500キロ以上離れた場所に住む疎遠だった兄を芝刈り機に乗り訪ねた実在の人物アルヴィン・ストレイトの旅を描く、監督デヴィッド・リンチ、主演リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセク、ハリー・ディーン・スタントン他共演のヒューマン・ドラマ。 |
■ スタッフ キャスト ■
監督:デヴィッド・リンチ
製作
アラン・サルド
メアリー・スウィーニー
ニール・エデルスタイン
製作総指揮
ピエール・エデルマン
マイケル・ポレア
脚本
ジョン・E・ローチ
メアリー・スウィーニー
撮影:フレディ・フランシス
編集:メアリー・スウィーニー
音楽:アンジェロ・バダラメンティ
出演
アルヴィン・ストレイト:リチャード・ファーンズワース
ローズ・ストレイト:シシー・スペイセク
ライル・ストレイト:ハリー・ディーン・スタントン
トム:エヴェレット・マッギル
ダニー・リアダン:ジェームズ・ケイダ
ドロシー:ジェーン・ギャロウェイ・ハイツ
ヴァーリン・ヘラー:ウィリー・ハーカー
クリスタル:アナスタシア・ウェッブ
アメリカ/イギリス/フランス 映画
配給 ブエナビスタ
1999年製作 112分
公開
北米:1999年10月15日
イギリス:2000年12月3日
フランス:2000年11月3日
日本:2000年3月25日
製作費 $10,000,000
北米興行収入 $6,203,040
■ アカデミー賞 ■
第72回アカデミー賞
・ノミネート
主演男優賞(リチャード・ファーンズワース)
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
アイオワ州、ローレンス。
アルヴィン・ストレイト(リチャード・ファーンズワース)がいつものバーでのミーティングに現れないため、友人が様子を見に行く。
友人は床に倒れていたアルヴィンに気づき、驚いた隣人ドロシー(ジェーン・ギャロウェイ・ハイツ)は救急車を呼ぼうとする。
帰宅して騒ぎを知ったアルヴィンの娘ローズ(シシー・スペイセク)は、父の姿を見て動揺する。
頑固なアルヴィンは病院に行くことを拒むが、ローズに説得されて仕方なく医師の診察を受ける。
腰のせいで倒れたと診断されたアルヴィンは、歩行器を使うよう勧められるもののそれを拒んだため、杖をもう一本使うよう言われる。
糖尿病や初期の肺気腫も指摘されたアルヴィンは、タバコなどもやめて節制するよう医師に言われる。 帰宅したアルヴィンは芝を刈ろうとするが、芝刈り機が壊れていたためそれを諦める。 その夜アルヴィンは、喧嘩別れして10年も音信不通だった兄ライル(ハリー・ディーン・スタントン)が倒れたという連絡を受ける。 電話を受けたローズからそれを知らされたアルヴィンだったが、何も答えようとしなかった。 その後アルヴィンは、ライルに会うため旅に出ることをローズに伝えるが、どうやって行くかは考えていなかった。 目や足腰が悪い上に車の運転もできない73歳のアルヴィンには、ウィスコンシンのライルの家まで500キロ以上ある旅は不可能だとローズは考える。 芝刈り機を直して改造して荷車を連結させたアルヴィンは、心配するローズに自力でライルに会いに行くとしか言わなかった。 翌日、芝刈り機に荷車を連結させて出発するアルヴィンに気づいた友人達は驚き、彼を止めようとするものの無駄だった。 街道で時速数キロで進むアルヴィンは、トラックに追い越された際に帽子を飛ばされて停止する。 出発しようとしたアルヴィンはエンジンがかからなくなり、バスを止めて隣町まで行き、助けを求めて芝刈り機を運びローレンスに戻る。 アルヴィンが戻って来たのを知った友人達は、彼を気の毒に思う。 トラクターを銃で撃って破壊したアルヴィンは、農機具販売業者のトム(エヴェレット・マッギル)を訪ね、”ディア・アンド・カンパニー”社製の66年型の芝刈り機を購入する。 再び出発したアルヴィンは、野宿をしながら旅を続ける。 街道ですれ違ったヒッチハイカーのクリスタル(アナスタシア・ウェッブ)が焚火の傍に現れたため、アルヴィンはソーセージを与える。 家族のことなどを話したアルヴィンは、家出したと思われるクリスタルのお腹の子に気づいていた。 ウィスコンシンのマウント・ザイオンに住む兄ライルを訪ねると言うアルヴィンは、家族に嫌われているというクリスタルの話を聞く。 4人の子持ちだったローズが、火事に遭ったことで子供を役所に奪われてしまったことなどを話したアルヴィンは、木の枝を例えにして子供に教えた家族の絆についても語る。 荷車で寝るよう勧めたアルヴィンだったが、クリスタルは星を見て考え事をしたいと答える。 翌朝、目覚めたアルヴィンは、クリスタルが枝を束ねて去ったため、自分の話を理解したことを悟り出発する。 雨が降り始め廃墟の納屋で雨宿りしたアルヴィンは、天候が回復したため出発する。 自転車レースに遭遇したアルヴィンは、集合会場で選手らに歓迎されその夜は青年達と過ごし、年をとって良いことと悪いことなどを話す。 翌日、前方で鹿を轢き事故を起こした女性に手を貸そうとしたアルヴィンだったが、彼女は取り乱して愚痴をこぼしながら走り去ってしまう。 鹿を片付けたアルヴィンは、それを食料にする。 下り坂でスピードが出過ぎたためトラクターを制御できなくなったアルヴィンは、何とか止まることができる。 その場で消火訓練を見学していたダニー・リアダン(ジェームズ・ケイダ)がアルヴィンに駆け寄り、農機具メーカーにいたことがある彼は、荷車を牽引した走行を注意する。 ダニーはトラクターを点検して、ファンベルトが切れていることなどを確かめる。 集まった人々は、アルヴィンがマウント・ザイオンに向かうためローレンスから5週間かけて来たことを知り驚く。 トラクターが修理できるまで自宅の裏庭のガレージで野宿するようダニーに言われたアルヴィンは、彼の親切に感謝する。 ローズに近況を伝えるためダニーに電話を借りたアルヴィンは、所持金が少なくなったため年金の小切手を送ってもらおうとする。 アルヴィンがトラクターの修理代も払えないだろうと考えるダニーは、体の不自由な彼をマウント・ザイオンに車で送ってあげようとする。 受話器に添えられた電話代を確認したダニーは、トラクターの修理代に250ドルはかかることをアルヴィンに伝え、マウント・ザイオンまで車で送ることを提案する。 ダニーの好意には感謝するものの、アルヴィンは自分で旅をやり遂げたいことを伝える。 その後、隣人らはアルヴィンのため差し入れなどを持って現れ、老人ヴァーリン・ヘラー(ウィリー・ハーカー)は彼をバーに誘う。 酒を断っていたアルヴィンは、第二次大戦に従軍して辛い目に遭い、帰国して酒浸りになり自堕落な生活を送ったことなどをヴァーリンに話す。 同じ戦争経験者のヴァーリンも、悲惨な思い出を語りながら涙する。 仲間や敵兵士の顔までもが思い出されると言うアルヴィンは、狙撃兵だった自分が、偵察兵として優秀だった同僚を撃ってしまったことを話す。 双子の兄弟の修理屋にトラクターを直してもらったアルヴィンは、請求金額が割高だと指摘して、明細について聞き交渉する。 金額を引き下げた双子に10年間も疎遠になっていた兄に会う話をしたアルヴィンは、”兄弟”の大切さを語る。 その夜、翌早朝に発つつもりのアルヴィンは、世話になったダニーに心から感謝する。 楽しい時を過ごせたと言うダニーは、手紙を待っていると伝え、アルヴィンはそれを約束する。 翌朝、旅立つアルヴィンに気づいたダニーは、家の中からその様子を見守る。 ミシシッピ川を越えてウィスコンシンに入ったアルヴィンは墓地の近くで野宿をして、食事を提供してくれた牧師と話し、会いに行く兄ライルが近くにいるのを感じることを伝える。 教区の信者であったライルが脳卒中で倒れたことを知っていた牧師に、アルヴィンは兄が無事かを尋ねるが不明だった。 何をするにも一緒で仲のいい兄弟だった二人が、なぜ仲違いをしたかを聞かれたアルヴィンは、”カインとアベル”と同じだと答える。 喧嘩の原因は問題ではなく、アルヴィンはとにかく仲直りして昔のように一緒に時を過ごしたいと話す。 そう祈っていることを牧師もアルヴィンに伝える。 翌日、バーに寄ったアルヴィンは、長年断っていた酒を口にする気になりビールを注文する。 ライルの家を教えてもらったアルヴィンは、丘を越えて街道を離れ田舎道を進んでいたところで、疲れを感じてエンジンを止める。 現れたトラクターの男性に先導されライルの家を知らされたアルヴィンは、ようやく目的地に到着する。 粗末な小屋に向いライルの名前を呼んだアルヴィンは、返事が聞こえたため安心する。 二人はポーチに腰かけて、ライルは、トラクターに乗り自分に会いに来たのかをアルヴィンに問う。 アルヴィンとライルは無言のまま、少年時代に二人でいつも見上げていた夜空の星を思い出す。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
アイオワ州、ローレンス。
アルヴィン・ストレイトは、二本の杖でようやく歩行する病気持ちである73歳の老人だった。
ある日、仲違いして10年間も疎遠だった兄ライルが倒れたことを知ったアルヴィンは、500キロ以上離れたウィスコンシンのマウント・ザイオンに向かう決心をする。
娘ローズに反対されるものの頑固なアルヴィンは、車も運転できないため、芝刈り機を改造して荷車を牽引して出発する。
ところが、芝刈り機はたちまち壊れてしまい、一旦、町に戻ったアルヴィンは、別の芝刈り機を購入して再び旅に出る。
アルヴィンは様々な人々と出会いながら、兄ライルと仲直りをしたい一心で旅を続ける・・・。
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一人の老人の旅を通して、人の一生についてを考えさせられる感動のヒューマン・ドラマ。
主人公の老人は頑固で身勝手なところもあり、青年期には自堕落な生活も送り、また戦争で非常に辛い思いをした過去がある。
出会う人々や観客も冷や冷やしながらその行動を観ることになるのだが、老人は人生経験が豊富であるため、怖いもの知らずで旅を続ける姿が実に逞しい。
畑で野宿するのは怖くないのかと問われる主人公が、戦地の塹壕で戦った体験に比べれば、トウモロコシ畑など怖くないというセリフが面白い。
その言葉にただ苦笑している観客は、後に主人公の戦争での辛い体験を知ることになり、しみじみとその言葉が生きてくるという、人の心に触れるジョン・E・ローチとメアリー・スウィーニーの細やかな脚本を生かしたデヴィッド・リンチの奥深い演出に注目したい。
アメリカ中部の雄大な農地や地形、そして美しい映像が、主人公の進む速度と相まって穏やかで心地よい気分にさせてくれる。
主演のリチャード・ファーンズワースは、人生の年輪を感じさせてくれる主人公を見事に演じ、第72回アカデミー賞では主演男優賞にノミネートされた。
旅から一旦、引き返したリチャード・ファーンズワースが、壊れた芝刈り機を銃撃するシーンの銃の構え方は、10代の頃からスタントマンやカウボーイ役が本職であっただけあり、”本物”を感じさせるファンに取っては嬉しい演出だ。
本作の北米公開の翌年、彼は癌を苦にショットガンで自殺した。
火事が原因で役所に子供達を奪われ、辛い思いをしながら主人公である父親と暮らす娘を実力派らしく好演するシシー・スペイセク、クライマックスの数分しか登場しないものの、表情だけで思いを伝える見事な演技を見せる主人公の兄役ハリー・ディーン・スタントン、農機具販売業者エヴェレット・マッギル、主人公を気遣い親切にする男性ジェームズ・ケイダ、主人公の隣人ジェーン・ギャロウェイ・ハイツ、主人公と戦争体験を語り合う老人ウィリー・ハーカー、ヒッチハイカーの少女アナスタシア・ウェッブなどが共演している。