黒人初のボクシング世界ヘビー級王者となったジャック・ジョンソンの実話を基に、1967年に上演されたハワード・サックラーの舞台劇”The Great White Hope”の映画化。 人種問題に翻弄される主人公の苦悩を描く、監督マーティン・リット、主演ジェームズ・アール・ジョーンズ、ジェーン・アレクサンダー共演による社会派ヒューマン・ドラマ。 |
■ スタッフ キャスト ■
監督:マーティン・リット
製作:ローレンス・ターマン
原作:ハワード・サックラー”The Great White Hope”
脚本:ハワード・サックラー
撮影:バーネット・ガフィ
編集:ウィリアム・レイノルズ
音楽:ライオネル・ニューマン
出演
ジャック・ジェファーソン:ジェームズ・アール・ジョーンズ
エレノア・バックマン:ジェーン・アレクサンダー
ゴールディ:ルー・ギルバート
ティック:ジョエル・フリューレン
ポップ・ウィーヴァー:チェスター・モリス
アル・キャメロン:ハル・ホルブルック
ディクソン:ロバート・ウェッバー
ダン:R・G・アームストロング
ママ・タイニー:ビア・リチャーズ
フランク・ブレイディ:ラリー・ペネル
シスター・パール:ヴァージニア・ケイパーズ
スキッピオ:モーゼス・ガン
カーニバルの客引き:スキャットマン・クローザース
フランス人プロモーター:マルセル・ダリオ
アメリカ 映画
配給 20世紀FOX
1970年製作 102分
公開
北米:1970年10月11日
日本:1971年4月3日
製作費 $6,000,000
北米興行収入 $9.870,000
■ アカデミー賞 ■
第43回アカデミー賞
・ノミネート
主演男優賞(ジェームズ・アール・ジョーンズ)
主演女優賞(ジェーン・アレクサンダー)
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1910年。
オーストラリアから帰国した黒人ボクサーのジャック・ジェファーソン(ジェームズ・アール・ジョーンズ)は、世界タイトルを手に入れようとしていた。
引退していたヘビー級チャンピオンのフランク・ブレイディ(ラリー・ペネル)は”偉大な白人の希望”として期待され、プロモーターのポップ・ウィーヴァー(チェスター・モリス)やダン(R・G・アームストロング)にジャックと対戦するため復帰を促される。
ジャックのマネージャー、ゴールディ(ルー・ギルバート)は、ウィーヴァーらと試合の内容についてを話し合い、ブレイディは戦う決心をしてリノでタイトルマッチが行われることになる。
ゴールディはトレーナーのティック(ジョエル・フリューレン)とトレーニング中のジャックの元に向かい、試合が独立記念日の7月4日になったことを知らされる。
その場にいた白人女性で、帰国途中知り合ったジャックの恋人エレノア・バックマン(ジェーン・アレクサンダー)が気になったゴールディは、記者が来る前に彼女をその場から連れ出そうとする。 ジャックはそれを制止し、ゴールディは、話題になることは儲けにつながるが。それ以外のトラブルは危険だと彼に忠告する。 集まった記者達は世界戦のことについてなどを質問するが、そこにジャックの愛人が現れ、エレノアに言いがかりをつける。 ジャックとエレノアの関係は記者達に知られてしまい、ゴールディは何とか試合ができることを願う。 こんな生活に耐えられるかをジャックに聞かれたエレノアは、彼との愛を確かめ合う。 7月4日、リノ。 ジャックは、その場の人々のヤジも気にすることはなかった。 そこに現れた牧師らはジャックを激励し、青年は、勝てば黒人であることを誇れると語る。 今現在誇りを持たずに生きているのなら、自分を頼っても無駄だと青年を非難するジャックは、黒人を意識していないと牧師に言われる。 それを否定するジャックは、その件については個人的な問題だと反論し、自分のために祈ることを拒み声を荒げてその場を去る。 そして、スタジアムの特設リングで行われた試合は始まり、余裕のジャックはブレイディを倒し世界チャンピオンとなる。 同胞に歓迎されたジャックは、エレノアを婚約者として紹介して祝勝会を大いに楽しむ。 そこに現れた浮浪者スキッピオ(モーゼス・ガン)は、白人と組んで儲けたジャックと浮かれる人々を痛烈に非難する。 キャメロンは質問を始め、ジャックとの出会いと関係を聞かれたエレノアは、特別視されることで耐えられなくなり涙を堪える。 ジャックを純粋に愛していることを伝えたエレノアだったが、キャメロンに侮辱されたため席を立つ。 同席していた連邦保安官のディクソン(ロバート・ウェッバー)は、法的に問題ないと言うキャメロンに対し、売春婦州間移送禁止令が解釈の問題で適用できると考える。 山小屋で休暇を楽しんでいたジャックとエレノアは、その場に押し入って来た捜査官に銃を向けられる。 現れたディクソンは、州を越え法を犯したことをジャックに伝え彼を逮捕する。 ジャックの罰金と懲役刑を知らされた病弱の母親タイニー(ビア・リチャーズ)はショックを受けるが、保釈中のジャックが姿を現す。 選手としての最高の時期に懲役を受けるつもりのないジャックは逃亡を企て、野球チームの選手に扮してタイニーの家を出て国外に向かおうとする。 同行を求める元愛人が、監視している刑事にそれを知らせようとしたため、その場に居た者達は彼女を押さえつける。 ジャックは、母タイニーらに別れを告げてその場を去る。 ロンドン。 滞在自体は問われないジャックだったが、試合ができないために出国する。 パリ。 その頃、ジャックを葬り去るために新たな”偉大な白人の希望”を探していたウィーヴァーとダンは、ある巨漢選手に目をつける。 ウィーヴァーはダンにディクソンを紹介され、ジャックが黒人社会の刺激になるのを阻止しようとしている考えを知らされる。 ディクソンはジャックを捕えるのが最終目的でなく、減刑を餌にして彼が負ける試合を演出し、黒人の勢いを抑えたいことをウィーヴァーに伝える。 八百長試合に難色を示すウィーヴァーだったが、ダンに説得される。 ドイツ。 ジャックは、減刑を条件に報酬も弾むという、ウィーヴァーからの提案をゴールディから知らされる。 ブダペスト。 現れたウィーヴァーに母タイニーの危篤を知らされ、力になると言われたジャックだったがそれを拒む。 メキシコ。 行き場のないエレノアは謝罪するが、ジャックは彼女を疫病神だと言って罵り突き放してしまう。 その後、村長に伴われたディクソンが現れ、ハバナで指示通りの戦いをすれば刑を免除すると言われる。 それを断った場合は刑が重くなるとも言われたジャックは、それを拒み立ち去ろうとしたため、村長に銃を向けられる。 そこに、井戸に身投げをしたエレノアが運び込まれる。 ジャックは、息を引き取ったエレノアを前にして後悔し泣き崩れ、試合を行うことをディクソンに告げる。 ハバナ。 11ラウンドのゴングは鳴り、ジャックは予定通りダウンするものの、立ち上がって反撃する。 ウィーヴァーやダン、そしてディクソンは焦り、ジャックはダウンを奪う。 立ち上がった相手に尚も連打を浴びせて再びダウンを奪ったジャックだったが、ラウンド終了のゴングが鳴る。 12ラウンド。 敗れたジャックは、ゴールディとティックに支えられながらその場を去ろうとする。 ジャックに近づく記者は、なぜあんな戦いができたのかを問う。 知っていたら教えてほしいと言うジャックは、それに応えられない記者に自分と同じで新米だと伝えてその場を去る。
...全てを見る(結末あり)
計量が始まり、相手を無視するブレイディだったが、ジャックは彼を挑発する。
その後、エレノアの件が白人と黒人双方の間で問題となり、検事アル・キャメロン(ハル・ホルブルック)は彼女を呼び出す。
エレノア、ゴールディ、ティックと共に現地に着いたジャックは、次の試合も決まるものの審問会に呼び出される。
試合は組まれ、ジャックは勝利するものの観客からは罵声を浴びる。
エレノアは、ジャックの派手な振る舞いや行動に不満を抱き始めていた。
それを受ける気になれないジャックはゴールディと別れ、生活のために役者などをしていた。
貧困生活を送っていたジャックは、ウィーヴァーの申し出を受けるようエレノアに説得されるが、自分の生き方に口出しするなと言って彼女を追い出そうとする。
大観衆が見守る中、劣勢のジャックは、次のラウンドでダウンすることをゴールディに指示される。
攻撃し続けるジャックだったがパンチを受けてダウンし、何度か立ち上がるものの力尽きる。
*(簡略ストー リー)
1910年。
黒人として初めてボクシング・ヘビー級の世界タイトルを狙えるジャック・ジェファーソンを葬り去るために、プロモーターらは”偉大な白人の希望”として、引退していた世界王者ブレイディに復帰を促す。
ブレイディはそれを受け入れるが、白人の恋人エレノアとの関係も気にしないジャックは、試合に挑みタイトルを難なく手にする。
しかし、マネージャーのゴールディの忠告も聞かぬまま派手な言動で世間を騒がすジャックは、黒人に刺激を与える存在となり問題視されるようになる。
ジャックは、白人女性との関係他で法を犯したと判断され連邦保安官ディクソンに逮捕されてしまう。
保釈中のジャックは、エレノアを伴い監視を逃れて国外に脱出するのだが・・・。
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黒人に対する人種問題などをテーマにした作品を連続して手掛けることになるマーティン・リットの力作で、公開当時でも波紋を起こしそうな内容が、20世紀初頭に実際にあった物語だというところに注目したい。
同胞の黒人のために各分野で戦う人物が多い中で、ボクサーである本作の主人公は当然それを考慮しつつも、自分の”生き方”に拘り行動するという、その姿を力強く描くマーティン・リットの演出手腕が見所の作品。
人種の壁を越えて愛し合う恋人さえも、自分の考えに口出されて突き放してしまう主人公の凄まじい生き様を描く一対一の描写などが、セットなども含め舞台劇風でもあるところが興味深い。
白人に対しての言葉であった”The Great White Hope/偉大な白人の希望”がなぜ原題になったか・・・結局は白人に利用され、その役を自分自身が演じなければいけなかったという、主人公の複雑な心理を示す素晴らしい原題である。
イマジネーションが欠如している当時の(現在も)日本で、その内容を表現する邦題を考えるか原題をそのまま使うかはいずれも難しい問題だろうが、主人公の職業を単にタイトルにするとは何とも情けない発想だ。
驚いたのは、大スターが出演する大作でもないが、クライマックスの試合会場の大観衆などの舞台設定は見事であり、ボクシングが非常に盛んなキューバのお国事情を表現する演出は素晴らしい。
*ロケはキューバではない。
主人公のジェームズ・アール・ジョーンズとジェーン・アレクサンダーの息の合った熱演は、舞台のオリジナルキャストでもあり絶賛され、第43回アカデミー賞では両者共に主演賞にノミネートされた。
*二人はゴールデングローブ賞でもノミネートされ、ジェームズ・アール・ジョーンズは新人賞を受賞した。
また、舞台の二人は共にトニー賞を受賞した。
ジェーン・アレクサンダーは、本作を含めて4度アカデミー賞にノミネートされた名女優であり、ジェームズ・アール・ジョーンズと共に現在でも活躍を続けている。
*ジェーン・アレクサンダー:アカデミー賞ノミネート
・「ボクサー」(1970):主演女優賞
・「大統領の陰謀」(1976):助演女優賞
・「クレイマー、クレイマー」(1979):助演女優賞
・「テスタメント」(1983):主演女優賞
主人公を支えるマネージャーのルー・ギルバート、トレーナーのジョエル・フリューレン、プロモーターのチェスター・モリス、同じくR・G・アームストロング、検事ハル・ホルブルック、連邦保安官のロバート・ウェッバー、主人公の母親ビア・リチャーズ、引退していた世界王者ラリー・ペネル、シスターのヴァージニア・ケイパーズ、浮浪者モーゼス・ガン、カーニバルの客引きスキャットマン・クローザース、フランス人プロモーターのマルセル・ダリオなどが共演している。