過去の心の傷が原因で精神を患う女性が献身的に尽くす医師と夫の努力により病を克服していく姿を描く、製作、監督アナトール・リトヴァク、主演オリヴィア・デ・ハヴィランド、マーク・スティーヴンス、レオ・ゲン、セレステ・ホルム他共演によるヒューマンドラマの秀作。 |
■ スタッフ キャスト ■
監督:アナトール・リトヴァク
製作総指揮:ダリル・F・ザナック
製作
ロバート・バスラー
アナトール・リトヴァク
原作:メアリー・ジェーン・ウォード
脚本
フランク・パートス
ミレン・ブレンド
撮影:レオ・トーヴァー
音楽:アルフレッド・ニューマン
出演
ヴァージニア・スチュアート・カニンガム:オリヴィア・デ・ハヴィランド
ロバート・カニンガム:マーク・スティーヴンス
マーク・キック医師:レオ・ゲン
グレース:セレステ・ホルム
デイヴィス:ヘレン・クレイグ
ゴードン:リーフ・エリクソン
ルース:ルース・ドネリー
ヘスター:ベッツィー・ブレア
グリア夫人:ビューラ・ボンディ
トミーの母:メエ・マーシュ
アメリカ 映画
配給 20世紀FOX
1948年製作 107分
公開
北米:1948年11月13日
日本:1950年3月14日
■ アカデミー賞 ■
第21回アカデミー賞
・受賞
録音賞
・ノミネート
作品・監督
主演女優(オリヴィア・デ・ハヴィランド)
脚本・作曲賞(ドラマ・コメディ)
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
ヴァージニア・スチュアート・カニンガム(オリヴィア・デ・ハヴィランド)は、ベンチに座り、自分の居場所もわからないまま、近くにいたグレース(セレステ・ホルム)に話しかける。
看護師に声をかけられても、そこが動物園なのかと思うヴァージニアは、入り口に鍵をかけられたことで、そこが刑務所だと思い込む。
”ジェニパー・ヒル州立精神病院”の医師マーク・キック(レオ・ゲン)は、ヴァージニアを観察しながら質問するが、彼女は居合わせた夫ロバート(マーク・スティーヴンス)のことも、誰なのかを思い出せない。
ロバートは、今思うと、ヴァージニアが正常ではない振る舞いをしていたことを思い起こし、キックに話し始める。
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シカゴの出版社に勤めていたロバートは、小説を売り込みに来たヴァージニアと親しくなるのだが、彼女は自分のプライベートに触れようとしなかった。 交際を始めた二人は、ある日コンサートに行く約束をするが、劇場に行く直前に、突然ヴァージニアは立ち去ってしまい、ロバートは、それがシカゴでの彼女との別れとなる。 ニューヨークに移り住んだロバートは、ある日、コンサート会場前で、偶然にヴァージニアと再会する。 その後、二人は幸せな生活を続け、ロバートは、以前から結婚を考えていたものの、彼女に気を使い、様子を窺っていた。 しかし、映画を見た帰り道、ロバートはヴァージニアから結婚をせかされ、そして二人は数日後に婚姻届を出す。 そして、二人が新婚生活を始めた5月のある日、ヴァージニアは正気を失ってしまう。 ロバートの話を聞いたキック医師は、二人がシカゴで別れた日付と、結婚後、ヴァージニアが取り乱した日が同じ日の可能性を指摘する。 さらにキックは、ヴァージニアへの電気ショック療法を提案し、ロバートはそれを承諾する。 ヴァージニアへのショック療法は始るが効果がなく、ようやく4回目の治療で改善の兆しが見える。 そして、その翌日の夜、ヴァージニアは混乱状態を脱し、自分がなぜ、精神患者と共に収容されているかを疑問に思い、キックにそれを質問する。 ヴァージニアは、収容されてからの記憶はないが冷静さを取り戻し、キックの質問に答え始める。 追い詰められる状況になると、ヴァージニアは再び取り乱すものの、キックの問いかけに、自分には夫がいたことを理解する。 夫ロバートと会ってみる気になったヴァージニアは、彼が本人かを警戒しながら二人で外出する。 ヴァージニアは、自分の病気を素直に受け止め、ロバートも、彼女が”神経衰弱”だと正直に伝え、二人で協力し合い病を克服しようと決意する。 ロバートは、ヴァージニアから貰ったライターを彼女に見せ、自分が本当に夫だということを伝えて安心させるのだが、ヴァージニアの警戒心は完全には消えていなかった。 その頃、病院側は患者数増加に伴い、ヴァージニアの退院を検討し始める。 しかしキックは、愛を受け入れられないヴァージニアを夫と生活させることに反対し、治療を継続せるよう主張する。 病院側の考えは変わる気配はなく、キックはヴァージニアに、麻酔薬療法を試みる。 ヴァージニアがシカゴで、ロバートの前から消え去った時のことを思い出させたキックは、彼女がゴードン(リーフ・エリクソン)という男性と会おうとしていたことを知る。 ロバートと別れたその日、”5月12日”のことがヴァージニアの脳裏に甦る。 ゴードンと出かけたヴァージニアは、彼に結婚を切り出され、突然、動揺し帰宅すると言い出すが、車は事故を起こしてゴードンは死亡する。 それを自分の罪だと思い込むヴァージニアは、”5月12日”になると錯乱状態を起こしてしまうのだった。 その結果キックは、ヴァージニアを退院させるべきではないことを病院に報告する。 ロバートは、ヴァージニアを退院させ母の農場で生活しようと考えるが、彼女は周囲の患者を見て、自分も同じだと自し、ロバートと離婚しようとする。 ロバートはそれを気にすることなく、ヴァージニアの退院審査があることを彼女に伝える。 治療は長引くと、キック医師に言われていたヴァージニアは、不安を抱えながら審査を受ける。 キックも含めた、多数の医師と職員の前で、激しい質問を受けたヴァージニアは、錯乱状態に陥ってしまう。 ロバートは、退院は早すぎると言うキックの意見を聞かずに、それを急がせたことをヴァージニアに告げる。 ヴァージニアは、キックが自分を見捨てていなかったことを知る。 やや不安が解消されたヴァージニアは、環境の良い第1病棟に移され、看護師長デイヴィス(ヘレン・クレイグ)の監視下に置かれる。 キックは引き続きヴァージニアの治療を続け、彼女が父に叱られたトラウマを抱えていることに気づく。 幼い頃、母親を嫌っていたヴァージニアは、優しく愛情を注いでくれた父親の死に心を痛めたことをキックは知る。 そんな時、デイヴィスをからかってしまったヴァージニアは、部屋を抜け出し身を隠したため、拘束服を着せられて33病棟に移されてしまう。 ヴァージニアは、担当医がキックと変わってしまったことを知らされてショックを受ける。 周囲を含めた異常な様子を、ヴァージニアは外部から見ているような感覚になり、それがあたかも”蛇の穴”でうごめく蛇のように感じるのだった。 それが強い刺激となり、ヴァージニアは自我を取り戻しつつあることに気づく。 そんなヴァージニアの変化を、キックは分析する。 父親に優しさや憧れを抱いた幼いヴァージニアは、嫌いな母親を父が擁護すると愛されていないと思いこみ、今度は父を排除しようとする。 父親が死ぬと、ヴァージニアは罪悪感を感じ、その記憶を無意識の中に閉じ込めてしまい、ゴードンとは父親を思い出すために付き合った。 ゴードンに求婚されると、ヴァージニアの心の中で反発が置きて排除したくなり、彼が亡くなると再び罪悪感を感じた。 そしてヴァージニアは、優しくて包容力もあるロバートに再会する気になるのだが、父親と夫の違いに気づき彼を避けてしまった。 ヴァージニアは、キックの分析を明確に理解し、全快する希望を感じ取る。 やがて、キックはヴァージニアに退院審査を受けることを勧め、彼女も以前とは違う気持ちでそれに挑む。 審査をパスしたヴァージニアは退院することになり、彼女が自分を慕う患者のヘスター(ベッツィー・ブレア)に寄り添う。 すると、一言も言葉を話さなかったヘスターが別れを告げたために、ヴァージニアは感激する。 見違えるようになったヴァージニアに、声をかけたキックは、彼女から必ず治ると思った理由を聞かされる。 ヴァージニアは、”もうあなたには恋していないからよ”とキックに語りかけ、”初めからしていないさ”とキックは答える。 そして、待ち構えていたロバートから、結婚指輪をはめてもらったヴァージニアは、新しい人生を歩み始める。
...全てを見る(結末あり)
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*(簡略ストー リー)
一見、普通に見える女性ヴァージニア・スチュアート・カニンガムは、出版社に勤める男性ロバートと親しくなる。
ロバートは、ヴァージニアの言動が気になりながらも、彼女と結婚することになる。
しかし、ロバートの心配は現実となり、ある日、ヴァージニアは正気を失ってしまう。
精神病院に入れられたヴァージニアは、その後、キック医師の献身的な治療と観察で、症状の改善が見られるようになる。
ヴァージニアは、ようやく夫がいたことを理解し、二人で病気を克服しようと誓う。
やがて、ヴァージニアが、父親の愛情を失ったトラウマから、神経衰弱状態に陥ったことが分かるのだが・・・。
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原作者のメアリー・ジェーン・ウォード自身が、1941年に精神障害で入院していた体験談を、自叙伝として発表した同名小説の映画化。
現在では珍しくない、精神障害を抱えた人々の生活を生々しく描写した作品として、その先駆けとなったことで意味深い作品でもある。
人間の逞しさや、希望を力強く描きつつ、優しさで包み込むようなアナトール・リトヴァクの演出は見事だ。
精神の錯乱状態から、脱するきっかけになる主人公の客観的な感覚、”蛇の穴”を表現する幻想的な映像や、クラシックを用いたアルフレッド・ニューマンの音楽なども素晴らしい効果を上げている。
第21回アカデミー賞では作品賞以下6部門にノミネートされ、録音賞を受賞した。
・ノミネート
作品、監督
主演女優(オリヴィア・デ・ハヴィランド)
脚本、作曲賞(ドラマ・コメディ)
目まぐるしく揺れ動く心の乱れを、迫真の演技で演じたオリヴィア・デ・ハヴィランドは、「遥かなる我が子」(1946)のアカデミー主演賞受賞に続くノミネートとなり、翌年に「女相続人」(1949)で再び主演賞を受賞するという、正に役者としての全盛を迎えていた頃の作品。
ノーメイクで見せる精神患者の表情他、小柄ながら、迫力を感じる体当たりの演技は、見応えがある。
主人公を温かく見守る夫のマーク・スティーヴンス、真心が伝わる献身的な医師のレオ・ゲン、精神患者セレステ・ホルム、ルース・ドネリー、ビューラ・ボンディ、当時のジーン・ケリー夫人ベッツィー・ブレア、看護師長ヘレン・クレイグ、主人公の亡くなった恋人のリーフ・エリクソン、患者の母親で端役で登場するメエ・マーシュなど脇を固める共演者も注目だ。