異様な容姿から”エレファント・マン”と呼ばれた実在の人物ジョン・メリック/ジョセフ・メリックの人生と彼の心の支えとなる外科医フレデリック・トリーヴスとの友情を描く、製作総指揮メル・ブルックス、監督、脚本デヴィッド・リンチ、主演アンソニー・ホプキンス、ジョン・ハート、アン・バンクロフト、ジョン・ギールグッド、ウェンディ・ヒラー、フレディ・ジョーンズ他共演のドラマ。 |
・ドラマ
■ スタッフ キャスト ■
監督:デヴィッド・リンチ
製作:ジョナサン・サンガー
製作総指揮
スチュアート・コーンフェルド
メル・ブルックス
原作
フレデリック・トリーヴス”The Elephant Man and Other Reminiscences”
アシュリー・モンタギュー”The Elephant Man: A Study in Human Dignity”
脚本
クリストファー・デヴォア
エリック・バーグレン
デヴィッド・リンチ
撮影:フレディ・フランシス
編集:アン・V・コーツ
美術・装置
スチュアート・クレイグ
ロバート・カートライト
ヒュー・スケイフ
衣装デザイン:パトリシア・ノリス
音楽:ジョン・モリス
出演
フレデリック・トリーヴス:アンソニー・ホプキンス
ジョン・メリック(実際はジョセフ・メリック):ジョン・ハート
マッジ・ケンドール:アン・バンクロフト
フランシス・C・カー・ゴム院長:ジョン・ギールグッド
婦長:ウェンディ・ヒラー
バイツ:フレディ・ジョーンズ
ジム:マイケル・エルフィック
バイツの助手:デクスター・フレッチャー
アン・トリーヴス:ハンナ・ゴードン
アレクサンドラ皇太子妃:ヘレン・ライアン
フォックス医師:ジョン・スタンディング
ノラ:レスリー・ダンロップ
メリー・ジェーン・メリック:フィービー・ニコルズ
小人:ケニー・ベイカー
アメリカ/イギリス 映画
配給
パラマウント・ピクチャーズ(北米)
ユニバーサル・ピクチャーズ(イギリス)
1980年製作 124分
公開
北米:1980年10月3日
日本:1981年5月9日
製作費 $5,000,000
北米興行収入 $26,010,860
■ アカデミー賞 ■
第53回アカデミー賞
・ノミネート
作品・監督
主演男優(ジョン・ハート)
脚色・編集・美術・衣装デザイン・作曲賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
19世紀末、ロンドン。
ロンドン病院の外科医フレデリック・トリーヴス(アンソニー・ホプキンス)は、“エレファント・マン”と呼ばれる人物に興味を持ち、ある見世物小屋に向かう。
しかし、興行師バイツ(フレディ・ジョーンズ)は、公序良俗に反するという理由で、役人からその興行の許可を得られなかった。
それを知ったトリーヴスは、諦めてその場を去る。
ある日、手術中だったトリーヴスは、”エレファント・マン”を見つけたという連絡を受けてバイツの元に向かう。
バイツに金を払ったトリーヴスは、”エレファント・マン”ジョン・メリック/実際はジョセフ・メリック(ジョン・ハート)を目の前にして、その醜い姿に呆然としながら涙する。
動揺するトリーヴスは落ち着きを取り戻し、翌日、メリックを病院に連れてくることをバイツに約束させる。 ロンドン病院。 対応したトリーヴスはメリックをオフィスに連れて行こうとするが、婦長は動作の鈍い彼に厳しく接する。 トリーヴスは自分の立場を説明して、体を調べたいことをメリックに伝え質問を始めるものの、彼は答えようとしない。 そこに、同僚のフォックス医師(ジョン・スタンディング)が現れ、部屋を出たトリーブスはメリックのことを聞かれる。 トリーヴスは、この件を秘密にしてもらいたいとだけ答え、フォックスは仕方なく納得する。 部屋に戻ったトリーヴスは、質問は止めにして早速、診察を始める。 その後、トリーヴスは講義の席で、21歳のイギリス人であるメリックの、その異常な体型についての診断結果を発表する。 トリーヴスは、メリックが馬車でバイツの元に向かう姿を見ながら、知能が低いことが彼にとっては幸いだとフォックスに語る。 戻ったメリックはバイツに殴られ、それを見た助手の少年(デクスター・フレッチャー)はトリーヴスの元に向かい、メリックが病気だと伝える。 メリックを診たトリーヴスは傷を確認し、転んだというバイツの言葉を疑う。 仰向けに寝ると窒息してしまうためメリックの命に係わると言って、トリーヴスは彼を病院に連れて行く。 二人の様子を気にした院長のフランシス・C・カー・ゴム(ジョン・ギールグッド)は、メリックにオートミールを運ぼうとするトリーヴスを呼び止める。 カー・ゴムは、看護師ノラ(レスリー・ダンロップ)にオートミールを運ぶよう指示し、トリーヴスから話を聞く。 頭巾を被った患者について質問するカー・ゴムは、不治の病と断定する特殊な患者だと言うトリーヴスに意見する。 廊下で二人の姿を目撃していたノラは、不安を抱えながら部屋に向かい、メリックの醜い姿に驚き悲鳴を上げる。 それを聞いたトリーヴスは、カー・ゴムに席を離れることを伝えてメリックの部屋に向かい、動揺するノラに事前に知らせなかったことを謝罪する。 夜になり、座りながら眠っていたメリックは鐘の音で目覚め、唯一の所持品である美しい母親メリー・ジェーン(フィービー・ニコルズ)の写真を見つめる。 ”エレファント・マン”の噂を聞いた病院で働く夜勤のジム(マイケル・エルフィック)は、メリックの部屋に向かい、彼の異常な姿を確認する。 ジムは、メリックを見世物にして金を稼ごうと考える。 翌朝、床で眠っているメリックに気づいたトリーヴスは、彼をベッドに座らせるが、それを手伝った婦長は、手におえないメリックを迷惑な存在に思う。 何も語ろうとしないどころか、反応もしないメリックの対応に苦労していたトリーヴスは、ようやく頷いた彼に必死に話しかける。 ”イエス”と言えたメリックに、トリーヴスは熱心に語りかけて名前も言わせる。 病院に侵入したバイツは階段でトリーヴスに出くわし、メリックを返すよう要求する。 治療には十分な時間が経ったと言うバイツは、トリーヴスに迫り脅すが、揉めている二人に気づいたカー・ゴムがバイツを追い払う。 メリックに興味を持ったカー・ゴムは、翌日、彼に会うことをトリーヴスに伝えて了承させる。 翌早朝トリーヴスは、メリックと打ち合わせをしてカー・ゴムと会うための準備をする。 メリックに会ったカー・ゴムは優しく接するが、彼の様子で、トリーヴスと面会のための練習をしていたことに気づく。 カー・ゴムは失望し部屋を出て、メリックを他で治療させるべきだとトリーヴスに提案する。 ところが、トリーヴスは”詩篇23篇”をメリックが朗読していることに気づく。 トリーヴスは、それを教えていないことをカー・ゴムに伝えて部屋に戻る。 なぜそれを知っているのかを尋ねるトリーヴスに、かつて毎日、聖書を読んでいたとメリックは答える。 カー・ゴムはメリックに感心してその場を離れ、トリーヴスは、字が読めることを隠していた理由を問う。 カー・ゴムに呼ばれたトリーヴスは、メリックが歩んできた人生についてを考える。 その後、メリックの件は新聞に掲載され、女優のマッジ・ケンドール(アン・バンクロフト)は、その醜い姿に隠された、メリックの崇高さに近い温厚な性格に興味を持ち、彼に会えることを願う。 同じ頃ジムは、メリックを見たい者達を募り金を稼ぎ始める。 ある日、トリーヴスはメリックを自宅に招待し、妻アン(ハンナ・ゴードン)を紹介する。 アンはメリックを前にして、その異常な容姿に驚きながらも彼を歓迎する。 メリックは泣き出してしまい、美しい女性に優しくされたことが初めてだと言って感激する。 お茶を持て成されたメリックは、暖炉の上の家族や親戚の写真に興味を示す。 アンはメリックの母親の美しさに驚き、自分の姿に失望しているだろうと言う彼を慰める。 素敵な友人と一緒にいることを知れば、母親も自分を誇りに思うだろうと語るメリックの話を聞いたアンは、堪え切れずに涙する。 メリックは、そんなアンを気遣う。 その後メリックは、空箱を利用して何かを作り始め、彼の世話をするようになっていやノーラは、それが窓から見える大聖堂だと知らされる。 メリックから治療のことを質問されたトリーヴスは、それが不可能であることを彼に伝える。 希望が叶い、トリーヴスに部屋に案内されたケンドールはメリックと面会し、自分の写真やシェイクスピアの”ロミオとジュリエット”を贈る。 ケンドールはメリックの頬にキスして、美しい心の彼に”エレファント・マン”などではなく”ロミオ”だと伝える。 そのことが新聞に掲載されて話題になり、メリックに会うことがステイタスとされ、様々な人々が彼を訪ねるようになる。 それを良く思わない婦長は、メリックが面会を求める人々に利用されているだけだとトリーヴスに訴える。 自分も親切ではなかったことを指摘された婦長は、実際に世話をする者が”親切”だと言えないのかと反論する。 そのような考えではなく感謝していると婦長に伝えたトリーヴスは、メリックが再び見世物になっているとも婦長に言われる。 その間もジムが現れるために、メリックは夜を恐れ、また悪夢に苦しむ。 トリーヴスは婦長に言われた言葉を考え、自分がバイツと同類の人間ではないかと思い悩む。 アンにメリックは幸せだと言われたトリーヴスだったが、彼が自分のためにそれを装っているのではないかとも考える。 病院では評議会が開かれ、カー・ゴムはメリックを今後も滞在させるかを議題に出し、彼をこのまま入院させておくことを批判する者の意見を聞く。 そこに、アレクサンドラ皇太子妃(ヘレン・ライアン)が来院し、病院の慈善行為を評価するヴィクトリア女王の親書を読み上げる。 カー・ゴムは皇太子妃に感謝し、メリックの件に反対する評議員は言葉を失い賛成の意思を伝え、動議は全員一致で可決される。 病院側が正式に入院滞在を許可したことをカー・ゴムから知らされたメリックは、この場が一生暮らす家であると確認し、婦長も彼を改めて歓迎する。 評議員に感謝するメリックは、トリーヴスから豪華な化粧箱を贈られて感激する。 ジムはメリックを見世物にして稼ぎ、現れたバイツも彼に金を払う。 男達や女そしてバイツを引き連れたジムは、メリックの部屋に押し入って騒ぎ始める。 ジムは、禁じられている鏡を持ち込んでメリックに自分の顔を確認させて、絶叫する彼を見て喜び、彼に小銭を渡して立ち去る。 ”自分の宝物”だと言いながら現れたバイツは、メリックに近づく。 翌朝、部屋が荒らされメリックの姿が見えないことに気づいたトリーヴスは、騒ぎを目撃した者からその状況を聞き、婦長も事件があったことを知る。 ジムの元に向かったトリーヴスは、メリックの居場所を聞き出そうとする。 しかし、ジムはメリックの居場所もバイツのことも知らなかった。 憤慨したトリーヴスはジムに言い寄り、現れた婦長は抵抗しようとするジムを殴り倒す。 トリーヴスはバイツの元に向かうが、彼はメリックを連れて姿を消していた。 大陸に渡り再び見世物となっていたメリックは、体調を崩してバイツの指示に従えない。 憤慨するバイツに檻に閉じ込められたメリックを見て、我慢の限界に達した少年と仲間の小人(ケニー・ベイカー)達は、彼を逃がすことを決めてロンドンに向かわせる。 船に乗せられて海峡を渡ったメリックは、汽車でロンドンに到着するものの、子供達にからかわれる。 少女を押し倒してしまったメリックは、人々に囲まれて頭巾をとられて責められる。 メリックは、自分は像や動物ではなく人間だと言って泣き叫ぶ。 警官に連れられたメリックは病院に戻り、トリーブスと再会して抱き合う。 衰弱しながらもケンドールの招待を受けたメリックは、事件のことで謝罪するトリーヴスを気遣う。 友に愛されていることをお互いに確認したメリックとトリーヴスは、付き添いの婦長とノラと共に劇場に向かう。 桟敷席でアレクサンドラ皇太子妃と同席するメリックは、上演されたファンタジックな舞台劇に心を奪われ、トリーヴスは彼の様子を見守る。 舞台は幕を閉じ、挨拶するケンドールは、皇太子妃の観劇に感謝し、この公演を友人メリックに捧げることを伝える。 観客の拍手に応えるようトリーヴスに促されたメリックは立ち上がり、スタンディング・オベーションと盛大な声援を受ける。 部屋に戻ったメリックは、素晴らしい体験ができたことをトリーヴスに伝え、再び観劇することを友と約束する。 トリーヴスが部屋を出た後、メリックは完成した大聖堂の台に”ジョン・メリック”とサインし、全てが終わったと呟く。 壁にかけられた横たわり眠る子供の絵を見て同じことをしたいと考えるメリックは、座って寝るための枕を取り除く。 そして、ベットに仰向けに寝たメリックは、母親が、”アルフレッド・テニスン”の詩”Nothing Will Die”を引用して話しかける姿を想いながら息を引き取る。
...全てを見る(結末あり)
婦長(ウェンディ・ヒラー)は、頭巾を被り杖を突いて現れたメリックに驚く。
*(簡略ストー リー)
19世紀末、ロンドン。
ロンドン病院の外科医フレデリック・トリーヴスは、その異様な容姿から”エレファント・マン”と呼ばれたジョン・メリックに興味を持つ。
見世物小屋の興行師バイツの所有物だったメリックの診察をしたトリーヴスは、その結果を公に発表する。
バイツの元に戻ったメリックは痛めつけられ、それを知ったトリーヴスは、彼を病院に滞在させようとする。
院長カー・ゴムはそれに意見するものの、メリックの知能の高さと人柄を知り入院を許可する。
その後メリックは新聞などで大きく報道され、著名な女優ケンドールも彼に興味を持つ。
そんなメリックは、献身的に接するトリーヴスらに見守られながら、大きく変わった人生を楽しもうとするのだが・・・。
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フレデリック・トリーヴスの著書”The Elephant Man and Other Reminiscences”(1923)とアシュリー・モンタギュー”The Elephant Man: A Study in Human Dignity”(1971)を基に製作された作品。
鬼才デヴィッド・リンチによる衝撃作であり、実在した青年の悲しい運命と激変する人生を通して、心の闇やささやかな希望を願う人間の本質を描くドラマ。
公開当時はコメディの巨匠であるメル・ブルックスの製作なども大いに話題になり、主人公の容姿を映し出す映像の衝撃度から、鑑賞するのに覚悟がいると言われた作品でもある。
19世紀末のロンドンを映し出すリアルな映像と共に、デヴィッド・リンチの好むシュールな描写が非常に印象的であり、モノクロの画面が効果的に使われている。
悲しい物語なのだが、主人公の悲惨な人生を描写するシーンは意外にも少ない。
美しい母親の面影だけを支えに生きる、虐げられた人生から解放された主人公が幸福を手にすると共に、その悲惨な過去が観る者の頭を過る比率が高まるという演出も興味深い。
第53回アカデミー賞では、作品、監督、主演男優(ジョン・ハート)、脚色、編集、美術、衣装デザイン、作曲賞にノミネートされた。
主人公ジョン・メリックを演ずるジョン・ハートは、メイクのため当然ながら一度も素顔を見せないまま、アカデミー主演賞にノミネートされ、その熱演は高く評価された。
ファースト・クレジットは、主人公を支えるフレデリック・トリーヴスを演ずるアンソニー・ホプキンスであり、セリフを語る場面よりも、医師の立場から患者である主人公を観察する、表情だけでその意思を伝える演技が注目だ。
主人公の人生に興味を持つ著名な女優マッジ・ケンドールを演ずる、製作総指揮を担当するメル・ブルックス夫人のアン・バンクロフト、思慮深く柔軟な考えの持ち主である病院長ジョン・ギールグッド、婦長役の名女優ウェンディ・ヒラー、主人公の所有者で興行師のフレディ・ジョーンズ、その助手の少年デクスター・フレッチャー、主人公を利用して金を稼ぐマイケル・エルフィック、フレデリック・トリーヴスの妻ハンナ・ゴードン、アレクサンドラ皇太子妃のヘレン・ライアン、看護師レスリー・ダンロップ、主人公の母親フィービー・ニコルズ、見世物小屋の小人ケニー・ベイカーなどが共演している。