1953年に発表された、デヴィッド・グラブのスリラー小説”狩人の夜”を基に製作された作品。 連続殺人犯の狂気の行動と彼から逃れようとする幼い子供達の恐怖体験を描く、名優チャールズ・ロートンが監督した唯一の作品であり、主演ロバート・ミッチャム、シェリー・ウィンターズ、リリアン・ギッシュ他共演による、フィルム・ノワールの傑作。 |
■ スタッフ キャスト ■
監督:チャールズ・ロートン
製作:ポール・グレゴリー
原作:デヴィッド・グラブ”狩人の夜”
脚本:ジェームズ・エイジー
撮影:スタンリー・コルテス
編集:ロバート・ゴールデン
音楽:ウォルター・シューマン
出演
ハリー・パウエル:ロバート・ミッチャム
ウィラ・ハーパー:シェリー・ウィンターズ
レイチェル・クーパー:リリアン・ギッシュ
バーディ・ステップトウ:ジェームス・グリーソン
ベン・ハーパー:ピーター・グレイブス
アイシー・スプーン:イヴリン・ヴァーデン
ウォルト・スプーン:ドン・ベドー
ジョン・ハーパー:ビリー・チャピン
パール・ハーパー:サリー・ジェーン・ブルース
ルビー:グロリア・カスティロ
アメリカ 映画
配給 ユナイテッド・アーティスツ
1955年製作 92分
公開
北米:1955年7月26日
日本:1990年3月9日
製作費 $795,000
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1930年代、ウェストバージニア州。
福音伝道師を装う殺人鬼のハリー・パウエル(ロバート・ミッチャム)は、窃盗容疑で逮捕され30日間の禁固刑を言い渡される。
オハイオ川沿い。
大恐慌下で苦しい生活を続けていたため、銀行を襲い殺人を犯したベン・ハーパー(ピーター・グレイブス)は、警官に追われながら自宅に向かう。
奪った現金を隠したハーパーは、息子ジョン(ビリー・チャピン)に妹パール(サリー・ジェーン・ブルース)を守ることと、隠した現金1万ドルの件は誰にも話さないことを誓わせる。
ハーパーは駆けつけた警官に逮捕連行され、妻ウィラ(シェリー・ウィンターズ)は子供達と共に夫の行方を見守る。
強盗殺人罪で絞首刑の判決を受けたハーパーは、パウエルと同じ監房に入れられる。 パウエルは、銀行強盗のハーパーから現金の隠し場所を聞き出そうとして、それを子供が知っていることに気づく。 その後ハーパーの刑は執行され、ジョンとパールは、殺人犯の死刑囚の子供と言われて辛い思いをする。 出所したパウエルは、ハーパーの家に向かい様子を窺う。 ジョンは、桟橋の管理人の老人バーディ・ステップトウ(ジェームス・グリーソン)に父親のボートの修理を頼む。 母ウィラが働くアイシー・スプーン(イヴリン・ヴァーデン)の店に向かったジョンは、その場にいた牧師だと言うパウエルに気づく。 パウエルは刑務所の専属牧師だったと偽り、ハーパーの死を見届けて辞職し家族を慰めに来たと伝える。 右手の指に”L-O-V-E”(愛)、左手には”H-A-T-E”(憎しみ)と刺青をした手を合わせ、パウエルは善悪についてを語り、愛が勝つという話をしてアイシーを感心させる。 ジョンはパウエルを警戒するが、パールは彼に懐く。 ピクニックに参加したパウエルを気に入ったアイシーは、彼との結婚をウィラに勧める。 夫を亡くしたばかりのウィラは、躊躇しながらもパウエルと話をする。 ジョンを呼び寄せたパウエルは、ハーパーが死ぬ前日に、盗んだ現金を川に沈めたという話をする。 現金のある場所を知らなかったウィラは、心の負担が消えたと言うが、ジョンはパウエルを疑うようになる。 その後、パウエルから、ウィラと結婚する言われたジョンは動揺する。 新しい父親を認めたくないジョンは、何も話さないと言ってしまい、パウエルは彼に探りを入れる。 結婚式を終えてウィラと旅立ったパウエルは、欲望のために夫婦になったのではないことを彼女に伝えそれに従わせる。 ジョンと釣りをしていたバーディは、伝道師だというパウエルが怪しい男だと考え、危険を感じたら教えるようにと忠告する。 旅行から戻ったウィラはパウエルの伝道を手伝い、狂信的な発言をするようになる。 そんな時パールは、人形に隠してあった現金で遊んでしまい、それをパウエルに気づかれそうになったジョンは焦る。 パウエルは、現金のことでジョンにプレッシャーをかけ、扱い易いパールからそのことを強引に聞き出そうとする。 同じ頃、アイシーの夫ウォルト(ドン・ベドー)は、パウエルに邪悪さを感じると妻に話す。 ウィラは、現金が川ではなくこの場にあることで、自分達の心が汚れると考える。 現金が目当ての結婚ではなく神が導いたと信じるウィラだったが、パウエルは彼女をナイフで刺殺する。 翌日、ウィラが逃げたっと言ってアイシーの店に現れたパウエルは、子供は自分が育てると涙しながら語り同情を買う。 ウィラは車ごと川に沈められていたのだが、釣りをしていたバーディの釣り針に車体が引っかかり、彼は水中のウィラを発見する。 パウエルから逃れるために地下室に隠れていたジョンとパールだったが、アイシーが現れ、その場から出て来るようにと言われ仕方なくそれに従う。 バーディは、自分が殺人犯だと疑われることを恐れて動揺する。 パウエルは空腹だったパールに対し、食事を前にして秘密を話すようにと言って脅す。 パールが涙を流す姿を見たジョンは、現金は地下室の床下に埋めたことをパウエルに話しその場に向かう。 床下に現金がないことを知ったパウエルは、ナイフを手にしてジョンを脅す。 怯えるパールは人形の中に現金があることを話してしまうが、ジョンは隙を見て彼女を連れてその場から逃れる。 パウエルを閉じ込めたジョンは、バーディの元に向かうものの、彼は酔い潰れていた。 仕方なくジョンはボートに乗り、追ってきたパウエルをかわしてパールを連れて川を下る。 1週間後。 川沿いの家でわずかな食料を恵んでもらい、その後、たどり着いた納屋で眠っていたジョンとパールは、馬に乗り自分達を捜すパウエルに気づき更に川を下る。 ボートが岸辺に着き朝を迎えたジョンとパールは、身寄りのない子供達の世話をする老女レイチェル・クーパー(リリアン・ギッシュ)に起こされ家に連れて行かれる。 体を洗ってもらい食事を与えられたジョンとパールは、その場で暮らすルビー(グロリア・カスティロ)らと共に生活を始める。 レイチェルらと共に町に卵を売りに行ったルビーは、少年達に声をかけられ年頃の少女らしく彼らを気にする。 聖書の教えに従い子供達を厳しく躾けるレイチェルだったが、両親のいないジョンは彼女を慕う。 町に向かったルビーは、現れたパウエルに声をかけられ、ジョンとパールのことを話してしまう。 裁縫の稽古だと言って町に行っていたルビーは、実は少年達に会うのが目的だったことをレイチェルに告白し、ある男にジョンとパールのことを話したと伝える。 その男が二人の父親でもなさそうだと知ったレイチェルは不審に思う。 翌日レイチェルは、ジョンとパールの父親だと言って現れたパウエルを警戒する。 パールはパウエルに駆け寄るが、ジョンは彼が父親であることを否定する。 レイチェルは、パウエルが牧師でもなく悪人だと見抜き、人形を持って逃げるジョンに襲いかかろうとする彼に銃を向けて追い払う。 夜に戻ると言ったパウエルはその言葉通り現れ、レイチェルは動ずることなく、銃を手にし子供達を集めて警戒する。 パウエルは去ったと見せかけて姿を現すが、レイチェルに発砲されて納屋に逃げ込む。 レイチェルは警察に通報し、現れた警官は、パウエルをウィラ・ハーパー殺しで逮捕する。 その姿を見たジョンは、父親が逮捕された光景を思い出してパウエルに駆け寄る。 人形でパウエルを殴り現金は散らばり、そのせいで辛い思いをしたジョンは取り乱して気を失ってしまい、レイチェルが彼を介抱する。 やがて連続殺人犯であったパウエルの裁判は始まり、証人として法廷に現れたジョンは、彼を母親を殺した男だと証言することができない。 スプーン夫妻ら町の住民は、十字架を怪我した悪魔パウエルをリンチにかけようとして騒ぎ始める。 レイチェルは、ジョンや子供達を連れてその場を逃れる。 パウエルは、騒動が激しくなる前に移送される。 クリスマス。 レイチェルは、主に対して子供達に救いを求め、クリスマスの日だけに信仰を持つことに疑問を抱きながらも、ジョンらの幸福を願う。 子供達はそれぞれのプレゼントを喜び、ジョンは贈られた懐中時計を手にして、気に入ったことをレイチェルに伝える。 レイチェルは思う。
...全てを見る(結末あり)
パウエルは、子供達を連れて姉の農場に向かうという手紙をスプーン夫妻に残し、ジョンとパールを追う。
ジョンは、リンゴをレースに包んでレイチェルに贈る。
子供達”神の子”は素直で忍耐強いと・・・。
*(簡略ストー リー)
1930年代、大恐慌下のウェストバージニア州。
連続殺人犯である福音伝道師に扮したハリー・パウエルは、窃盗容疑で逮捕され服役する。
生活苦のため銀行強盗と殺人を犯したハーパーは、奪った1万ドルを隠し、その件を誰にも言わないように息子ジョンに誓わせるものの逮捕される。
ハーパーは絞首刑を宣告されて服役し、同じ監房のパウエルに奪った現金のことを知られてしまう。
その後ハーパーは処刑され、出所したパウエルは牧師を装いハーパーの家に向かい、彼の妻ウィラとの結婚を考える。
ジョンはパウエルを警戒するが、ウィラは知人に勧められてパウエルとの結婚を決意する。
そしてパウエルは、幼いジョンと妹パールを脅し、現金の隠し場所を聞き出そうとするのだが・・・。
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「ヘンリー八世の私生活」(1933)で、30歳前半にしてアカデミー主演賞を受賞したイギリスの名優チャールズ・ロートンの監督デビュー作品で、製作は彼の盟友ポール・グレゴリー。
公開当時は不評で興行的にも大失敗した作品であるため、チャールズ・ロートンの監督作は本作だけなのだが、その後に評価は高まり、1950年代を代表するスリラー映画として映画史に残る傑作となった。
1992年、アメリカ議会図書館が、国立フィルム登録簿に登録した作品でもある。
日本でも、評価が上がった後に公開が検討され、北米公開からなんと35年後の1990年にそれが実現した。
1955年当時を考えると凄まじい内容の作品で、聖職者を装う連続殺人鬼が、幼い子供達に容赦なく襲い掛かるというストーリーは、神への冒涜に近いと捉えられても致し方ないところだろうか。
その殺人鬼から逃れようとする子供達を追うショットにダブらせる、生物や植物そしてかわいらしい動物達を映し出す映像や、ファンタジックで神秘的な雰囲気を感じる描写が実に印象的だ。
また、少年が、憎んでいた主人公が逮捕される姿を見て、犯罪者ではあるが彼を父親に投影し精神的に錯乱する姿など、上記の描写も含めたチャールズ・ロートンの細やかな演出も注目したい。
現金に執着する暴力的な男の恐怖の行動を徹底的に描く物語かと思いきや、テーマには”神の救い”があり、主人公は、指に彫られた刺青”L-O-V-E”(愛)と”H-A-T-E”(憎しみ)で常に人間の善悪を語るなど、神の教えを歪んだ側面も含めてきっちりと描いているところなど深い内容となっている。
誰もが思うだろう、後年公開される「恐怖の岬」(1962)の主人公を彷彿させ、更にそれを上回るような異常者を熱演するロバート・ミッチャムの怪演は光る。
主人公が偽善者とも気づかぬまま、その教えを信じてしまい殺されるシェリー・ウィンターズ、後半のドラマを支える、身寄りのない子供達を世話する、全く隙を見せない老女を好演す名女優リリアン・ギッシュ、桟橋の老人ジェームス・グリーソン、銀行強盗殺人で絞首刑となるピーター・グレイブス、町の店主イヴリン・ヴァーデンとドン・ベドー、主人公から必死に逃れる兄妹ビリー・チャピン、サリー・ジェーン・ブルース、老女に世話になる少女グロリア・カスティロなどが共演している。