1995年に発表された、ベルンハルト・シュリンク自身の少年時代の経験を基にした世界的ベストセラー小説”朗読者”の映画化。 純情な少年と母親ほどの年齢差のある秘密を持った女性との悲痛な恋愛と、第二次大戦の罪を自ら厳しく追求しようとするドイツの戦争責任についてを描く、製作シドニー・ポラック、アンソニー・ミンゲラ、監督スティーブン・ダルドリー、主演ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ、ダフィット・クロス、ブルーノ・ガンツ、レナ・オリン他共演の社会派ドラマとも言えるロマンス。 |
・レイフ・ファインズ / Ralph Fiennes / Pinterest
■ スタッフ キャスト ■
監督:スティーブン・ダルドリー
製作総指揮
ボブ・ワインスタイン
ハーヴェイ・ワインスタイン
製作
アンソニー・ミンゲラ
シドニー・ポラック
レドモンド・モリス
ドナ・ジグリオッティ
原作:ベルンハルト・シュリンク”朗読者”
脚本:デヴィッド・ヘアー
撮影:クリス・メンゲス
編集:クレア・シンプソン
音楽:ニコ・ミューリー
出演
ケイト・ウィンスレット:ハンナ・シュミッツ
レイフ・ファインズ:マイケル・バーグ
ダフィット・クロス:マイケル・バーグ(少年時代)
ブルーノ・ガンツ:ロール教授
レナ・オリン:ローゼ・マーサー/イラーナ・マーサー
アレクサンドラ・マリア・ララ:イラーナ・マーサー(若年期)
ハンナー・ヘルツシュプルング:ジュリア
ズザンネ・ロータ :カーラ・バーグ
キャロライン・ハーフォース:マース
アメリカ/ドイツ 映画
配給 ザ・ワインスタイン・カンパニー
2008年製作 124分
公開
北米:2008年10月10日
ドイツ:2009年2月26日
イギリス:2009年1月2日
日本:2009年6月19日
製作費 $32,000,000
北米興行収入 $34,194,410
世界 $108,901,970
■ アカデミー賞 ■
第81回アカデミー賞
・受賞
主演女優(ケイト・ウィンスレット)
・ノミネート
作品・監督・脚色・撮影賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1995年ベルリン。
弁護士のマイケル・バーグ(レイフ・ファインズ)は、窓の外を走り抜けるベルリンSバーン(都市鉄道)を見て思い出にふける。
__________
1958年。
路面電車に乗っていた、15歳のマイケル・バーグ(ダフィット・クロス)は気分が悪くなる。
マイケルは電車を降りた後、通りがかりの女性ハンナ・シュミッツ(ケイト・ウィンスレット)に介抱される。
元気を取り戻し、家まで送られたマイケルは猩紅熱だと分かり、3ヶ月間の静養が必要になる。
回復したマイケルは、花束を持ちハンナのアパートを訪ねてお礼を言う。
ハンナと軽い会話を交わしたマイケルは、彼女が着替える姿を見てしまい、気まずくなってその場を立ち去る。
マイケルは、路面電車の車掌であるハンナに惹かれ、その後も彼女の家を訪ねて、愛し合ってしまう。 36歳のハンナは、息子のようなマイケルと恋に落ちて、二人は密会を重ねるようになる。 やがて、ハンナはマイケルの朗読に興味を持ち、ホメロスの”オデュッセイア”やチェーホフの”犬を連れた奥さん”などを読んで聞かせてもらう。 その後マイケルは、趣味で集めていた切手を売り現金を手に入れ、ハンナとサイクリングの小旅行に出かける。 ハンナは、田舎の教会で聖歌隊の歌声を聴き、感極まりそうになるが、マイケルにはその理由が分からない。 旅行から帰ったマイケルは、同じクラスの女子生徒を気にしながらも、ハンナとの愛を深めていく。 そんな時、ハンナは仕事振りが評価されて昇進し、事務職に就くことになる。 ハンナの様子がおかしいことに気づきながらも、マイケルは彼女と愛し合う。 そんなマイケルに、誕生日のパーティーを用意してくれた友達の元に行くようハンナは伝える。 マイケルが去った後、荷造りを始めたハンナはアパートを引き払い姿を消してしまう。 友達と過ごしていたマイケルは、どうしてもハンナに会いたくなり彼女の元に向かうが、その姿はなかった。 マイケルはショックを受け、抜け殻のようになりながら、時は過ぎる。 1995年。 1966年。 ロール教授は、アウシュヴィッツの親衛隊女性看守6人の裁判(フランクフルト・アウシュビッツ裁判)を、マイケルら学生らに傍聴させることにする。 マイケルはそこで、被告人の一人”ハンナ・シュミッツ”の名前を聞き驚いてしまう。 8年前、突然自分の前から姿を消したハンナが、ユダヤ人に対し、非人道的な行為をした罪で裁かれようとしていたのだった。 ハンナは裁判で、殺害する囚人を、事務的に選ぶ行為を看守の職務だと認めてしまう。 当時収容所に入れられていた生き残りイラーナ・マーサー(アレクサンドラ・マリア・ララ)は、6人の看守が囚人を死に追いやったことを証言する。 裁判は大詰めに近づき、1944年にアウシュヴィッツから移動させられた”死の行進”で犠牲になった、300人の女性の事件について言及される。 その生き残り、イラーナの母ローゼ・マーサー(レナ・オリン)が、事件の様子を涙ながらに証言する。 自分達の同胞が犯した罪を厳しく非難し、被告を自らの手で殺害したいという学生に対して、マイケルは、被告について理解する必要があると反論する。 その後、マイケルはアウシュヴィッツを訪れ、当事者や裁判の意味について考える。 裁判では、ハンナの役割が厳しく追及され、被告達は彼女が責任者で、報告書を書いたと言い始める。 ハンナは法廷で筆跡鑑定を強要されそうになるが、動揺する彼女を見たマイケルは、その驚くべき秘密に気づく。 文盲だったハンナが、自分に本の朗読をさせたこと、小旅行でメニューを見て戸惑っていた彼女、そして教会での出来事など・・・。 そして、ハンナは筆跡鑑定を避けるために、報告書を書いたことを認めてしまう。 マイケルは、ハンナの秘密を告白して助けるべきかなのか、どんな行動をとっていいのかを迷ってしまう。 自分の異変を気にしていたロール教授に、マイケルは囚人の一人と関係があり、彼女に有利な事実を知っていることを告げる。 さらにマイケルは、彼女が人前で恥をさらしたくないために、罪を認めたことをロール教授に知らせる。 ロール教授は、このゼミを行う意味は、過去から学ぶべきものがあるからだと、マイケルに話して聞かせる。 マイケルは、獄中のハンナに面会しようとするが、直前で引き返してしまい、同僚の女学生マースの元に向かい愛し合う。 そして、被告達に判決が下り、ハンナには誰よりも重い終身刑が言い渡され、マイケルは彼女を哀れみ、無力な自分に幻滅して涙する。 1976年。 荷物をまとめていたマイケルは、かつてハンナに読んであげた”オデュッセイア”を見つける。 マイケルは、それを朗読しテープに録音して、ハンナに送ることを思いつく。 テープとテープレコーダーを受け取ったハンナは戸惑うが、それがマイケルの朗読だと知り驚いてしまう。 マイケルはテープを送り続けるが、ある日ハンナは、彼が読んでくれた”犬を連れた奥さん”の原本を、刑務所の図書館で借りてみることにする。 ハンナは、テープを一言一句聞きながら、文字を覚え、読み書きを学び始める。 1980年。 しかし、マイケルは返事を書かずにテープを送り続ける。 1988年、西ベルリン。 身よりのないハンナの、出所後の世話を刑務所側から求められたマイケルは、刑務所に出向き、ハンナと30年振りに再会をする。 ハンナの、社会復帰のための準備を整えたマイケルは、それを彼女に告げて、出所の日に迎えに来ることを約束する。 しかし、ハンナは出所の前日に首を吊って自殺してしまう。 ハンナは、”死の行進”の生き残りであるイラーナに、現金と預金口座の金を渡すよう綴った手紙と、古いお茶の缶をマイケルに遺していた。 ニューヨーク。 マイケルは、ハンナが刑務所に入る前は文盲だったことをイラーナに知らせる。 イラーナは、子供の頃に、アウシュヴィッツで没収されたお茶の缶を思い出し、缶だけ受け取り、現金は慈善団体に寄付するようマイケルに伝える。 1995年1月。 教会の横に眠るハンナの墓の前で、マイケルは誰にも話したことのなかった物語を、ジュリアに語り始める。
...全てを見る(結末あり)
__________
パリから戻った娘ジュリア(ハンナー・ヘルツシュプルング)と食事をしたマイケルは、自分との関係に距離を感じている彼女を気遣う。
__________
ハイデルベルグ大学の法学生になっていたマイケルは、同僚の女子学生マース(キャロライン・ハーフォース)らと共に、第二次大戦中、ナチス・ドイツの強制収容所に入れられていた、ロール教授(ブルーノ・ガンツ)の特別ゼミを受けることになる。
__________
結婚して子供も生まれていたマイケルだったが、妻との離婚を決意する。
そしてハンナは、短い文章でマイケルにお礼の手紙を書き、マイケルはそれを見て感激する。
20年の刑に減刑されたハンナは釈放されることになり、それがマイケルに知らされる。
イラーナ(レナ・オリン)を訪ねたマイケルは、現金の入ったお茶の缶を彼女に渡す。
__________
マイケルは娘ジュリアを連れて、かつてハンナと行った小旅行で立ち寄った教会に向かう。
*(簡略ストー リー)
下校途中、体調を崩した少年マイケルは、路面電車の車掌で、親子ほど年の違う女性ハンナ・シュミッツに介抱され、やがて愛し合うようになる。
その後マイケルは、ハンナなしではいられなくなり、彼女が興味を持った朗読をして喜ばせる。
しかし、ある日、ハンナは忽然と姿を消してしまい、マイケルは絶望してしまう。
法学生となったマイケルは、偶然にも法廷で、ナチスの戦犯として裁かれるハンナの姿を目撃してしまう。
そしてマイケルは、ハンナが好んだ朗読や行動に、重大な秘密が隠されていたことを知る・・・。
__________
第81回アカデミー賞では、作品、監督、脚色、撮影賞にノミネートされ、主演女優賞をケイト・ウィンスレットが受賞した。
地味な作品ながら、全世界で1億ドルを超す興行収入を上げた。
「リトル・ダンサー」(2000)「めぐりあう時間たち」(2002)、そして本作と、デビューから3作連続でアカデミー監督賞候補になった、スティーブン・ダルドリーの、繊細な演出と奥深い人間描写は出色だ。
40年弱に及ぶ、それぞれの時代の社会情勢などを描写した見事なセットや映像に加え、ニコ・マーリーの美しい音楽も素晴らしい効果を上げている。
主人公が、旅した先の教会で見せる異様な表情に隠された秘密、さらにサスペンスを思わせる失踪事件から、秘密が解き明かされる中盤からの濃密な展開も見応えがある。
貧しさと孤独の中で生活するが故に、文盲を頑なに隠すようになってしまい、哀れな人生を終えていく主人公の苦悩を、ケイト・ウィンスレットは迫真の演技で演じ、特に60代を過ぎた物静かな老女を演じる際の、異常なまでに青い目の演技には心打たれる。
この役は、ケイト・ウィンスレットの企画で始まり、彼女のスケジュールの関係で、主役がニコール・キッドマンに交代、今度は彼女が妊娠してしまい、再びケイト・ウィンスレットの役になったという経緯がある。
同じスティーブン・ダルドリーの「めぐりあう時間たち」で主演し、メイクで変貌したニコール・キッドマンだったが、お姫様のような彼女より、この役はケイト・ウィンスレットが演じて正解だっただろう。
回想の場面で登場の前半から、彼らしい重厚な演技を見せてくれる後半のレイフ・ファインズは、年をとっても優柔不断さが変わらないところなどもうまく演じてもいる。
少年から青年のマイケルを演じたダフィット・クロスも、純情な少年を、18歳とは思えない確かな演技で演じ切っている。
30年前の「ブラジルから来た少年」(1978)でクローン技術を説明する若き教授に扮したのが印象に残るゼミの教授ブルーノ・ガンツ、アウシュヴィッツの生存者母子二役を演ずるレナ・オリンなどの重みのある演技がドラマに厚みを加えている。
その娘(若年期)役アレクサンドラ・マリア・ララ、マイケル(R・ファインズ)の娘役のハンナー・ヘルツシュプルング、マイケルの母ズザンネ・ロータ、大学時代の同僚女学生キャロライン・ハーフォースなどが共演している。