1946年に発表された、ガイ・エンドアの小説”Methinks the Lady”を基に、ベン・ヘクトとアンドリュー・ソルトが脚色した作品。 経済的には恵まれている精神科医の妻が催眠術を使うセラピストの殺人に巻き込まれる姿を描く、製作、監督オットー・プレミンジャー、主演ジーン・ティアニー、リチャード・コンテ、ホセ・フェラー、チャールズ・ビックフォード共演によるサスペンスでありフィルム・ノワールの秀作。 |
■ スタッフ キャスト ■
監督:オットー・プレミンジャー
製作:オットー・プレミンジャー
原作:ガイ・エンドア
脚本
ベン・ヘクト
アンドリュー・ソルト
撮影:アーサー・C・ミラー
編集:ルイス・R・ロファー
音楽:デヴィッド・ラクシン
出演
アン・サットン:ジーン・ティアニー
ウィリアム・サットン:リチャード・コンテ
デヴィッド・コルヴォ:ホセ・フェラー
ジェームズ・コルトン警部補:チャールズ・ビックフォード
テレサ・ランドルフ:バーバラ・オニール
マーティン・アヴェリー:エドゥアルド・フランツ
ティナ・コスグローヴ:コンスタンス・コリアー
フェルッチオ・ディ・ラヴァロ男爵:フォーチュニオ・ボナノヴァ
アメリカ映画
配給 20世紀FOX
1949年製作 97分
公開
北米:1949年11月28日
日本:未公開
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
ロサンゼルス。
著名な精神科医ウィリアム・サットン(リチャード・コンテ)の妻アン(ジーン・ティアニー)は、あるデパートで万引きをして警備員に呼び止められてしまう。
その直後、アンはショックで卒倒してしまい、居合わせたセラピストのデヴィッド・コルヴォ(ホセ・フェラー)という男性が、彼女が病気ということにしてその場を収める。
帰宅したアンは、夫のウィリアムには何も語らず平静を保つが、その後コルヴォに呼び出されてしまう。
コルヴォが、スキャンダルをネタに脅すものと思い込んだアンは、彼に5000ドルの小切手を渡して方をつけようとする。
しかし、コルヴォはそれを破り捨て、デパートが保管していたアンに関する記録を入手し、それを彼女に渡す。 汚名が消えたアンはコルヴォに感謝し、彼に富豪夫人のティナ・コスグローヴ(コンスタンス・コリアー)主催のパーティーに誘われる。 パーティーで、アンが不安を抱えているのに気づいたコルヴォは、彼女に催眠術をかけて自分の指示通りの行動をさせる。 その後、アンはその場にいたコルヴォの元信奉者で、夫ウィリアムの患者でもあるテレサ・ランドルフ(バーバラ・オニール)から、コルヴォには気をつけるよう忠告される。 コルヴォは金が目当てだと言うテレサの言葉に、アンは声を荒げて反論する。 翌日、セラピーを受けるため、コルヴォのホテルに向かったアンは、彼をやや警戒し部屋ではなくロビーで会う。 アンは、コルヴォのセラピーを毎日受けることになり、テレサのことを彼に話して、昨日のことを彼女に謝ろうとして、ロビーで電話をかける。 その間コルヴォは、アンの飲み物のグラスやスカーフ、そしてブローチを盗み、何食わぬ顔で彼女を待つ。 その夜、ウィリアムに置手紙を書いたアンは、保管庫から患者の録音レコードを取り出しテレサの家に向かう。 レコードを隠したアンは、テレサの死を確認したところで警備員に取り押さえられる。 アンは逮捕連行され、警察署でジェームズ・コルトン警部補(チャールズ・ビックフォード)に調書を確認されるのだが、何も覚えていないことを伝える。 現場には、アンのスカーフとブローチなどが残されていて、状況証拠から、彼女が犯人だということは疑う余地がなかった。 コルトンが、サンフランシスコにいたウィリアムに連絡し、出頭を命じたために、アンは絶望し泣き崩れてしまい、仕方なく調書に署名する。 警察署に現れたウィリアムは、あらゆる角度から検証しての結論で、アンが嫉妬心からテレサを殺害した可能性が高いということを、コルトンから知らされる。 それが信じられないウィリアムはアンと面会し、コルヴォのことなどを疑われた彼女は、再び泣き崩れてしまう。 ウィリアムは、自分の患者だったテレサが、娘に遺すつもりの遺産6万ドルを、コルヴォに奪われたことをコルトンに話す。 その時、コルヴォがホテルから姿を消したとの情報が入り、コルトンは、ウィリアムが録音してあるという、遺産の件の録音レコードを確認しようとする。 その後、コルヴォが手術して入院していることが分かり、ウィリアムとコルトンはそれを病院で確認して、彼にはアリバイがあることが分かる。 その後、診察記録のレコードを確認したウィリアムは、それが紛失していることに気づく。 弁護士マーティン・アヴェリー(エドゥアルド・フランツ)は、意気消沈するウィリアムを励まし、アンが催眠術をかけられ、殺人を指示された可能性を指摘する。 そかし、アヴェリーは、アンがコルヴォを愛していたことも考えられると率直に意見する。 病院に向かったウィリアムは、アンが自分に惹かれていたような言い方をするコルヴォの言葉を気にする。 その後、ウィリアムはホテルのコルヴォの部屋で、アンの指紋が付いたグラスが見つかったことを知る。 数日後、アヴェリーはアンが心神喪失状態による犯行で無罪を主張できることを彼女に伝える。 しかし、自分が異常者扱いされるのを嫌ったアンは、その原因がウィリアムにあると言い出す。 ウィリアムのために良き妻を演じてきたアンは、精神的に追い詰められ、眠れぬ日が続いたのだが、それをコルヴォが治してくれたことは事実だと語る。 コルヴォの部屋には行っていないと言うアンに、彼女が部屋にいた事実も見つかったことを伝えたウィリアムは、態度を改めないアンを見限ってしまう。 そしてアンは、コルヴォに好意を持ったことと、隠し通していた物を盗む癖があり、デパートで万引きして彼に救われたことをコルトンとアヴェリーに告白する。 コルヴォの元に向かったコルトンは、テレサに金を返さなければ告訴すると言われた直後に、彼女が死んだことを指摘する。 そして、コルトンはコルヴォを疑っていることと、証拠となるレコードがあるはずだということを伝える。 コルトンの帰宅を待っていたウィリアムは、コルヴォが自己催眠をかけテレサを殺害したという推理を彼に伝える。 さらに、アンをテレサの自宅に連れて行けば、記憶が戻るかもしれないとウィリアムは考えるが、コルトンはそれを退ける。 警察が新たな容疑者を見つけ、それがレコード次第だと看護師から聞いたコルヴォは、自己催眠をかけて病院を抜け出す。 ウィリアムの言葉が気になったコルトンは、アンらを連れてテレサの自宅に向かう。 その頃、コルヴォはテレサの家で、彼女のレコードを聞いていた。 やがて、ウィリアムとコルトンに伴われたアンが姿を現し、コルヴォは拳銃を手に身を潜める。 何も思い出せないアンに、ウィリアムは、彼女は自分が原因で被害者になったと優しく言葉をかける。 何も隠し事をしなければ、コルヴォの催眠術が解けると、ウィリアムは彼女を励ます。 そして、アンは次第に記憶が戻り、レコードのことを思い出す。 ウィリアムとコルトンがレコードを探しに行った隙に、コルヴォが自分を逃がすようアンに銃を向けて脅す。 コルヴォの指示通りにしようとしたアンだったが、そこに彼が現れレコードをかけ、銃を三人に向けたまま逃げようとする。 しかし、出血していたコルヴォは力尽き息絶え、コルトンはアンをウィリアムに引き渡す。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
恵まれた生活を送る、著名な精神科医の妻アン・サットンは、夫ウィリアムの良き妻を演じることに精神的に疲れ果て、デパートで万引きをしてしまう。
催眠術を使うセラピストのコルヴォがそれを助け、彼のお陰でアンは心の安らぎを得る。
あるパーティーで、アンはコルヴォが詐欺師だと聞き驚いてしまうものの、彼をかばう。
しかし、コルヴォはアンに催眠術をかけて、自分を告訴しようとしている、富豪夫人殺害犯に仕立てようとする・・・。
_____________
サスペンス映画の傑作「ローラ殺人事件」(1944)のオットー・プレミンジャーとジーン・ティアニーが再び組んだ話題作ではあるが、なぜか日本では劇場未公開だった。
第二次大戦終結後、数年の作品ということで、その時代背景、特に、焼け野原からの復興もままならない、当時の日本の状況を考えると、アメリカ社会の物質的な豊かさなどに驚かされる作品でもある。
催眠術を巧みに使った殺人のトリックが興味深く描かれているのだが、結局は、犯人自ら鏡を覗き込み、自己催眠をかけて犯行に及ぶ、狂気の姿の恐ろしさなど、オットー・プレミンジャーらしい、一捻りした描写も見所だ。
実際に富豪令嬢として育ち、名門女子大のヴァッサー大学(現在は共学)で学びスイス留学なども経験したジーン・ティアニーは、美しさに加え気品漂う雰囲気も実に自然だ。
その彼女が、いきなり万引きで取調べを受けてしまうシーンは、ショッキングでもある。
著名な精神科医で、妻の奇行に翻弄されるリチャード・コンテ、主人公を操る催眠術を使うセラピストで、実力派らしい怪演を見せるホセ・フェラー、冷静に捜査を進める警部補チャールズ・ビックフォード、殺害される被害者夫人のバーバラ・オニール、弁護士エドゥアルド・フランツ、富豪夫人コンスタンス・コリアー、男爵役のフォーチュニオ・ボナノヴァなどが共演している。