認識不足から、電話取材等で登場する人物名の多さに戸惑った。
大事になることを徐々に感じさせる、アラン・J・パクラの緊迫感溢れる巧みな演出がなければ、観るに耐えなかったかもしれない。
また、難解な内容に加え、画面(オフィス)の白さで字幕が読み難かったことを思い出す。
● その後に、本作を観直してみた感想
派手なアクションも劇的な展開もなく、取材を続けるバーンスタインとウッドワード両記者の努力と苦悩を坦々と描くストーリー、主人公を含め共演者の演技は素晴らしい。
今見ても古臭さを感じさせない、セクションごとに色分けされている垢抜けたオフィスのセット、地味な作品の中で、異常に響くタイプライターの音やメモ用紙に走り書きするクローズアップの効果など、作品完成度の高さも注目だ。
思うように取材が進まず苛立つ主人公の気持ち、悶々とする雰囲気を見事に表現した、デヴィッド・シャイアの音楽も印象に残る。
第49回アカデミー賞では、作品賞をはじめ8部門でノミネートされ、ジェイソン・ロバーズの助演男優賞、脚色、美術、録音賞も受賞した。
・ノミネート
作品、監督
助演女優(ジェーン・アレクサンダー)
編集賞
● 事件の意義
結局、事件のキーマンである”ディープ・スロート”マーク・フェルトが、情報を流した理由は謎のままだが、これが、アメリカ史上に残る大事件だったことには間違いない。
この報道やドラマ作成に挑んだ人々は、憲法に保障される報道の自由を基に巨大権力からの圧力の中、唯一社、事件を報道し続けた結果、最高栄誉ピューリッツァー賞を受けて、事件の余韻が冷めやらない間に映画化した勇気で、アメリカの正義を証明したのだ。
● 付け加えると...
劇中、ウッドワードの愛車ボルボ122Sが、周りに惑わされない異端児的イメージを強調している。
バーンスタイン役のダスティン・ホフマンはヘアスタイルも本人風で、いかにも役に入れ込む彼らしい熱演を見せる。
また、記者としてはベテランであるバーンスタインが、タイプライターをブラインドタッチで、新米ウッドワードは人差し指打ちする場面など細かな演出も興味深い。
1973年4月30日、ウォーターゲート事件関与について、国民に演説するニクソン大統領を見つめるバーンスタイン(上)とウッドワード
● 原題の言うべきところ
原題”ALL THE PRESIDENT’S MEN”は、”大統領の取巻き.・・”という単純な意味ではない。
マザーグースで育った人ならご存じでしょう、塀から落ちる卵”Humpty Dumpty”の一節(”..all the king’s men”)を基にしている。
”大統領の側近が、どんなにもみ消し工作をしても、失脚したニクソン大統領を元に戻せない”という、ユーモアと皮肉を込めた見事なタイトルが、単なるサスペンス映画的な邦題となってしまっているのは残念だ。
また、主人公と共に、時代のキーとなる事件を追っていく映画「フォレスト・ガンプ」(1994)では、主人公ガンプがニクソン大統領から中国とのピンポン外交の功績を称えられる場面で、大統領から宿泊を勧められたホテルで、疑惑の発端となる”ウォーターゲートビル(民主党本部)侵入事件”を目撃する。
世紀の大スクープの予感を感じ、部下(バーンスタインとウッドワード)を厳しくまたは温かく見守る主幹ベン・ブラッドリー役ジェイソン・ロバーズ、同じく上司ハリー・M・ローゼンフェルド役ジャック・ウォーデン、ハワード・シモンズ役マーティン・バルサム、主人公二人に情報を流すジェーン・アレクサンダー、ほとんど表情が見えないディープ・スロート役のハル・ホルブルック、再選委員ネッド・ビーティ、再選委員会経理主任ヒュー・ W・スローンJr.のスティーブン・コリンズ、再選委員名簿を調達する主人公の同僚リンゼイ・クローズ、侵入犯を逮捕する警官の役でまだ無名時代のF・マーリー・エイブラハムも出演している。