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三十九夜 The 39 Steps (1935)

1915年に発表された、ジョン・バカンの冒険小説”三十九階段”を基に製作された作品。
国家秘密を奪おうとするスパイ戦に巻き込まれた男が協力者と共に疑惑を晴らすまでを描く、監督アルフレッド・ヒッチコック、主演ロバート・ドーナットマデリーン・キャロルルーシー・マンハイムゴッドフリー・タールペギー・アシュクロフト他共演のサスペンスの傑作。

アカデミー賞 ■ ストーリー ■ 解説


ドラマ(サスペンス/犯罪)

アルフレッド・ヒッチコック Alfred Hitchcock 作品一覧
アルフレッド・ヒッチコック / Alfred Hitchcock / Pinterest


スタッフ キャスト ■
監督:アルフレッド・ヒッチコック

製作
マイケル・バルコン

イヴォール・モンタギュー
原作:ジョン・バカン三十九階段
脚本
チャールズ・ベネット

アルマ・レヴィル
イアン・ヘイ
撮影:バーナード・ノウルズ
編集:デレク・トゥイスト
音楽
ルイス・レヴィ

ジャック・ビーヴァー

出演
リチャード・ハネイ:ロバート・ドーナット

パメラ:マデリーン・キャロル
アナベラ・スミス:ルーシー・マンハイム
ジョーダン教授:ゴッドフリー・タール
マーガレット:ペギー・アシュクロフト
ジョン:ジョン・ローリー
”シェリフ”ワトソン:フランク・セリア
ルイーザ・ジョーダン:ヘレン・ヘイ
ミスター・メモリー:ワイリー・ワトソン

イギリス 映画
配給 Gaumont British Distributors
1935年製作 86分
公開
イギリス:1935年6月6日
北米:1935年8月1日
日本:1936年3月5日
製作費 £60,000


*詳細な内容、結末が記載されています。
ストーリー ■
ロンドン
カナダから帰国したリチャード・ハネイ(ロバート・ドーナット)は、あるミュージック・ホールに入る。

ステージに立つ図抜けた記憶力を持つミスター・メモリー(ワイリー・ワトソン)は、客の質問を受ける。

ハネイも質問する中、場内は騒がしくなり喧嘩が始まる。

その時、銃声が鳴り響いたためその場はパニックとなり、観客は出口に殺到して混乱する。

外に出たハネイはアナベラ・スミス(ルーシー・マンハイム)に声をかけられ、連れ帰ってほしいと言われたため彼女と共にバスに乗る。
...全てを見る(結末あり)

数か月借りたアパートの部屋に向かったハネイは、アナベラがフリーである、女優ではなくダンサーに近い職業だと知らされる。

恐ろしい事件の後だけにアナベラは警戒し、かかってきた電話に出ないようにと言ってハネイに頼む。

怯えるアナベラは、ホールでの銃声は自分が撃ったもので、二人の男に命を狙われていたため、その場から逃げ出したかったとハネイに伝える。

まるでスパイ小説のような話だというハネイに、自分が金次第で動くイギリスの国家機密を扱う諜報員だとアナベラは伝える。

ある国の優秀な諜報員が、イギリスの国防に関する情報を狙っていると伝えたアナベラは、彼を追っていた際に気づかれてしまったと話す。

それを信じるはずもないハネイは、外を見てみるように言われ、通りで自分達を監視している二人の男を確認する。

全てを話すしかなくなったアナベラは、”39階段”を知っているかをハネイに尋ね、それを否定する彼に、彼らを阻止できるのは自分だけだと語る。

このままだと数日以内に機密が奪われると言うアナベラは、信じてくれない警察は当てにならず、相手は非常に手強いことを伝える。

小指がない男に出会ったら注意するようにと言われたハネイは、アナベラに食事を与える。

スコットランドハイランド地方で、ある男に会うと言うアナベラは、地図が欲しいと言って詳細は翌日に話すとハネイに伝える。

その後、ソファで眠っていたハネイは、次は自分だと言いながら倒れた、アナベラの背中に刺さったのナイフを見て驚く。

かかってきた電話にでなかったハネイは、通りの男達が電話ボックスにいることを確認し、死んだアナベラの握っていた地図に印がつけられた、”アル・ナ・シェラ”という地名に注目する。

ハネイは、そこである男に会わなければならないと言っていたアナベラの話を思い出す。

外の二人の様子を窺うハネイは、牛乳屋に1ポンドを渡し制服を借りてその場から逃れる。

列車”フライング・スコッツマン”でスコットランドに向かうハネイに気づいた男達だったが、それに乗ることはできなかった。

同席する男性が読む新聞記事で、自分の部屋の殺人事件の捜査が始まったことを知ったハネイは、動揺しながら考えを巡らせる。

警官に気づいたハネイは、個室にいたパメラ(マデリーン・キャロル)に声をかけて恋人を装い、いきなりキスをする。

謝罪したハネイは名を名乗り、無実の罪で追われているが捕まるわけにはいかないとパメラに伝える。

警官に不審者はいないかを聞かれたパメラは、ハネイを引き渡そうとする。

ハネイはその場から逃れ列車の外に出て、隣の部屋に入り食堂車から貨物車に向かう。

フォース鉄道橋”で緊急停車した列車から降りたハネイは身を隠す。

男達はハネイを見つけられずに川に飛び降りたと判断し、列車を出発させる。

殺人犯として指名手配されたハネイは、徒歩である農場にたどり着き、小作人のジョン(ジョン・ローリー)から、牧師館の教授がアル・ナ・シェラに住んでいることを知らされる。

ハネイはジョンの家に泊めてもらうことになり、彼の妻マーガレット(ペギー・アシュクロフト)に迎えられる。

マーガレットと話をして新聞に目を通したハネイは、殺人犯が”フォース鉄道橋”で姿を消し、スコットランドに向かったという記事を確認する。

食事のテーブルに着き、ジョンとマーガレットと共に祈りを捧げたハネイは、彼女が新聞記事を見て動揺したことに気づく。

納屋を見てくると言って外に出たジョンは、ハネイとマーガレットが何かを話している姿を窓から覗きみる。

就寝後、警官の車に気づいたマーガレットはそれをハネイに知らせるが、ジョンは二人の浮気を疑う。

殺人容疑で追われていることをジョンに伝えたハネイは、金を払って匿ってもらおうとする。

ジョンが信用できないと言うマーガレットは、彼が警官に賞金の額を聞いていることを知り、交渉している間にハネイを逃がそうとする。

マーガレットに感謝したハネイは、ジョンのコートを着せられてその場を去る。

夜が明けて、警官に追われながらアル・ナ・シェラに向かったハネイは、ジョーダン教授(ゴッドフリー・タール)の屋敷を訪ねる。

アナベラ・スミスに言われて来たとメイドに伝えたハネイは、屋敷に招かれる。

現れた警官は、不審人物が来なかったかをメイドに尋ねる。

ハネイがアナベラの知人だと知ったジョーダンは、娘の誕生パーティだと言うことを伝え、妻ルイーザ(ヘレン・ヘイ)を紹介する。

ジョーダンは、警官を追い払ったことをハネイに伝える。

招待客は帰り、ジョーダンと話をしたハネイは、何者かに殺されたアナベラが、機密漏洩の件を話していたことを伝え、彼女が敵により抹殺されたことを伝える。

小指のない男に注意しろと言われたことを伝えたハネイは、ジョーダンの右手の小指がないことを知り驚く。

面倒に巻き込んだことをハネイに伝えたジョーダンは、既に情報は入手し、国外に持ち出す準備はできていると話す。

拳銃を渡したら自殺するかをハネイに尋ねたジョーダンは、それに従う気のない彼を銃撃する。

讃美歌集がないことに気づいたジョンは、それがポケットに入っていたコートをマーガレットがハネイに貸したことを知り、憤慨して彼女を殴る。

昼間のジョーダン邸のパーティに出席していた判事”シェリフ”ワトソン(フランク・セリア)の元に向かったハネイは、讃美歌集が弾丸を受けたお蔭で助かり逃げた方法を話す。

協力を約束したワトソンだったが、ジョーダンは親友だと言って、現れた警官に殺人犯のハネイを引き渡す。

その場から逃れたハネイは、身を隠すためにあるホールに入り、その場で行われていた集会の講演者と間違われてしまう。

紹介されてしまったために仕方なくスピーチを始めたハネイは、講演者を連れて現れたパメラに不審に思われる。

パメラは、二人の男にハネイを差し出そうとする。

ハネイのスピーチは支持されるものの、彼は刑事と思われる二人の男に連行されそうになる。

真実を話してきたと言ってパメラを批判したハネイは、国家機密が国外に持ち出されると伝えるが、彼女はそれを信じようとしない。

パメラも同行を求められて車に乗るものの、警察を通り過ぎたために彼女は驚く。

男からインベラリーに向かうと言われたパメラは疑い始め、ハネイは、これから会う相手には小指がないと指摘する。

羊の群れで車が止まった隙に、ハネイとパメラは手錠をかけられながらその場から逃れる。

二人の男の追跡を振り切ったハネイは、彼らが警官でないとパメラに伝える。

尚も何も信じないパメラに、自分に従うよう命じたハネイは、たどり着いたホテルで彼女と夫婦を装い泊まることにする。

ポケットの中に銃があると見せかけたハネイは、嫌がるパメラに宿帳の記帳をさせる。

パメラがホテル主人の妻に全てを話そうとしたため、ハネイは、実は駈け落ちだったために身を隠すことに協力してほしいと言って頼む。

妻はそれに協力することを約束し、二人は運ばれたサンドイッチを食べて休むことにする。

濡れているスカートを脱ぐのを拒んだパメラは、手錠のままストッキングを脱ぎ、それを暖炉で乾かす。

二人は反発し合いながらベッドに横たわり、パメラの爪やすりで手錠を切ろうとするハネイは、自分を信じない彼女に、殺人をはじめあらゆる犯罪に手を染めたと言って話を始める。

不幸な孤児がたどったという人生を話したハネイは、疲れたパメラと共に眠ってしまう。

その頃ジョーダンは、何も心配はいらないと言って、情報と共に国外に脱出すると妻ルイーザに伝えてロンドンに向かう。

暫くして目覚めたパメラは手錠から手を抜き、ハネイのポケットの銃を奪おうとするが、それはパイプだった。

部屋を出たパメラは、自分達を追う男達が来ていることに気づき、彼らが刑事ではないことを知りハネイの言っていたことをようやく信じる。

ジョーダンに連絡していた男は、ハネイが逃亡しているため”39階段”が非常事態だと仲間に話し、ジョーダンが例の男に会うためにロンドンの劇場”パラディウム”に向かうことを伝える。

主人に宿泊客のことを聞く男達だったが、妻が彼らを追い払う。

ハネイに対しての誤解が解けたパメラは、眠っている彼に毛布を掛けて、自分はソファーに寝る。

しかし、寒かったパメラは、結局はハネイの毛布を奪ってしまう。

翌朝、目覚めたハネイは外れた手錠とパイプに気づき、現れた例の男達の会話を聞いて、話を信じることにしたとパメラに言われる。

パメラから、”39階段”が非常事態で、何者かが国外に脱出し、誰かをロンドンの”パラディウム”に迎えに行くと言っていたという男達の話を聞いたハネイは対策を考える。

男達が出て行ったと知ったハネイは、なぜ引き止めなかったと言ってパメラを痛烈に非難する。

ロンドン
スコットランド・ヤード”に向ったパメラは今回の件を話すが、今のところ機密情報が奪われた形跡がないことを知らされる。

ハネイの場所は知らないと言うパメラを、警部は尾行させる。

パラディウム”。
劇場に向かったパメラはハネイを捜し、警官隊も到着して出口を塞ぐ。

席についていたハネイは、隣の客に借りた双眼鏡で、桟敷席の男の小指がないことを確認する。

その場に現れたパメラは、情報の書類は紛失していないことをハネイに伝える。

頭に残っていた音楽が流れたため、事件のミュージック・ホールで聞いた曲だということを思い出したハネイは、その時の出演者ミスター・メモリーがステージに上がっていることに気づく。

ミスター・メモリーが桟敷席のジョーダンに向い頷く姿を確認したハネイは、彼が情報を記憶して国外に脱出するため、書類は奪う必要がないことに気づく。

警官に呼ばれたハネイは、それを話そうとするものの信じてもらえそうもないため、ミスター・メモリーに向かって”39階段”とは何かを質問する。

ミスター・メモリーは、それがスパイ組織の暗号名だと話し始めたため、ジョーダンに撃たれてしまう。

その場から飛び降りてステージで逃げ場を失ったョーダンは、警官に取り囲まれて逮捕される。

ハネイは、瀕死のミスター・メモリーに国外に持ち出すはずだった機密情報の内容を聞く。

その内容を話したミスター・メモリーは、それを確認したハネイに、これで全てを忘れられると言い残して息を引き取る。

パメラの手を握るハネイは、運ばれるミスター・メモリーを見守る。


解説 評価 感想 ■

★ヒッチコック登場場面
上映から約7分、ミュージック・ホールから出たロバート・ドーナットルーシー・マンハイムがバスに乗ろうとする際、その横を通り過ぎながら煙草の箱を投げ捨てる太った男性がアルフレッド・ヒッチコック
正面を向かないので注意していなければ分からない。

*(簡略ストー リー)
ロンドン
カナダから帰国したリチャード・ハネイは、あるミュージック・ホールに入る。
騒ぎが起き銃声がした後、混乱した場内から出たハネイは、怯える女性アナベラを伴いアパートに向かう。
国家機密が奪われる危機に対処している諜報員だと言う男達に追われているアナベラだったが、何者かに殺害されてしまう。
その場から逃れたハネイは殺人犯と疑われ、アナベラの話を参考にしてスコットランドに向かう。
小作人ジョンの妻マーガレットの協力で警察の追跡を逃れたハネイは、ジョーダン教授の元に向いアナベラのことを話す。
そしてハネイは、ジョーダンがアナベラが言っていた危険人物だと気づくのだが・・・。
__________

後のアルフレッド・ヒッチコックの作風に大きな影響を与えた記念すべき作品で、「逃走迷路」(1942)と「北北西に進路を取れ」(1959)などは明らかに本作を意識している。

巻き込まれ型サスペンスの傑作と言っていい作品で、ジョン・バカンの原作を生かした観客の冒険心を刺激する舞台設定、イギリス映画らしい皮肉を散りばめた脚本、抜群のユーモアセンスなど、ヒッチコックの小細工なしの演出が冴え渡る超一級のサスペンスに仕上がっている。

その中で、食べ物を粗末にするヒッチコック特有の演出も注目で、主人公の二人が手錠に繫がれたままサンドイッチ食べ、更には下品にも女性がストッキングを脱ぎながら下半身だけ映す描写などは、1930年代半ば当時としては考えられないシーンだと思われる。

1959年の”The 39 Steps”は本作のリメイク。

殺人犯に疑われる危機に際してもユーモアを失わず、抜群の個性を見せてくれるロバート・ドーナットと、彼と反発し合いながらも事件解決に協力するマデリーン・キャロルが、観客の期待通り、徐々に関係が深まっていく微妙な演出も素晴らしい。

主人公に国家の危機を知らせながら序盤で殺される諜報員ルーシー・マンハイム、敵側の工作員だった教授ゴッドフリー・タール、小作人ジョン・ローリーの妻ペギー・アシュクロフト、判事フランク・セリア、教授の妻ヘレン・ヘイ、記憶力男ワイリー・ワトソンなどが共演している。


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