存在や生活感などが”虚構”に思えてしまうハリウッドの内幕を描く、監督、脚本ビリー・ワイルダー、主演ウィリアム・ホールデン、グロリア・スワンソン、エリッヒ・フォン・シュトロハイム、ナンシー・オルソン他共演によるフィルム・ノワール作品として映画史上に残る不朽の名作。 |
・ドラマ
■ スタッフ キャスト ■
監督:ビリー・ワイルダー
製作:チャールズ・ブラケット
脚本
チャールズ・ブラケット
ビリー・ワイルダー
D・M・マーシュマンJr.
撮影:ジョン・サイツ
編集:アーサー・P・シュミット
美術・装置
ハンス・ドレイアー
ジョン・ミーハン
サム・コマー
レイ・モイヤー
音楽:フランツ・ワックスマン
出演
ウィリアム・ホールデン:ジョー・ギリス
グロリア・スワンソン:ノーマ・デズモンド
エリッヒ・フォン・シュトロハイム:マックス・フォン・マイアリング
ナンシー・オルソン:ベティ・シェイファー
ジャック・ウェッブ:アーチー・グリーン
フレッド・クラーク:シェルドレイク
ロイド・ガフ:マリノ
フランクリン・ファーナム:葬儀屋
ヘッダ・ホッパー:本人
バスター・キートン:本人
セシル・B・デミル:本人
H・B・ワーナー:本人
レイ・エヴァンス:本人
アンナ・Q・ニルソン:本人
ジェイ・リヴィングストーン:本人
アメリカ 映画
配給 パラマウント・ピクチャーズ
1950年製作 109分
公開
北米:1950年8月10日
日本:1951年10月5日
製作費 $1,752,000
世界 $5,000,000
■ アカデミー賞 ■
第23回アカデミー賞
・受賞
脚色・美術(白黒)・作曲賞(ドラマ・コメディ)
・ノミネート
作品・監督
主演男優(ウィリアム・ホールデン)
主演女優(グロリア・スワンソン)
助演男優(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)
助演女優(ナンシー・オルソン)
撮影(白黒)・編集賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
ロサンゼルスのサンセット大通り。
ある邸宅で殺人事件が発生し警察が駆けつける。
プールに浮かんでいる被害者は、三流の脚本家ジョー・ギリス(ウィリアム・ホールデン)だった。
__________
6ヶ月前。
売れない脚本家ギリスは、ローンを払わず、車を差し押さえられそうになる。
金策に困ったギリスは、パラマウントに送っていた脚本を頼りに、プロデューサーのシェルドレイク(フレッド・クラーク)に直談判に向かう。
はったりをかけて脚本を売り込もうとしたギリスだったが、それをチェックしてシェルドレイクに渡した脚本部のベティ・シェイファー(ナンシー・オルソン)が、手厳しい評価を下す。
結局ギリスは、シェルドレイクや他の映画会社からも相手にされず、エージェントに借金を頼むが、それも断られてしまう。 町に帰る途中、ギリスは信販会社の調査員に見つかり、逃亡するものの車がパンクし、サンセット大通りのある邸宅に逃げ込んでしまう。 荒れ果てた邸宅のガレージに車を隠したギリスは、20年以上前に建てられたと思われる、大邸宅の様子を見ようとする。 すると、屋敷の中から人影が見え、ギリスは執事マックス(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)に手招きされる。 屋敷に入り、二階に向かうようマックスに言われたギリスは、何かの儀式に呼ばれた者と間違えられたらしいことを察する。 屋敷の女主人(グロリア・スワンソン)に、ペットのサルの葬儀屋と間違えられたギリスは、車のパンクのことを、彼女に正直に話す。 すると彼女は、サングラスを外し、ギリスを追い払おうとする。 しかしギリスは、彼女が往年の大女優”ノーマ・デズモンド”だということに気づく。 過去の栄光に未だ陶酔するノーマは、ギリスが脚本家だと聞き、自ら企画中の新作映画について語り始める。 かつての名コンビ、セシル・B・デミルと手を組むというノーマの話しを聞き、ギリスは彼女の脚本を読まされる。 くだらない内容ではあったが、明らかにノーマはギリスの批判を拒絶していたため、彼は手直しすればよいのではと彼女に提案する。 それを聞いたノーマは、ギリスに手直しを依頼し、部屋を与え高額の報酬を約束する。 ノーマとマックスの奇怪な様子を気にしながらも、自分にとっては正に好都合のギリスは、脚本を読みながら眠ってしまう。 翌朝、アパートから自分の家財が運び込まれているのに気づいたギリスは、屋敷に滞在することをノーマに強要される。 それを拒絶しようとしたギリスだが、逃げ場のない立場から、それを承知して脚本の手直しを始める。 2週間ほどで終わる作業だと思っていたギリスだが、酷い内容の脚本のため、思いのほか作業に時間がかかる。 四六時中ノーマに監視された上に、彼女の全盛期の作品鑑賞にも付き合わされる。 時々ポーカーの会が催されるが、メンバーは、サイレント時代の俳優仲間、H・B・ワーナー、バスター・キートン、そしてアンナ・Q・ニルソンらだった。 やがて、ギリスの車は、調査員に見つかり没収されてしまう。 1932年型”イゾッタ・フランスキーニ”を所有するノーマは、ギリスの車など気にすることもなかった。 マックスに車を磨かせてドライブに出かけたノーマは、最高級の仕立て屋で、ギリスにスーツやタキシード、それに燕尾服などを買い与え、ニューイヤーズ・イヴに備える。 大雨により、ガレージの上のギリスの部屋が雨漏りをしたために、母屋に引っ越すことになり彼には迷惑な話となる。 屋敷中のドアに鍵のないことを知ったギリスは、ノーマが、自殺未遂を起こしたことがあることなどをマックスから聞かされる。 さらに、毎週1万7000通も届くファンレターは、マックスが出していることなどを知る。 そしてニューイヤーズ・イヴのパーティーの日、ノーマと踊るギリスは、他の招待客が現れないことに気づく。 やがてギリスは、望まないノーマの愛に気づき、それを退け、憤慨する彼女の元から去っていく。 ヒッチハイクで街に向かったギリスは、アーチー・グリーン(ジャック・ウェッブ)や仲間達のパーティーに飛び入り参加する。 そこでギリスは、シェルドレイクのオフィスで会ったベティと再会して意気投合する。 しかし、マックスに荷物を取りに行くと電話したギリスは、ノーマが自殺未遂を起こしたことを知らされ、ショックを受けてしまう。 屋敷に戻ったギリスは、二度と自殺しないことをノーマに誓わせ、年明けの挨拶をして、彼女に抱き寄せられる。 後日、ベティは屋敷に連絡を入れ、マックスにギリスへの取次ぎを頼む。 しかし、マックスは白を切り、ベティの電話を切ってしまう。 ノーマと街に出かけたギリスは、偶然アーチーとベティに出くわす。 ベティは、電話のことと、ギリスの脚本が採用されるかもしれないことを彼に伝えるが、ギリスは既に脚本を売り込む気力をなくしていた。 ノーマは、デミル本人からでない助監督からの電話を無視し続けるが、結局は、彼女が折れてパラマウントに向かう。 撮影所入りしたノーマは、スタジオで「サムソンとデリラ」を撮影中のデミルに面会することになる。 ノーマから渡された酷い脚本の件だと察したデミルは、彼女を追い返そうとする助手に、ノーマの功績を話して聞かせ、彼女を傷つけないよう手厚く迎える。 スタジオ内の昔の仲間達や、ノーマの栄光を知る人々に声をかけられ、彼女は感激の涙を流す。 デミルは、何とかノーマの企画を断ろうとするが、彼女は自分のペースに彼を巻き込んでしまう。 脚本部のベティを見つけたギリスは、自分の脚本を彼女に譲ることにする。 しかしギリスは、ベティの熱意により、共同で脚本を手直しすることになる。 マックスに呼ばれたギリスは、デミルの助監督からの電話の目的が、車(イゾッタ・フランスキーニ)だったことを知らされる。 ノーマを見送ったデミルは、車を諦め、彼女との関りを絶つよう助手に指示を出す。 翌日からノーマは、美容師の集団を屋敷に迎え、映画撮影のための準備を始める。 夜になるとギリスは、屋敷を抜け出し、撮影所でベティと脚本の手直しをするうちに、次第に2人は惹かれ合うようになる。 ギリスの帰りを待っていたマックスは、ノーマへの気遣いを怠らないよう忠告する。 さらにマックスは、自分がノーマの初期の映画を手がけた映画監督”マックス・フォン・マイアリング”で、彼女に捨てられた、最初の夫だということをギリスに告げる。 その後ノーマは、ギリスとベティが共同で脚本を書き上げていることと、2人が愛し合っているだろうということを知ってしまう。 アーチーと婚約していたベティから、愛を告白されたギリスは、どうにかしてノーマから逃げる方法を考える。 ベティに嫉妬したノーマは、彼女の住所を突き止めて電話をかける。 しかし、それに気づいたギリスは受話器を取り、ベティに屋敷の所在地を教える。 ベティは屋敷に到着するが、ギリスは彼女のために自分の意思に反し、アーチーの元に向かうよう、ベティを突き放してしまう。 ギリスは、ノーマを見限り荷物をまとめ屋敷から出て行こうとするが、彼女は銃を手に持ち自殺をほのめかす。 ノーマに、ファンレターやデミルの出演依頼が嘘だということを伝えたギリスだったが、彼女はそれを信じないままに、屋敷から立ち去ろうとするギリスを追う。 そして正気を失ったノーマは、ギリスを背後から銃撃し、彼は庭のプールに転落する。 屋敷には記者や野次馬が殺到し、ニュース映画の撮影班も到着する。 ノーマの部屋では、ゴシップ・コラムニストのヘッダ・ホッパーが電話で記事を送る。 既に精神に異常をきたしていたノーマは、警察の尋問を受けながら、”ニュースカメラ”という言葉を聞きマックスを呼び寄せる。 マックスは、撮影準備ができたことをノーマに告げ、彼女はカメラの前に立つ準備を始める。 かつてのように、照明の位置を決めたマックスは、監督に成りきり、ノーマに宮殿の階段のシーンを演ずるよう指示を出す。 カメラをスタートさせたマックスの号令で、ノーマはついに演技を始め、彼女の夢は達成されることになる。 そして、記者達に復帰の喜びを語ったノーマは、カメラに近づいていく。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
売れない脚本家ジョー・ギリスは、信販会社の調査員から逃れるために、サンセット大通りの、ある邸宅に車を乗り入れてしまう。
執事マックスに屋敷内に通され、女主人に会ったギリスは、ペットのサルの葬儀屋と間違えられてしまう。
そしてギリスは、その女主人が、往年の大女優”ノーマ・デズモンド”だということに気づく。
過去の栄光に陶酔するノーマは、ギリスが脚本家だと知り、自らの新作映画について語り始め、セシル・B・デミルと手を組むという脚本を、彼に読ませる。
内容は平凡だったが、ギリスはノーマが批判を受け付けないことを察知し、手直しを提案する。
そこでノーマは、ギリスにそれを依頼し、屋敷内の部屋と高額の報酬と約束する。
生活に困窮するギリスは、当然ノーマの依頼を引き受けるのだが・・・。
__________
1989年、アメリカ議会図書館が、国立フィルム登録簿に登録した最初の作品でもある。
第23回アカデミー賞では作品賞をはじめ11部門にノミネートされ、脚色、美術(白黒)、作曲賞(ドラマ・コメディ)を受賞した。
・ノミネート
作品、監督
主演男優(ウィリアム・ホールデン)
主演女優(グロリア・スワンソン)
助演男優(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)
助演女優(ナンシー・オルソン)
撮影(白黒)、編集賞
この年は、同じく傑作の「イヴの総て」(1950)が主要部門を獲得したために、本作は3部門の受賞に終わった。
忘れられぬ過去の栄光にしがみつく中年女優と、彼女に見初められた三流脚本家と執事の、”不気味”なまでの関係が生み出す悲劇を生々しく描いた、ビリー・ワイルダーの卓越した演出力と脚本(共同)は秀逸で、凄まじいラストを迎える、クライマックスまでの緊迫感は息を呑む。
主演のウィリアム・ホールデンが、いきなり殺害された死体でプールに浮かび登場するショッキングなオープニングで、早くも度肝を抜かれるが、サスペンスの要素を取り入れた人間ドラマとしても、上質な仕上がりとなっている。
外見は廃墟に見える、大女優の豪邸内のセットや装飾品、緊張感を煽るフランツ・ワックスマンの音楽も素晴らしい効果を上げている。
若手の星として19500代に飛躍することになる、ウィリアム・ホールデンの人気を決定付けた作品の一本で、金策に悩み。渡りに船で受けた仕事のお陰で、悲劇の主人公となってしまう脚本家の苦悩を見事に演じている。
自身の俳優人生を髣髴させる、グロリア・スワンソンの鬼気迫る演技の素晴らしさは言うまでもないが、実生活と物語とで、同じ年齢設定の50歳では、忘れ去られた化石のような老女優とは言い難いのだが、10代後半からのサイレント映画に出演し、全盛期から既に20年以上の月日が流れていることを思えば、当時の状況からして真実味もある。
実際のサイレント俳優バスター・キートン、H・B・ワーナー、アンナ・Q・ニルソンなどが、カードゲームの場面でチラリと顔を出す場面があるが、ビリー・ワイルダーの真骨頂である、独特の皮肉の効いたユーモアを極力抑えた作品の中で、ワンポイントとなるシーンとして非常に興味深い。
感情を表に出さない、悲劇を背負うもう一人の主人公と言えるほどの存在感を示す、執事役エリッヒ・フォン・シュトロハイムの、主人を悲しげに見つめながら、演技をつけるラストの表情は、悲惨なドラマを象徴している。
彼は実際にグロリア・スワンソン作品「Queen Kelly」(1929)を監督し、劇中に主人公達がそれを屋敷で上映鑑賞する場面も登場する。
これがデビュー作、いきなりアカデミー助演賞にノミネートされた、撮影所脚本部のナンシー・オルソン、その恋人役のジャック・ウェッブ、プロデューサーのフレッド・クラーク、そして、”史上最高の脇役”としてセシル・B・デミルが「サムソンとデリラ」の実際のセットを使い、本人役で重要な役を演じ、女優でもあるゴシップ・コラムニストのヘッダ・ホッパーも本人役で登場する。