1937年に上演されたミクロス・ラズロの舞台劇”Parfumerie”を基に製作された作品。 文通で良好な関係であった男女がそれを知らずに同じギフト・ショップで働く恋の行方を描く、製作、監督エルンスト・ルビッチ、主演マーガレット・サラヴァン、ジェームズ・スチュワート、フランク・モーガン、ジョセフ・シルドクラウト他共演によるロマンチック・コメディの秀作。 |
・ジェームズ・スチュアート / James Stewart / Pinterest
■ スタッフ キャスト ■
監督:エルンスト・ルビッチ
製作:エルンスト・ルビッチ
原作:ミクロス・ラズロ”Parfumerie”
脚本
サムソン・ラファエルソン
ベン・ヘクト(クレジットなし)
撮影:ウィリアム・H・ダニエルズ
編集:ジーン・ルッジエロ
音楽:ウェルナー・R・ハイマン
出演
クララ・ノヴァック:マーガレット・サラヴァン
アルフレッド・クラリック:ジェームズ・スチュワート
ヒューゴ・マトチェック:フランク・モーガン
フェレンツ・ヴァダシュ:ジョセフ・シルドクラウト
フローラ・カチェック:サラ・ヘイデン
ピロヴィッチ:フェリックス・ブレサート
ペピ・カトーナ:ウィリアム・トレイシー
イローナ・ノヴォトニー:イネツ・コートニー
ルディ:チャールズ・スミス
探偵:チャール・ズホルトン
アメリカ 映画
配給 MGM
1940年製作 99分
公開
北米:1940年1月12日
日本:1947年8月12日
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
ハンガリー王国、ブダペスト。
35年間もの間ヒューゴ・マトチェック(フランク・モーガン)が営業を続けるギフト・ショップが開店を待つ。
ある朝、店員のピロヴィッチ(フェリックス・ブレサート)、雑用係のペピ・カトーナ(ウィリアム・トレイシー)、店員フローラ・カチェック(サラ・ヘイデン)、イローナ・ノヴォトニー(イネツ・コートニー)、見習いから9年間勤め販売主任になったアルフレッド・クラリック(ジェームズ・スチュワート)、伊達男の店員フェレンツ・ヴァダシュ(ジョセフ・シルドクラウト)が店の前に姿を現す。
前日の夜、クラリックがマトチェックの食事会に招待されたため、彼はその様子について同僚達から質問される。 ヴァダシュはマトチェック夫人のことを気にし、食事のことなどを聞かれクラリックは、食べ過ぎて気分が悪いために苛立つ。 そこにマトチェックがタクシーで現れ、入り口は開けられて開店する。 在庫チェックをしていたクラリックは、新聞広告をきっかけにして、”私書箱237”のある女性と文通していることをピロヴィッチに知らせる。 マトチェックに呼ばれたクラリックは、”黑い瞳”のオルゴール付のタバコ・ケースの仕入れについて意見を求められる。 クラリックは、タバコを吸う度に”黑い瞳”を聴かされる身になれば苦痛であり、粗悪品であると指摘して仕入れに反対する。 取引先からの電話を受けたマトチェックは苛立ち、オフィスに向かってしまう。 そこに、マトチェックに面会したいという職を求める女性クララ・ノヴァック(マーガレット・サラヴァン)が現れる。 客だと思い対応したクラリックだったが、クララから事情を聞きそれを断る。 仕事がなく困っているクララは食い下がり、そこに現れたマトチェックが、彼女を客だと思い話しかける。 しかし、クララが職を探していると知ったマトチェックは、それは無理だと言ってオフィスに戻る。 ショックを受けるクララを優先的には雇うと言って住所を聞いたクラリックは、マトチェックに呼ばれる。 自分に恥をかかせたことでクラリックを注意したマトチェックは、昨晩の食事会の件などを話し始め、妻が気に入っている様子であることを彼に伝える。 そこにヴァダシュが現れ、タバコ・ケースを買おうとしている客がいたため、マトチェックに価格を確かめる。 タバコ・ケースを見ていたのはクララで、クラリックが再度、雇用を断ろうとする。 マトチェックはそれを制止し、クララにタバコ・ケースについて率直な意見を聞く。 ロマンチックで素敵だと言うクララは、値段を聞きその安さに驚く。 それを聞いていた客の婦人がケースに興味を示したため、クララは店員を装い彼女に歩み寄る。 膨よかな婦人はそれをキャンディ・ケースだと思い、開いて音楽を聴くと、食べる度にこれを聴かされるかと思うと嫌になると言って興味を失う。 それを様子を見てクラリックは苦笑いし、マトチェックとクララは困惑する。 諦めないクララは、音楽がキャンディの食べ過ぎの防止になると言って婦人を納得させ、マトチェックの決めた値段より高い値段で販売することに成功する。 6か月後、クリスマス・シーズン。 そんなクラリックは、文通相手は素晴らしい女性なのだが、怖くて一度も会っていないとピロヴィッチに伝える。 実はその夜に相手と会う約束をしていたクラリックは、目印が彼女は”アンナ・カレーニナ”の本で、自分が襟に一輪のカーネーションだと教えて不安を語る。 そこに、タクシーに乗り大金を持ったヴァダシュ、それに続きマトチェックが現れる。 マトチェックは窓が汚れていることを指摘し、残業してショー・ウィンドーの飾りつけをするよう店員達に指示する。 予定があるクラリック、そしてクララも大事な用があるために焦ってしまう。 その後マトチェックは、金遣いが荒くなった妻を不審に思い苛立っていた。 そこに現れたクラリックは、最近のマトチェックの態度について意見するものの、真剣に話を聞いてもらえずに我慢の限界を感じる。 倉庫に向かったクラリックは、未成年のペピには残業の必要がないと伝える。 その場にいたクララは、自分の夜の予定を考えてクラリックの機嫌をとろうとする。 休戦気味になったところで、残業をせずに帰る許可を得ようとしたクララだったが、クラリックは、自分にお世辞を言ったことが企みだったことに気づき彼女を非難する。 口論になったクララは、マトチェックに残業をしなくてもよいか尋ねる。 マトチェックは、クララがいなくても人員が足りるかをクラリックに確認する。 ところが、クラリックまで帰りたいと言い出したためにマトチェックは憤慨し、彼は接客までしながら店員達を非難する。 クラリックはマトチェックの態度を受け入れられず、辞職を口にする。 そこに妻からの電話を受けたマトチェックは、1000ペンゲーをペピに届けさせようとするが、彼は配達に出ていた。 ピロヴィッチから、クラリックと共に昼食時に届けると言われたマトチェックはそれを断り、ヴァダシュにそれを任せる。 その日の夕方、マトチェックに呼ばれたクラリックは解雇されてしまい、給料と推薦状を受け取る。 ショックを受けたクラリックは、マトチェックの自分を高く評価する推薦状をピロヴィッチらに読んで聞かせ、9年間勤めた店を去ろうとする。 気を遣うピロヴィッチの前で女性に会う目印のカーネーションを捨てたクラリックは、とても相手に会う気になれないことを伝える。 売上台帳と鉛筆やロッカーの鍵を置いたクラリックは、同僚達に別れを告げる。 クラリックは、クララにも同情されながら店を後にし、マトチェックは探偵からの連絡を受ける。 マトチェックに帰っていいと言われたクララは慌てて家に向かい、ピロヴィッチはクラリックの様子を見に行こうとする。 ピロヴィッチは、クラリックを解雇したマトチェックに意見するが、同じことになりたくなければ帰るようにと言われる。 店員が帰った後、現れた探偵(チャール・ズホルトン)から妻の浮気調査の報告を受けたマトチェックは、その相手がヴァダシュだと知らされる。 ショックを受けたマトチェックは拳銃自殺を図るが、店に戻ったペピが気づきそれを制止する。 ピロヴィッチに付き添われて待ち合わせのカフェに向かったクラリックは、女性に手紙だけを渡してほしいと頼む。 カフェを覗いたピロヴィッチは、相手の女性がクララに似ているとクラリックに伝える。 間違いなくクララだと言われ女性を確認したクラリックは、文通の相手が彼女だったことでショックを受け、ピロヴィッチに別れを告げてその場を去る。 暫くして、クララが気になったクラリックはカフェに戻り、ピロヴィッチと待ち合わせている振りをして彼女に話しかける。 クラリックは、迷惑に思うクララが手紙の自分には惹かれていることを確認しながら、彼女に探りを入れる。 手紙のクララは素敵な女性であるため、クラリックはそれを確かめようとする。 しかし、クララはクラリックが眼中にないため、二人は口論になり、彼がO脚だという噂などで言い争う。 クララは、クラリックが小さな店の単なる店員だと言い放ち、傷ついた彼はその場を去る。 その後、ペピからの連絡を受けたクラリックは病院に向かい、神経を病み入院したマトチェックを見舞う。 マトチェックは、妻との関係を疑ったことでクラリックに謝罪し、彼に店を任せてマネージャーにすることを伝える。 店の鍵を受け取ったクラリックは、ことを荒立てないようにヴァダシュを解雇するようにとマトチェックに指示される。 クラリックが店に戻ったことで、ヴァダシュを含め店員は喜び、ペピは自分の意思で使用人から店員になってしまう。 ペピは、自分の代わりの使用人を派遣するよう職業斡旋所に電話をする。 ピロヴィッチらはその態度に驚くのだが、ペピは、自分がいなければマトチェックは自殺し、皆失業したと自慢げに話す。 クラリックはヴァダシュを呼び、彼を解雇して店から追い出す。 カフェに相手が来なかったことで寝込んでしまっていたクララは、私書箱237に手紙も届かないことを気にする。 店に向かったクララは、クラリックが復帰してマネージャーになったことが信じられず、それが事実だと知り驚いて失神してしまう。 その後、クラリックは家で静養するクララを見舞い、相手から届いた手紙を渡され元気が出た彼女を見て安心する。 相手はカフェに来たのだが、自分とクラリックを恋人同士だと思い店に入らなかったのだということをクララは話す。 自分が書いた自分を褒める言葉に照れるクラリックは、繊細で表現力の違う相手とは全く違うとクララに言われてしまう。 売れ残ったタバコ・ケースを相手に贈ると言い張るクララに反論し、クラリックは財布を贈るべきだと意見するが、それが聞き入れられないためその場を去る。 クリスマス・イヴ。 クラリックはマトチェックの様態が良いことを店員に伝え、忙しくなるだろう営業に励むことを指示し、病み上がりのクララを気遣う。 イヴを文通相手と過ごすことをピロヴィッチに伝えたクララは、週明けに出勤した時には指輪をしているかもしれないと伝える。 ピロヴィッチは、タバコ・ケースを贈ると言うクララに、もらっても嬉しくないものを叔父に贈ろうと、自分が売れ残っていたケースを買うつもりだったことを伝える。 クララは財布を贈ることを勧められ、彼女が納得した姿を見たピロヴィッチは、財布をもらえることをクラリックに知らせる。 その夜。 閉店後、28年ぶりの大きな売り上げに喜ぶマトチェックは、自分が回復したのは皆のお蔭だと言って店員達に感謝する。 マトチェックは店員達にボーナスを渡し、度々厳しいことを言ったピロヴィッチに謝罪し、新入りのルディにも小遣いを渡す。 クラリックを食事に誘ったマトチェックは、彼には約束があることを知り、それぞれ店員達に声をかけて別れる。 ルディに小遣いのことで感謝されたマトチェックは、彼が独りでイヴ過ごすことを知り食事に誘う。 イローナに選んだ財布を褒めれたクララは、気分を良くしながらそれを包装する。 そこに現れたクラリックに、結局は忠告に従ったことを伝えたクララは、彼が相手に贈るネックレスを見せられ、その美しさに驚く。 クララは、初めて会った頃に、反目し合いながらもクラリックに恋したことを伝え、彼は混乱してしまう。 二人とも週明けには婚約しているかもしれないというクララに、自分はその確信があるとクラリックは伝える。 それがなぜかを問うクララに、文通相手が自分に会いに来たとクラリックは答える。 クラリックと自分の関係を疑っていたという相手が、そんなタイプの男性ではないと伝えたクララは、間違いなく結婚できる言われる。 良い雰囲気の男性だと言って、クラリックは相手のことを色々話す。 興味津々のクララに、相手がが失業中ではあるが彼女の給料で暮らすつもりらしいこともクラリックは伝える。 自分の給料を当てにする酷い相手だと知ったクララは怒りがこみあげ、自分への手紙の言葉も本からの引用だと知り彼女は傷つく。 幻想を抱いていたと言うクララの失意の表情に、自分のせいだとクラリックは謝罪する。 クララを慰めるクラリックは、彼女を訪ねるのが相手ではなく自分であったならばと伝える。 耐え切れなくなったクラリックは、愛しいクララを抱き寄せて”私書箱237を開けてキスしてほしい”と告げる。 クラリックは、驚くクララの目の前で襟にカーネーションをつけ”親愛なる友よ”という手紙の出だしを呟く。 クララはクラリックが手紙の相手だと気づき、失望したかと聞かれて失神しそうになる。 混乱していると言うクララは悪い気はしないと答え、カフェの際の無礼を謝罪する。 クララは、証拠もなしにO脚だと言って馬鹿にしたことを話始め、それをその場で証明したかったとクラリックは答える。 ズボンを上げて見せてほしいとクララに言われたクラリックは、彼女の指示に従う。 それを確認したクララは微笑み、クラリックと固く抱き合う。
...全てを見る(結末あり)
開店を待つクラリックは、マトチェックとの関係が悪化していることを気にし、店員になっていたクララとは意見が合わない日々が続いていた。
ペピは、新入りの使用人の少年ルディー(チャールズ・スミス)に仕事を命ずる。
店は買い物客で溢れ、退院したマトチェックは、雪の降る中、その様子を窓越しに確認して満足する。
*(簡略ストー リー)
ハンガリー王国、ブダペスト。
35年間営業を続けるマトチェックのギフト・ショップは、見習いから販売主任になったアルフレッド・クラリックを含め6人の定員らで営業していた。
ある日、職を求めて現れたクララ・ノヴァックは、クラリックにそれを断られるものの、マトチェックが仕入れようとしていたタバコ・ケースを見事に販売したため店員として採用される。
6か月後、反りの合わないクラリックとクララは意見が対立する日々を送っていたが、一方、二人は互いに文通相手がいて、そちらの関係は良好であった。
そんな時マトチェックは、浮気をしている妻の相手がクラリックだと疑い、関係が悪化していた彼を解雇してしまう。
クラリックは、失意のまま文通相手に会うため待ち合わせ場所のカフェに向かうのだが、その場にいた女性はなんとクララだった・・・。
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ごく普通の庶民感覚や心の触れ合いを、巧みな脚本によりユーモア、涙、そしてシニカルに表現する、エルンスト・ルビッチの絶妙の演出が冴える珠玉の名作。
批評家の評価はほぼ満点に近く、アメリカ国民並びに世界中の映画ファンに愛される作品。
1999年、アメリカ議会図書館が、国立フィルム登録簿に登録した作品でもある。
1940年に、ジュディ・ガーランドとヴァン・ジョンソン共演によりミュージカル版リメイク「グッド・オールド・サマータイム」が公開された。
さて、問題の邦題「桃色(ピンク)の店」に疑問を持った方も多いと思うが、小さな店の中で起きる恋物語、更には店主の妻と店員の不倫など、1940年当時の日本では男女の関係や交渉を”桃色”と表現することがあったということで、このようなタイトルになったのだろう。(日本公開1947年)
現在でも酷い邦題が多々あるが、日本人のイマジネーションの欠如が伝統であることの証明だろう。
映画という文化が製作後も何十年、それ以上続くと考えていればこのような邦題はつけないはずで、原題そのままの「街角の店」で何の問題もない。
1998年には、製作、監督、脚本ノーラ・エフロン、トム・ハンクス、メグ・ライアン共演により、手紙が現代風にEメールに置き換えられた「ユー・ガット・メール」がリメイクされた。
「ユー・ガット・メール」は大ヒットしたのだが、本作をオマージュ的に再現している程度に留まり、それほど評価されなかった。
しかし、エルンスト・ルビッチに敬意を表してか、彼の独特のスタイル”ルビッチ・タッチ”を意識している場面が多々あり、特に、主人公二人の表情だけで感情を伝える描写などでそれが感じられる。
本作でも当然それは生かされ、マーガレット・サラヴァンとジェームズ・スチュワートの視線や表情などを注意していると、彼女らが演ずる役柄の厚みが増してくるところに注目したい。
ヘンリー・フォンダ、ウィリアム・ワイラー、そして当時はプロデューサーのリーランド・ヘイワード夫人であった小柄なマーガレット・サラヴァンの愛らしさが印象的で、既にヨーロッパが戦火に包まれていた時代、どれだけの人々の心を癒しただろうか。
他の役者に比べると際立つ長身、温厚な青年風に見えても、彼らしい我を張る役柄をきっちりと演ずるジェームズ・スチュワートの熱演も素晴らしい。
彼は同年「フィラデルフィア物語」(1940)でアカデミー主演賞を受賞する。
前年「オズの魔法使」(1939)でオズの魔法使や占い師の教授を演じたフランク・モーガンは、をそれ以上の怪演を見せ、神経質なギフト・ショップのオーナーをいい味で演じている。
数々の名画に出演し「アンネの日記」(1959)ではアンネ・フランクの父親オットー・フランクを演じた名優ジョセフ・シルドクラウトが、店主の妻と不倫する伊達男の店員を、他の店員サラ・ヘイデン、フェリックス・ブレサート、イネツ・コートニー、使用人から店員になるウィリアム・トレイシー、使用人の少年チャールズ・スミス、探偵チャール・ズホルトンなどが共演している。