1913年に発表された、マリー・ベロック・ローンズの著書”The Lodger”を基に製作されたサイレント作品。 謎の連続殺人鬼事件に関わる下宿人一家を描く、監督、脚本アルフレッド・ヒッチコック、出演マリー・オールト、アーサー・チェスニー、ジューン、マルコム・キーン、アイヴァー・ノヴェロ他共演のサスペンス。 |
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■ スタッフ キャスト ■
監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作
マイケル・バルコン
カーライル・ブラックウェル
原作:マリー・ベロック・ローンズ”The Lodger”
脚本
エリオット・スタナード
アルフレッド・ヒッチコック
撮影:ジアターノ・ディ・ヴェンティミリア
編集:アイヴァー・モンタギュー
出演
バウンティング夫人:マリー・オールト
バウンティング:アーサー・チェスニー
デイジー・バウンティング:ジューン(ジューン・トリップ)
ジョー・チャンドラー刑事:マルコム・キーン
ジョナサン・ドリュー:アイヴァー・ノヴェロ
イギリス 映画
配給
Woolf & Freedman Film Service
Artlee Pictures
1927年製作 80分
公開
イギリス:1927年2月14日
北米:1928年月日
日本:未公開
製作費 £12,000
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
ロンドン。
毎週火曜日にブロンド女性が殺害される事件が起きて市内は騒然となり、現場には”アベンジャー”のメモが残されていた。
殺人鬼”アベンジャー”による7人目の犠牲者が出たことが新聞社に伝えられ、目撃者の証言で犯人は長身でマフラーで顔を隠していたということが報じられる。
翌日の新聞はトップ記事でそれを伝え、新聞社は忙しい火曜日が毎週続く。
ファッション・パレードのブロンドのモデル、デイジー・バウンティング(ジューン/ジューン・トリップ)や他のモデルは、新聞記事で事件を知り心配になる。
デイジーは、黒髪のカツラや帽子を被り冗談を言いながらブロンドを隠す。
その頃、デイジーの両親(アーサー・チェスニー/マリー・オールト)も新聞記事で殺人事件を知る。 バウンティングは、デイジーの恋人で警官のジョー・チャンドラー刑事(マルコム・キーン)に、警察も大忙しだと言ってからかう。 デイジーは帰宅し、自分も”アベンジャー”のようにブロンドが好きだと冗談を言う。 そこに、マフラーで顔を隠した男性ジョナサン・ドリュー(アイヴァー・ノヴェロ)が現れ、対応したバウンティング夫人に貸し部屋があるかを尋ねる。 部屋に案内された下宿人(ジョナサン・ドリュー)はその場を確認して、夫人から週2ポンド10ペンスと言われた家賃を一月分払う。 夫人を追い払うよいうに出て行ってほしいと伝える下宿人は、パンとバターそしてミルクを食事として頼む。 夫人が食事を運ぶと、下宿人は壁に掛けてあった女性の肖像画を全て裏返しにしていたため彼女は驚く。 下宿人はそれらを取り外すよう夫人に伝え、彼女はデイジーを部屋に呼ぶ。 デイジーと下宿人は対面して、互いに魅力を感じる。 絵を外したことをデイジーと夫人から知らされたジョーは、下宿人が女性を嫌いなのかと言って冗談を言う。 照明が揺れるほどの二階で歩き回る下宿人の足音が響き、三人はそれを気にする。 翌朝、朝食を運んできたデイジーに、下宿人は優しく接する。 ある夜、親交を深めるデイジーと下宿人は、彼の部屋でチェスを楽しんでいた。 現れたジョーは、アベンジャー事件の担当になったことをバウンティングと夫人に伝える。 それをデイジーに話したいと言われた夫人は、二階にいる娘を呼びに行く。 下宿人の部屋の暖炉の上にあった大金を見た夫人は、金庫にしまってほしいと伝えるが、彼は自分には現金より大切なものがあると答える。 犯人を必ず逮捕して自分と結婚すると言うジョーの言葉にデイジーは戸惑う。 ジョーはふざけてデイジーに手錠かけてしまい、嫌がる彼女の声を聞いた夫人と下宿人は、部屋を出てその様子を見に行く。 手錠を外されたデイジーは気分を害し、愚かな行為をするジョーを下宿人は軽蔑して見つめる。 デイジーは機嫌を直すものの二階に上がってしまい、ジョーはそれを気にする。 火曜日。 その後、あるブロンド女性が殺害され、”アベンジャー”の犯行であるメモが残されていた。 下宿人を不審に思った夫人は彼の部屋を調べ、鍵がかけられている戸棚に気づく。 翌朝、事件を新聞で知ったバウンティングは、それが家の近くで起きたことを妻に伝え、彼女は昨夜のことを考えて動揺する。 現れたジョーは、事件のことをバウンティングと夫人に話していたが、その時、二階からデイジーの叫び声が聞こえる。 デイジーと下宿人が抱き合っていたため驚くジョーは、何をしたのかを彼に問う。 ネズミが通ったため驚いただけだと言うデイジーだったが、ジョーは納得しない。 ジョーの態度に憤慨する下宿人は、彼に部屋から出るよう指示し、デイジーには優しく語り掛ける。 今回のようなことがあれば出て行くことを、下宿人は夫人に伝える。 デイジーに謝罪したジョーは怪しい言動の下宿人を警戒し、彼女をなだめて抱き寄せる。 夫人は、下宿人が昨夜遅くに外出して、30分後にこっそりと戻って来たことを夫に伝える。 下宿人を疑い始めた夫妻は、デイジーを彼と二人きりにしないようにしようとする。 その後、下宿人は、デイジーのショーを見に行き彼女はそれに気づく。 その頃、ジョーは同僚らと事件の捜査を続け、次の犯行場所を特定して警戒する。 帰宅したデイジーは、下宿人から贈られたドレスに気づき、彼がショーを見に来てくれたことを両親に伝える。 両親はそれを知り不安に思い、バウンティングはドレスを下宿人に返す。 火曜日の夜、入浴中のデイジーにドア越しに話しかけた下宿人は、ドレスの件を気にしているのかを尋ね、自分とのことを両親に疑われているのではないかと気を遣う。 デイジーは、笑いながらそれを否定する。 その後、デイジーと下宿人が外出したことを知り動揺する夫人は、それを夫に伝える。 今日が火曜の夜だと気づいた夫人は卒倒しかける。 警戒中だったジョーは、街角でデイジーと下宿人が寄り添う姿を目撃して憤慨しながら二人に近づく。 干渉し過ぎるジョーにうんざりするデイジーは、下宿人と共に帰ろううとする。 二人がその場を去った後、今までの下宿人の行動などを思い起こしたジョーは、彼が”アベンジャー”である可能性を考える。 家に帰り部屋に戻った下宿人は、デイジーと求め合う。 同僚達と現れたジョーは下宿人に話があると言って彼の部屋に向う。 デイジーと抱き合いキスする下宿人に、令状はあるためこの場を調べることをジョーは伝える。 鍵のかかっている戸棚を開けるために鍵を渡すよう下宿人に要求したジョーは、その中にあったバッグを調べようとする。 下宿人は動揺し、それを阻止しようとしてデイジーも口添えするが、バッグを開けたジョーは拳銃を確認する。 更に、殺人現場を示すトライアングルが記された地図があり、下宿人はその通りだと認める。 鞄には、事件の新聞記事や最初の犠牲者の女性の写真も入っていた。 それが妹だと言う下宿人に対し、ジョーは裁判で証言しろと伝えて抵抗する彼を逮捕する。 下宿人の無実を信じるデイジーは彼に寄り添い、街灯の下でと伝える。 隙を見て逃亡した下宿人は、街灯の下で震えながら眠ってしまい、現れたデイジーに起こされ、写真は本当に妹であることを伝える。 ダンスホールで妹と過ごしていた下宿人は、停電した直後に彼女が殺害され、アベンジャーのメモが残されていたことをデイジーに話す。 母はショックで病に倒れ、下宿人は死の床の母に犯人を捕えることを誓い、それを追っていたことをデイジーに伝える。 絶望する下宿人を励ましたデイジーは、震えている彼にマントを着せて手錠を隠し、パブに向いブランデーを飲ませる。 しかし、不審に思う客達の視線が気になる二人は店を出る。 直後に現れたジョーは、下宿人を捜すためにその場で電話を借りる。 逃亡者が手錠をしていると聞いた店員は、手を隠していた不審者がその男だったのではないかと客達に伝える。 客達は逃亡者を捕えるために店を出るのだが、ジョーは真犯人が逮捕されたことを本部から知らされる。 大変なことになると言って店を出たジョーは、下宿人を捕えようとする暴徒化した者達を追う。 デイジーと別れ単独で逃げた下宿人は、フェンスを越えようとするものの手錠が引っかかってしまう。 集まった人々は、制止するデイジーを無視して下宿人に殴り掛かり、駆けつけたジョーが彼を助けようとする。 アベンジャーが逮捕されたという号外が配られ、フェンスから下ろされた下宿人をデイジーが介抱する。 無実だった下宿人を救えたことでジョーは安堵する。 病院で治療を受けるジョナサン・ドリュー(下宿人)にデイジーが付き添う。 ジョナサンは、精神的緊張状態が続いたが直ぐに回復すると医師に言われる。 回復したジョナサンは、屋敷にデイジーと両親を招く。 そして、デイジーとジョナサンは愛を確かめ合う。
...全てを見る(結末あり)
その夜、物音で目覚めた夫人は、マフラーで顔を隠し部屋を出る下宿人を目撃する。
★ヒッチコック登場場面
上映から約3分、新聞社のデスクに座る後姿の男性。
そして約75分、下宿人が暴徒に襲われるクライマックス、刑事マルコム・キーンの横で、フェンスにぶら下がる犯人と疑われたアイヴァー・ノヴェロの腕を掴み、解放された彼を見つめる太った男性がアルフレッド・ヒッチコック。
2回登場するものの分かり難い。
*(簡略ストー リー)
ロンドン。
火曜日の夜、連続殺人鬼”アベンジャー”によるブロンド女性を狙う事件が起きる。
7人目の犠牲者が出たことで街は騒然となり、市民には不安が広がる。
そんな時、下宿屋を営むバウンティング家に、マフラーで顔を隠した男性ジョナサン・ドリューが部屋を借りるために訪れる。
バウンティング夫人に歓迎され部屋を借りることになった下宿人(ジョナサン)は、娘のデイジーと対面して互いに魅力を感じる。
デイジーの恋人である刑事のジョーは、デイジーと下宿人の関係を気にし始める。
次の火曜日、再びアベンジャーによる殺人事件は起き、夜中に外出した下宿人を目撃したバウンティング夫人は夫にそれを伝え、二人は彼を疑い始める。
そんなことも知らないデイジーは、優しい下宿人に惹かれ始め、娘を心配する両親は不安が募る・・・。
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マリー・ベロック・ローンズの原作のモデルになったのは、1888年に起きた”切り裂きジャック”事件である。
殺害の残虐さなどの描写はないが、異様な事件の雰囲気を伝えるアルフレッド・ヒッチコックの映像感覚は流石だ。
サイレント作品であるため音響効果はないのだが、二階で歩く下宿人の姿を透かせて見せる効果や、人の表情で伝える感情や恐怖感などの描写は素晴らしい。
アルフレッド・ヒッチコックが担当している脚本も注目で、犯人としか思えない姿で登場する下宿人がそれを追う立場であったと分かる、全ての辻褄が合う細やかな演出とクライマックスに至るまでの展開の組み立ても見事だ。
次第に下宿人を疑う下宿屋の夫人マリー・オールト、その夫アーサー・チェスニー、その娘で下宿人と親交を深め最後まで疑わないジューン(ジューン・トリップ)、彼女の恋人である事件の担当刑事マルコム・キーン、謎の下宿人を雰囲気ある演技で演ずる、当時のイギリスのトップ・スター、アイヴァー・ノヴェロ、そして、アルフレッド・ヒッチコックの妻アルマ・レヴィルも端役出演している。