第二次大戦中から戦後にかけて起きたカナダ国内における原子力関連情報事件を暴露した実在の元駐カナダ・ソ連大使館員のイゴール・グーゼンコの勇気ある行動を描く、監督ウィリアム・A・ウェルマン、ダナ・アンドリュース、ジーン・ティアニー共演のサスペンス・ドラマ。 |
■ スタッフ キャスト ■
監督:ウィリアム・ウェルマン
製作:ソル・C・シーゲル
脚本
イゴール・グーゼンコ
ミルトン・クリムス
撮影:チャールズ・G・クラーク
編集:ルイス・R・ロフラー
音楽:アルフレッド・ニューマン
出演
イゴール・グーゼンコ:ダナ・アンドリュース
アンナ・グーゼンコ:ジーン・ティアニー
ジョン・グラブ/ポール:ベリー・クローガー
イリヤ・ラニエフ大佐:ステファン・シュナーベル
セミオン・クーリン少佐:エドゥアルド・フランツ
ニーナ・カラノヴァ:ジューン・ハヴォック
フォスター夫人:エドナ・ベスト
ハロルド・プレストン・ノーマン博士/アレック:ニコラス・ジョイ
アレキサンドル・トリゴーリン大佐:フレデリック・トゼール
アメリカ映画
配給 20世紀FOX
1948年製作 86分
公開
北米:1948年5月12日
日本:1949年9月13日
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1943年。
ソ連の軍人三人が、民間機でカナダのオタワに向かう。
アレキサンドル・トリゴーリン大佐(フレデリック・トゼール)、補佐セミオン・クーリン少佐(エドゥアルド・フランツ)、そして、暗号技術の専門家で元赤軍兵イゴール・グーゼンコ中尉(ダナ・アンドリュース)は、大使館に赴任する。
機密情報を扱うグーゼンコは、大使館員にも任務を知られぬよう、大使館の副書記長で秘密警察の主任イリヤ・ラニエフ大佐(ステファン・シュナーベル)に警告される。
ラニエフの秘書ニーナ・カラノヴァ(ジューン・ハヴォック)は、グーゼンコに親切に接する。
グーゼンコと食事をしたカラノヴァは、彼をアパートに招き入れ、その美しさと魅力で彼に迫る。 しかし、グーゼンコは、カラノヴァがラニエフに命ぜられて自分に探りを入れていることに気づき部屋を去る。 その後、数日で仕事に慣れたグーゼンコは、最初の暗号を解読し、トリゴーリン大佐とラニエフに、カナダ人ジョン・グラブ、コードネーム:ポール(ベリー・クローガー)に会えという指示を伝える。 トリゴーリンとラニエフはグラブと接触し、カナダである組織を作ることが目的だということを伝え、情報リストを渡し別れる。 やがてグラブは、ソ連のスパイになる人材を探し、優秀な者を次々とスカウトし、組織の情報網を充実させていく。 暫くすると、グーゼンコの妻アンナがオタワに滞在することになり、彼はそれを心待ちにする。 到着したアンナを、アパートに案内したグーゼンコは、彼女から子供が生まれることを知らされ、二人で喜び合う。 その後、アンナが隣人のフォスター夫人(エドナ・ベスト)と親交を持ったことを知ったグーゼンコは、それが自分達にとって、いかに危険かということを認識させる。 夜中にトリゴーリン大佐に呼び出されたグーゼンコは、ウランの製造から爆弾の開発に着手したとの情報をモスクワに送る。 その仕事が終わった明け方、グーゼンコはアンナが無事に男の子を出産したことを知らされ病院に急行する。 国立研究所・原子力チームのハロルド・プレストン・ノーマン博士、コードネーム:アレック(ニコラス・ジョイ)の元に向かったグラブは、彼に同志としての情報提供を迫る。 強大な殺傷能力を持つ爆弾の情報だけに、それを拒むノーマン博士だったが、グラブは、各国が保有すればそれを使おうとせず、世界平和が守られることを説明する。 その後グーゼンコは、初めて聞く言葉の意味を調べるうちに、世界が核兵器の時代に突入していくことを知る。 アメリカやカナダでこの研究に参加するノーマン博士は、ナチス・ドイツが降伏後、その資料をトリゴーリン大佐に渡し、直ちに最高機密としてモスクワに送られる。 そして、日本に原子爆弾が投下され降伏し、第二次大戦は終結する。 社会主義が、いずれ民主主義より優位に立つという、ラニエフの演説を集会で無理やり聞かされたアンナは、祖国を離れた今、それに疑問を持ち始め将来に不安を感じる。 それを聞いて動揺したグーゼンコだったが、不足している原子爆弾の情報収集を工作員に伝える、暗号文の作成をトリゴーリン大佐から命ぜられる。 出撃命令を拒む部下を10人も射殺した体験で、政府に対する不信感を抱くクーリン少佐は、それについての意見をグーゼンコに求める。 しかし、それを聞いていたトリゴーリン大佐は、党を批判するクーリン少佐を殴り倒し強制帰国を命ずる。 酒に溺れるクーリン少佐の元に向かったグーゼンコは、再び戦争が起きる可能性を少佐に問う。 少佐は、共産主義の世界が確立する過程で起きるのが、戦争だということをグーゼンコに伝える。 思い悩んだグーゼンコは、アンナや生まれたばかりの息子のために、祖国には帰らず亡命を決意する。 その後、グーゼンコは綿密な計画を練り、持ち出す情報を選び準備を始める。 やがて後任が到着し、グーゼンコに帰国命令が出たため、彼は計画実行を急ぐ。 機密書類を持ち出したグーゼンコは、大使館を出てそのまま法務省に向かう。 グーゼンコは、その夜は守衛しかいなかったために、翌朝、テレサや息子と共に法務省を訪れるが、大臣が不在だと知り議事堂に向かう。 しかし、大臣は多忙で、カナダ政府もその重要情報に気づかず、グーゼンコは取り合ってもらえない。 その頃、ソ連大使館では、出勤しないグーゼンコの行動を不審に思うラニエフに、書類が紛失していることが報告される。 仕方なく新聞社に向かったグーゼンコだったが、相手にされず引き上げる。 アパートに戻ったグーゼンコは、大使館が自分の行動に気づいたことを知り、 テレサを隣人のフォスター夫人の元に向わせる。 グーゼンコは、押し入ってきたラニエフとトリゴーリン大佐に尋問されるが、何も話そうとしない。 テレサが、書類を持っていることに気づいたラニエフは、関係のない家族や、親戚縁者まで巻き添えにする気かと、グーゼンコに迫り脅す。 その時、警察に通報したテレサが、警官を連れて部屋に入ってくる。 事情を説明するラニエフだったが、グーゼンコはテレサに書類を用意させて警官にそれを渡す。 ラニエフは書類の返却を求めるが、警官は警察署で処理することを彼に伝え、グーゼンコらを連行する。 その後、スパイ疑惑が報道され、グラブはそれに対抗した行動に出る。 しかし、ラニエフやトリゴーリン大佐、そしてカラノヴァらに帰国命令が出る。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
元赤軍兵イゴール・グーゼンコは、暗号技術の専門家として、カナダのソ連大使館に赴任する。
共産党に忠誠を誓うグーゼンコは、次々と仕事をこなしていくが、その裏で、ソ連によるスパイ網の組織化が、着々と進められていた。
やがてグーゼンコは、現地に着いた妻のテレサとの生活を始める。
祖国を離れ、民主主義に触れたテレサは、自分達の未来に不安を感じ始める。
そして、子供も生まれ、テレサそして家族の将来を考えたグーゼンコも、党の政策に疑問を抱き、ついに、機密情報を持ち出して亡命を決意するのだが・・・。
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冒頭の注釈の通り、事実をありのままに描くという展開は、段階を追ったドキュメンタリー・タッチで進行し、抑圧された世界から民主主義の生活に触れた主人公達の心の変化を、ウィリアム・ウェルマンが繊細に描写している。
冷戦が始まった第二次大戦直後の作品であるため、反共映画として先駆けになったのだが、今観ると、その後の世界を暗示させ、実際に現実がそうなったことを思うと、実に興味深い。
また、その緊迫感やリアリティを追求したモノクロ映像の効果も生かされ、見応えある作品に仕上がっている。
緊張感が漂う密室の映像が多い中で、数少ないのどかな風景などが、異常なほどに安心感を与えてくれる演出も見事だ。
ドラマチックな音楽はアルフレッド・ニューマンが担当するが、ドミートリイ・ショスタコーヴィチなどのソ連の音楽家の曲も効果的に使われている。
元赤軍兵として、共産党思想にのめり込んでいた主人公が、それに将来がないことに気づいていく様子を、ダナ・アンドリュースは、抑えた演技で好演し、夫を根気よく説得し、未来に希望を与える妻を演ずるジーン・ティアニーの、質素な美しさも際立つ。
スパイ組織網を作り上げるカナダ人のベリー・クローガー、大使館員ステファン・シュナーベル、秘書ジューン・ハヴォック、赴任する少佐エドゥアルド・フランツ、大佐のフレデリック・トゼール、核開発の情報を漏らす博士のニコラス・ジョイ、主人公の隣人エドナ・ベスト等が共演している。