軍人である息子の死を知った退役軍警察軍曹が事件の謎を究明する姿を描く、主演トミー・リー・ジョーンズ、シャーリーズ・セロン、ジェイソン・パトリック、スーザン・サランドン、ジョシュ・ブローリン他共演による社会派サスペンス・ドラマの秀作。 |
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■ スタッフ キャスト ■
監督:ポール・ハギス
製作
ポール・ハギス
パトリック・ワックスバーガー他
製作総指揮
ボブ・ヘイワード
スタン・ヴロドコウスキー他
原案
マーク・ボール
ポール・ハギス
脚本:ポール・ハギス
撮影:ロジャー・ディーキンス
編集:ジョー・フランシス
音楽:マーク・アイシャム
出演
トミー・リー・ジョーンズ:ハンク・ディアフィールド
シャーリーズ・セロン:エミリー・サンダース
ジェイソン・パトリック:カークランダー中尉
スーザン・サランドン:ジョアン・ディアフィールド
フランシス・フィッシャー:イーヴィ
ジョシュ・ブローリン:ブシュワルド署長
ウェス・チャサム:スティーヴ・ペニング
メカッド・ブルックス:エニス・ロング
ヴィクター・ウルフ:ロバート・オルティス
バリー・コービン:アーノルド・ビックマン
ジョナサン・タッカー:マイク・ディアフィールド
ジェームズ・フランコ:ダン・カーネリー
ゾーイ・カザン:アンジー
ウェイン・デュヴァル:ニュージェント刑事
ブレント・ブリスコー:ホッジ刑事
グレッグ・セラーノ:マニー・ヌネス刑事
ブレント・セクストン:バーク少尉
デヴィン・ブロチュ:デヴィッド・サンダース
アメリカ 映画
配給 ワーナー・インディペンデント・ピクチャーズ
2007年製作 121分
公開
北米:2007年9月14日
日本:2008年6月28日
製作費 23,000,000
北米興行収入 $6,777,740
世界 $29,527,290
■ アカデミー賞 ■
第80回アカデミー賞
・ノミネート
主演男優賞(トミー・リー・ジョーンズ)
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
2004年11月1日。
退役軍警察軍曹ハンク・ディアフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)の元に、息子のマイク(ジョナサン・タッカー)が、イラクから帰還後に突然、消息不明になったという連絡が入る。
ディアフィールドの家族は、10年前に軍の演習で事故死したマイクの兄も含め軍人一家だった。
そんなディアフィールド家の息子が、軍を抜け出すことなど考えられなかった。
妻ジョアン(スーザン・サランドン)を残し、ディアフィールドは、マイクの所属部隊のあるフォート・ラッドに向かう。
その途中、ディアフィールドは街角で、国際的な救難信号の意味のある、逆さの星条旗が掲げられている施設に気づき、それを直して先を急ぐ。
基地に着いたディアフィールドだったが、帰還したマイクと同じ部隊員のスティーヴ・ペニング(ウェス・チャサム)、エニス・ロング(メカッド・ブルックス)、ロバート・オルティス(ヴィクター・ウルフ)らに話を聞いても、マイクの行方を知らなかった。
ディアフィールドは、宿舎のマイクの机から携帯電話を持ち出し、内容の分析を町の若者に依頼する。
その後ディアフィールドは、地元警察の刑事エミリー・サンダース(シャーリーズ・セロン)に協力を要請するが、軍の管轄だと言われ、それを断られてしまう。 暫くすると、エミリーの元に、切断された焼死体が発見されたという連絡が入る。 遺体発見現場が軍の管轄内ということで、捜査を離れるエミリーだった。 翌日、軍からディアフィールドに、その遺体がマイクだったという連絡が入り、彼は遺体の確認に向かう。 軍警察のカークランダー中尉(ジェイソン・パトリック)と、無惨な遺体を確認したディアフィールドは、マイクが暴行を受けて殺害され、遺体を切断され焼かれたことを知る。 カークランダーは、麻薬絡みの組織の犯行の可能性をディアフィールドに伝える。 エミリーは、この事件が気にかかり、ディアフィールドに頼まれて事件現場に向かう。 二人は現場検証を始め、ディアフィールドの指摘で殺害現場が、軍の管轄外だとエミリーは確信する。 妻ジョアンにマイクの死を知らせたディアフィールドは、息子2人を軍人にさせたことを彼女に責められる。 そんな時エミリーは、交通係から刑事に昇進したことを同僚から妬まれ、嫌がらせを受けていた。 署長ブッシュワルド(ジョシュ・ブローリン)に、マイクの事件捜査を警察がするべきだと食い下がるエミリーは、捜査を開始する。 ディアフィールドは、基地に到着したジョアンをマイクの遺体と対面させ、ショックを受けた彼女は、そのまま帰宅の途につく。 エミリーは捜査状況をディアフィールドに話し、事件が起きる直前に、マイクが複数の人間とチキン・ショップに寄ったことなどを確かめ、軍の同僚らの供述書を取ろうとする。 ディアフィールドを自宅に招待したエミリーは、食事後、彼に、息子デヴィッド(デヴィン・ブロチュ)を寝かしつけるのを任せる。 本を読んで聞かせるのが苦手なディアフィールドは、デヴィッドと同じ名前の人物が登場する、少年ダビデと巨人のゴリアテが相対する、”エラの谷の戦い”の話しをして聞かせる。 その後ディアフィールドには、依頼してあったマイクの携帯電話の画像データなどが次々送られてきて、息子が、人間性を逸脱した行為をしていた事実を知ることになる。 そんな時、酒場のウェイトレスのイーヴィー(フランシス・フィッシャー)が、ディアフィールドの前に現れる。 イーヴィーは、事件のあった土曜の夜に、他のバーでマイクを目撃したことをディアフィールドに伝える。 エミリーを呼び出したディアフィールドは、マイクの同僚が事件当日、一緒にいたことを黙っていた理由を探るよう指示する。 同僚の供述で、バーでマイクがトラブルを起こし、それが原因となり、仲間同士で小競り合いがあったことなどが分かる。 しかし、マイクの同僚は、犯行時間には基地に戻っていたことも判明するる。 供述書の取れなかった同僚オルティスが、無許可除隊になっていることを突き止めたエミリーは、潜伏現場に向かい、彼を捕まえようとする。 しかし、ディアフィールドが先回りして彼を痛めつけて、エミリーにまで傷を負わせてしまい、オルティスは証拠不十分で釈放されてしまう。 翌日、マイクの時計を持った同僚が首吊り自殺をしたため、彼がマイク殺しの犯人のように思えたが、ディアフィールドとエミリーは、確信が持てない。 そんな時、以前、犬を子供の前で水死させて、夫の異常さをエミリーに訴えに来た女性アンジー(ゾーイ・カザン)が、夫に殺されたという連絡が入る。 アンジーの要請を、親身になって聞き入れなかった警察や自分の態度を悔やみ、マイクの事件捜査も進展しないエミリーは苦悩する。 遺体を引き取り、帰宅しようとするディアフィールドだったが、マイクのクレジットカードのサインをしたのが、同僚ペニングで、チキン・ショップにはマイクがいなかったことにエミリーが気づく。 ディアフィールドとエミリーは、ベニングとロングの引渡しを軍警察に要請するが、カークランダーは2人が犯行を既に自供したことなどから、それを拒否する。 しかし、エミリーは逮捕令状をカークランダーに叩きつけ、ディアフィールドの前で自供させることを強要する。 ベニングの自供を聞いたディアフィールドは、マイクの死そのものよりも、携帯電話の動画で明らかだった敵兵への非人道行為などが、事実だったことなどにショックを受ける。 オルティスに謝罪したディアフィールドは、マイクがメールで送ってきた、一枚の写真の意味を彼に尋ねる。 ディアフィールドはその写真が、車両を止めることが許されず、子供を轢き殺してしまった時に、マイクが撮った写真だということを知る。 そのことに耐え切れず、マイクが自分に電話をかけてきたことが悲痛なメッセージだったと、ディアフィールドは、ようやく理解する。 ディアフィールドは、エミリーに別れを告げて帰宅する。 自宅に着いたディアフィールドは、マイクが戦場から送ってきた星条旗に気づき、その頃エミリーは、デヴィッドに、ダビデとゴリアテの話しを聞かせて寝かしつける。 ディアフィールドは、その星条旗を逆さに掲げ、マイクや、その他の兵士が体現している苦しみを、世の中に訴える。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
退役軍警察軍曹ハンク・ディアフィールドの軍人の息子が、イラクから帰還後、消息不明になる。
息子の配属基地に向ったディアフィールドは、手がかりが掴めないでいたが、息子は無惨な遺体で発見される。
現地の警察官エミリー・サンダースの協力を得たディアフィールドだったが、捜査を続け、戦地での息子の置かれていた状況を知るにつれ、本人の死よりも、その現地で執った彼の行為にショックを受けてしまう・・・。
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2004年に”プレイボーイ”に掲載された、マーク・ボールの殺人事件記事”Death and Dishonor”を基に製作された作品。
「ミリオンダラー・ベイビー」(2004)でアカデミー脚本賞を受賞し、同年の初監督作品「クラッシュ」(2004)で同作品賞を受賞したポール・ハギス製作、監督、原案、脚本による社会派ドラマ。
派手さも緊迫感もない内容の中で、”弱対強”とういテーマをしっかりと軸に置き、各方面で語り尽くされている、戦場とその後の心的外傷後ストレス障害に悩む兵士の悲痛な姿なども鋭く描いたドラマ展開は、見応え十分なな内容だ。
第80回アカデミー賞では、トミー・リー・ジョーンズが主演男優賞にノミネートされた。
旧約聖書のサムエル記に登場する、ペリシテ人の巨人兵士であるゴリアテに、羊飼いの少年ダビデが、”エラの谷”で戦いを挑んだという伝説が、原題とドラマのテーマになっている。
強大な権力の下で活動する、イラク駐留アメリカ軍の一兵士マイクが、父ハンクに残したメッセージ、小さな町の警察署内で、同僚らの嫌がらせに遭いながら、孤軍奮闘する女性刑事など、ドラマ随所にダビデとゴリアテの伝説が投影されている。
そして、ラストのディアフィールドが執る行動は、一退役軍人が世界に向けて発する緊急事態のメッセージとして締めくくられ、感慨深い幕切れとなっている。
逆さに掲げられた星条旗のバックで流れる、アニー・レノックスのエンディング・ソングも非常に印象的だ。
主人公を演ずるトミー・リー・ジョーンズの演技は秀逸で、几帳面な退役軍人が、信じていた息子や軍隊の堕落を知り絶望しかけるものの、息子が最後に執った行動を誇りに思い、殆ど何も語らず、その表情と仕草だけで、”納得”する自分を表現しようとするラストの演技は、見事としか言いようがない。
ポール・ハギスはこの役を、クリント・イーストウッドに演じてもらうつもりでいたが、年齢的な問題と、これ以上は映画出演する意志のないイーストウッドは、それを断ったらしい。
(彼は、その後も映画出演するが・・・)
スーパーモデルのようなシャーリーズ・セロンが、田舎の刑事役に適していないイメージで見始めたが、かなり質素なメイクで別人のようでもあり、美しさだけでない、演技派としての実力を十分発揮し、孤軍奮闘する”熱血”刑事を好演している。
スーザン・サランドンも、出番は少ないが、息子2人の死に直面する母親の心境を演ずる姿は痛々しいが、存在感を示す深い演技を見せてくれる。
軍上層部と警察の狭間で、事件を処理する難しい立場のジェイソン・パトリック、55歳にしてトップレス・バーのウエイトレスまで演じてくれるフランシス・フィッシャーなども共演している。
同年の「ノーカントリー」(2007)でトミー・リー・ジョーンズと共演したジョシュ・ブローリンだが、端役程度の出演がやや残念だ。
エリア・カザンの孫ゾーイ・カザンやジェームズ・フランコも出演している。
残念なのは、原題の”エラの谷で”という素晴らしいタイトルを、何とかうまく表現した邦題にして欲しかったことだ。