日本生まれのイギリス人作家カズオ・イシグロが1989年に発表した同名小説の映画化。 心通わせることが出来なかった同僚の女性と過ごした日々が人生で最も幸せだったことに気づく執事の叶わぬ恋を描く、製作マイク・ニコルズ、監督ジェームズ・アイヴォリー、主演アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、ジェームズ・フォックス、クリストファー・リーヴ、ヒュー・グラント他共演のドラマ。 |
・ドラマ
■ スタッフ キャスト ■
監督:ジェームズ・アイヴォリー
製作
マイク・ニコルズ
ジョン・キャリー
イスマイール・マーチャント
原作:カズオ・イシグロ
脚本:ルース・プローワー・ジャブバーラ
撮影:トニー・ピアース=ロバーツ
編集:アンドリュー・マーカス
美術・装置
ルティアナ・アリッギ
イアン・ホイッテカー
衣装デザイン
ジェニー・ビーヴァン
ジョン・ブライト
音楽:リチャード・ロビンス
出演
ジェームズ・スティーヴンス:アンソニー・ホプキンス
サラ”サリー”ケントン:エマ・トンプソン
ダーリントン卿:ジェームズ・フォックス
トレント・ルイス:クリストファー・リーヴ
ウィリアム・スティーヴンス:ピーター・ヴォーガン
カーディナル:ヒュー・グラント
スペンサー:パトリック・ゴッドフリー
チャーリー:ベン・チャップリン
リジー:レナ・ヘディ
トーマス・ベン:ティム・ピゴット・スミス
デュボン・ディブリー:マイケル・ロンズデール
ドイツ大使:ヴォルフ・カーラー
チェンバレン首相:フランク・シェリー
イギリス/アメリカ 映画
配給 コロンビア・ピクチャーズ
1993年製作 134分
公開
イギリス:1993年11月12日
北米:1993年11月5日
日本:1994年3月
製作費 $15,000,000
北米興行収入 $22,954,970
■ アカデミー賞 ■
第66回アカデミー賞
・ノミネート
作品・監督
主演男優(アンソニー・ホプキンス)
主演女優(エマ・トンプソン)
脚色・美術・衣装デザイン賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1950年代半ば、イングランド。
広大な土地と屋敷を所有していたダーリントン卿(ジェームズ・フォックス)が亡くなり、屋敷”ダーリントン・ホール”が競売にかけられる。
アメリカ人の政治家で富豪のトレント・ルイス(クリストファー・リーヴ)がそれを買い取り、かつての使用人も殆ど去ってしまう。
ある日、執事のジェームズ・スティーヴンス(アンソニー・ホプキンス)の元に、屋敷で働いていたサラ・ケントン(エマ・トンプソン)からの便りが届く。
ルイスに休暇をもらったスティーヴンスは、ケントンの元を訪ねようとして、彼女が屋敷にやってきた日のことを思い出す。
__________
20年前。 ケントンは、スティーヴンスの父親ウィリアム(ピーター・ヴォーガン)と共に、屋敷に採用されることになる。 スティーヴンスは、使用人達に、品格を持って働くよう厳しく教育する。 そんな中、スティーヴンスの父ウィリアムの名前の呼び方や、彼のミスを指摘するケントンと、スティーヴンスの意見が食い違い始める。 そして、ケントンの心配が現実となり、ウィリアムは客人を招いていたダーリントン卿の前で失態をしてしまう。 スティーヴンスは、ダーリントン卿からウィリアムの仕事を減らすように指示される。 已む無く、スティーヴンスは、父ウィリアムにそれを告げるのだが、50年以上執事を続けてきた彼は、意地を張ろうとする。 それを考慮したスティーヴンスは、ウィリアムのプライドを傷つけぬように配慮しながら、屋敷で行われる重要な会議に備え準備を始める。 自分が名付け親でもある、甥で新聞記者のカーディナル(ヒュー・グラント)を秘書官に、ダーリントン卿は、各国要人を屋敷に迎えて会議を始める。 第一次大戦後の、ドイツ復興の鍵を握る再軍備に賛成するダーリントン卿に対し、アメリカ代表のルイス下院議員は、それを阻止しようとする。 ルイスは、フランス人のデュボン・ディブリー(マイケル・ロンズデール)を説得しようとする。 そんな時、下働きをさせられていた、スティーヴンスの父ウィリアムが倒れてしまう。 会議を締める晩餐の場で、ドイツの再軍備を指示する決定を、ルイスは一人非難する。 会場内に緊張が走る中、スティーヴンスは、父ウィリアムが息を引き取ったことをケントンから知らされる。 スティーヴンスを気遣ったケントンは、仕事場を離れるわけにはいかない彼の代わりに、ウィリアムの世話をする。 接客も終わり、父ウィリアムの亡骸と対面したスティーヴンスは、尚も気丈に振舞う。 その後ダーリントン卿は、ドイツ人を使用人として雇い、ナチス擁護派を屋敷に招き入れる。 そしてダーリントン卿は、ユダヤ人のメイドを解雇するようにスティーヴンスに命ずる。 ケントンはそれを非難し、仕事上ではスティーヴンスの支えでもある彼女は、メイドを解雇するならは、自分も辞めることを伝える。 結局、ケントンはそれを思い止まり屋敷に残り、ダーリントン卿は、次第に自分の政治的方向性に疑問を抱き始める。 ダーリントン卿は、解雇したユダヤ人のメイドを捜すようにスティーヴンスに指示する。 それをケントンに伝えたスティーヴンスだったが、今更心を痛めていたという彼に、どうして本心を隠そうとするのかを、ケントンはスティーヴンスに問い質す。 感情を抑え、真意を人に伝えようとしないスティーヴンスだったが、彼がメイドのことを気にしていたことを知ったケントンは、スティーヴンスの優しさの一面を見て、好意を抱き始める。 ケントンが育てたメイドのリジー(レナ・ヘディ)が、同じ使用人のチャーリー(ベン・チャップリン)と結婚を決めたために、仕事を辞めることになる。 ケントンは、まだ若い二人の行く末を心配するが、仕方なくそれを許す。 休暇をとったケントンは、かつての職場仲間トーマス・ベン(ティム・ピゴット・スミス)との時を過ごし、彼から求婚されてしまう。 それをスティーヴンスに伝え、意見を求めたケントンだったが、彼は心乱すこともなくそれを聞き入れるだけだった。 その日は、チェンバレン首相(フランク・シェリー)やドイツ大使(ヴォルフ・カーラー)などを招いた重要な会合が、屋敷で開かれていた。 そんな中、休日のケントンが屋敷に戻り、ベンの求婚を受け入れたことをスティーヴンスに伝える。 しかし、スティーヴンスは、儀礼的に祝いの言葉を述べただけで、仕事に戻ってしまう。 屋敷に来ていたカーディナルは、ダーリントン卿の過ちを止めたいという意見をスティーヴンスに伝えるが、彼はそれにも答えを返さない。 仕事を終えたスティーヴンスに、ケントンは結婚の話を気にしないようにと話しかける。 スティーヴンスは素っ気無い返事をするだけで、自分の思いが伝えられずに泣き崩れるケントンを見ても、翌日の仕事のことを語るだけだった。 20年振りに再会したスティーヴンスとケントンは、名誉棄損で訴えを起こして新聞社に敗訴し、塞ぎこんで余生を送ったダーリントン卿のことなどを語り合う。 現在はルイスに仕える身のスティーヴンスは、使用人が殆ど去ってしまったことをケントンに伝え、彼女が仕事に復帰することを望む。 ケントンもその気だったのだが、彼女には孫が生まれることになり、スティーヴンスの要請を断る。 そして二人は、人生には、悔いが残ることがあると理解しながら別れを告げる。 屋敷に戻ったスティーヴンスは、ルイスの妻を迎えるための準備を、普段通り手際よく進める。
ほぼ完璧な紹介状を持参したケントンだったが、異性の使用人同士の問題を避けたいスティーヴンスは、彼女の若さを心配する。
...全てを見る(結末あり)
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*(簡略ストー リー)
由緒あるイギリス貴族ダーリントン卿が亡くなり、その邸宅”ダーリントン・ホール”は、アメリカ人の富豪ルイスの手に渡る。
長年ダーリントン卿に仕えた執事ジェームズ・スティーヴンスは、かつて屋敷で働いていた、ケントンからの手紙を受け取る。
スティーヴンスは、主人のルイスに休暇をもらい、ケントンを訪ねることを考えながら、彼女が屋敷にやって来た20年前のことを思い起こす・・・。
スティーヴンスは、ほぼ完璧な紹介状を持参したケントンを、女中頭として雇い入れるが、その若さを心配する。
主人のダーリントン卿は、ナチスが台頭するヨーロッパ情勢を見定め、その擁護派として影響力を持っていた。
やがて、ダーリントン卿は、ユダヤ人の使用人を解雇するようスティーヴンスに命ずるが、勝気なケントンはそれを批判する。
その後、心を入れ替えたダーリントン卿は、解雇した者達を捜すことをスティーヴンスに指示する。
その一件に心を痛めていたスティーヴンスの気持ちを察したケントンは、彼に親しみを感じ心を寄せるようになる。
スティーヴンスは、ケントンの気持ちに気づく気配も見せずに彼女に接する。
そんな時、ケントンは使用人ベンに求婚されてしまう。
心乱れたケントンは、スティーヴンスにそれを告げるのだが・・・。
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原作者カズオ・イシグロはこの作品で、イギリス文学界最高の栄誉であるブッカー賞を受賞している。
前年の「ハワーズ・エンド」(1992)のスタッフに、同じく主演の二人アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソン他を加えた、ジェームズ・アイヴォリーらしい、重厚さの中にしっとりとした雰囲気と、流れるような描写が心惹く作品。
第66回アカデミー賞では作品賞はじめ8部門にノミネートされるものの、受賞はならなかった。
・ノミネート
作品、監督
主演男優(アンソニー・ホプキンス)
主演女優(エマ・トンプソン)
脚色、美術、衣装デザイン、作曲賞
貴族の屋敷内の執事と使用人の悲恋を描いたドラマではあるが、舞台となる古城では、第二次大戦に突入するきっかけとなる会議が開かれていくところなどは、当時の世界情勢が緊迫感と共に描かれている。
世界の運命を決するような、裏工作と言える会合や交渉に、利用され迫害され、家系まで途絶えるえてしまう貴族の姿も哀れだ。
一糸乱れぬ装い、気難しい中に気品漂う雰囲気で登場するアンソニー・ホプキンスが、使用人仲間の女性の出現で、微妙に心乱れるていくあたりの演技には唸らされる。
「ハワーズ・エンド」(1992)でアカデミー主演賞を受賞し、本作でもノミネートされたエマ・トンプソンは、気丈な女性ながら、幸せを掴めぬまま人生に妥協する女性を、見事に演じている。
結果的に利用され、ナチスのシンパと言われながら不遇な人生を送ることになる古城の主人ジェームズ・フォックス、彼の過ちを正そうと意見し、結局はその古城の主となるクリストファー・リーヴ、主人公の父で老執事のピーター・ヴォーガン、おじ(J・フォックス)の親ナチス政策に疑問を感じるヒュー・グラント、使用人ベン・チャップリンとレナ・ヘディ、ケントン(E・トンプソン)と結婚する使用人ティム・ピゴット・スミス、会議の出席者としてマイケル・ロンズデールも出演している。