1932年に発表された、イギリスの推理小説家アンソニー・バークリー(フランシス・アイルズ)の小説”Before the Fact”を基に製作された作品。 借金苦から逃れようとする男と妻となった被害妄想の令嬢の噛み合わない関係を描く、製作、監督アルフレッド・ヒッチコック、ケイリー・グラント、ジョーン・フォンテイン、ナイジェル・ブルース、セドリック・ハードウィック、メイ・ウィッティ、レオ・G・キャロル他共演の心理スリラーの傑作。 |
・アルフレッド・ヒッチコック Alfred Hitchcock 作品一覧
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■ スタッフ キャスト ■
監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:アルフレッド・ヒッチコック
原作:アンソニー・バークリー(フランシス・アイルズ) ”Before the Fact”
脚本
サムソン・ラファエルソン
アルマ・レヴィル
ジョーン・ハリソン
撮影:ハリー・ストラドリング
音楽:フランツ・ワックスマン
出演
ケイリー・グラント:ジョニー・エイスガー
ジョーン・フォンテイン:リナ・マクレイドロウ・エイスガー
ナイジェル・ブルース:ゴードン・コクランス”ビーキィ”スウェイト
セドリック・ハードウィック:マクレイドロウ将軍
メイ・ウィッティ:マーサ・マクレイドロウ
イザベル・ジーンズ:ミセス・ニューシャム
ヘザー・エンジェル:エセル
オリオール・リイ:イソベル・セドバスク
レオ・G・キャロル:ジョージ・メルベック
アメリカ 映画
配給 RKO
1941年製作 99分
公開
北米:1941年11月14日
日本:1947年2月25日
製作費 $1,800,000
北米興行収入 $4,500,000
■ アカデミー賞 ■
第14回アカデミー賞
・受賞
主演女優賞(ジョーン・フォンテイン)
・ノミネート
作品・作曲賞(ドラマ)
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
若くて上品なのだが、どこか垢抜けないリナ・マクレイドロウ(ジョーン・フォンテイン)は、汽車の中で、厚かましい男性のジョニー・エイスガー(ケイリー・グラント)に出会う。
新聞に載っていたジョニーの記事で、リナは彼が社交界で派手な噂が絶えないことを知る。
その後、乗馬をするリナの姿を見たジョニーは、電車の時とは別人のような彼女の美しさに見とれてしまう。
リナが上流階級の令嬢だということを知り、ジョニーは女友達を引き連れて彼女を教会に誘う。 その時ジョニーは、リナが読んでいた本に自分の新聞記事が挟んであることに気づく。 教会に行く途中、リナを強引に散歩に誘ったジョニーは、彼女に言い寄ろうとする。 しかし、初心なリナは、強引なジョニーを敬遠して自宅に引き返そうとする。 自宅に着いたリナは、自分のことに過剰なほど世話を焼こうとする、両親(セドリック・ハードウィック/メイ・ウィッティ)の話を玄関口で聞いてしまい、 そこにいたジョニーに思わずキスしてしまう。 その後、両親と食事を始めたリナは、ジョニーと会っていたことを話すが、彼のことを詐欺師まがいの男だと、良く言わない父親の話を聞いても、既に心は彼のものだった。 その後、リナはジョニーとの連絡が取れなくなってしまい、憂鬱な日々が続く。 狩猟会のパーティー出席も気が進まないリナだったが、そんな時、ジョニーから会場で会おうという電報が届く。 突然、気分が晴れて夢見心地の気分になったリナは、派手なドレスで会場に向かう。 ジョニーの姿が見えず、心落ち着かないリナだったが、そこに招待されてもいない彼が現れる。 リナの父親マクレイドロウ将軍は、ジョニーの厚かましさに不快感を覚える。 しかし、現れたジョニーに気づいたリナは、笑顔で彼を迎えて、二人はダンスを踊る。 既にジョニーの虜になっていたリナは、彼に愛を告げて互いの気持ちを確認する。 そして、リナは両親に何も告げずに、ジョニーと駆け落ちしてしまう。 新婚旅行でヨーロッパを回った二人だったが、リナはその資金を、ジョニーは借金でまかなっていたことを知る。 新居を構え、メイドのエセル(ヘザー・エンジェル)まで手配したジョニーだったが、リナは彼から文無しだと聞かされる。 自分の持参金を当てにする、子供のような楽天家ジョニーを見てリナは戸惑い、彼に働くことを勧める。 それも気が進まないジョニーだったが、そこに、リナの父親からの結婚祝いが届くことになり、二人はそれに期待する。 それが、骨董品の椅子2脚だと知ったジョニーは落胆し、仕方なく従弟のジョージ・メルベック(レオ・G・キャロル)の不動産会社で働くことに決める。 数日後、ジョニーの留守中、彼の知人のビーキィ・スウェイト(ナイジェル・ブルース)が現れる。 ビーキィは、ジョニーと競馬場で会ったことをリナに話してしまい、彼女は父の椅子がなくなっていることに気づく。 ジョニーが仕事もせずに競馬に興じ、借金をして椅子まで売り飛ばしてしまったことをリナは知る。 ビーキィは、ジョニーのことを気のいい奴だと言い張り、リナを安心させる。 とは言うもののビーキィは、帰宅したジョニーに椅子のことを問い詰めたり、それを売った小切手が相手から届かないだろうなどと皮肉を言いつつ、1週間滞在したいことなどを二人に頼む。 ジョニーが、競馬で使い込んだと言わなかったことで、それを信じていたリナは、町の質屋に2脚の椅子が展示されているのを見て驚く。 帰宅したリナは、そのことをビーキィに話すが、彼は相変わらず気にすることがないことを伝える。 そんな時、ジョニーがリナへの贈物をいくつも持参して帰宅し、競馬で2000ポンド儲けたと興奮しながら話す。 椅子を知人に売った話も嘘だと言うジョニーは、それに納得いかないリナに、おどけながら、椅子を買い戻した証拠であるレシートを見せる。 リナはそれを知って喜び、これで賭けも止めるというジョニーを、結局は許してしまう。 しかし、足を洗ったはずの競馬場にジョニーが再び通っている噂をリナは聞いてしまい、彼の勤め先の不動産会社を訪ねてみる。 そこでリナは、雇い主のメルベックから、ジョニーが会社の2000ポンドを着服し、6週間前に解雇したことを聞かされて愕然とする。 メルベックから、全額返金すれば起訴はしないとは言われたリナは、家を出ることを決意して準備を始めたところで、父親が亡くなった報せを受け、それどころではなくなってしまう。 遺産を期待したジョニーだったが、二人には父の肖像画しか遺されなかった。 葬儀の帰り道、自分がメルベックに解雇されたことを知っていたリナに、ジョニーは驚く。 ジョニーは、その理由を知らないというリナに、メルベックとは馬が合わなかったと言って嘘をつく。 車を止めた海岸線を見たジョニーは、そこで土地開発の構想を思いつく。 ビーキィの出資でジョニーは不動産会社を設立するが、リナはそれを彼が仕切ると聞いて不安が募る。 しかし、ジョニーはすぐにその計画を止めてしまい、リナはその頃から、彼がビーキィの殺人を企て、財産を奪おうとしているのではないかと疑い始める。 ジョニーとビーキィが出かけたことを知ったリナは、殺人を想像した海岸線の断崖に向かい、崖から転落寸前まで車を移動させたと思われるタイヤ痕などを確認し帰宅する。 不安を抱えながら部屋に入ったリナは、そこに中のよさそうなジョニーとビーキィがいたため胸をなでおろす。 ジョニーに抱きつくリナだったが、断崖のふちで死を覚悟する体験をしたことをビーキィから聞かされる。 それをジョニーが救ったと知り、再び安心したリナは、事業計画解約のために、ビーキィがパリに行くことを知り無事を祈る。 その後リナは、ビーキィが、パリでイギリス人らしき男と、ブランデーを飲み過ぎて亡くなったという報せを警察から受ける。 以前、ビーキィが酒を飲んで発作を起こしたことを思い出したリナは、ジョニーの行き先がわからないまま、彼への疑惑を深める。 リナは、読んでいた小説の作者で、知人のミステリ作家イソベル・セドバスク(オリオール・リイ)を訪ねる。 するとイソベルは、ジョニーがブランデー殺人についての書籍を借りていったと言う。 ジョニーの机の引き出しにあったその本には、メルベックへの手紙があり、返済延期を求める文面があった。 その後、保険会社からの電話や手紙で、リナは知らぬ間に自分に保険がかけられていることを知る。 ジョニーとリナはイソベルに夕食に招かれ、その席で彼は毒殺について興味を抱いているような話をする。 恐怖で眠れないリナは、見舞いに来たイソベルから、飲み物に入れる毒殺の効果を聞かされ、ジョニーが運ぶミルクも飲むことが出来ない。 翌朝、リナは母親を訪ねることを口実にジョニーから逃れようとするが、それを不審に思った彼は車で送ると言い張り、断崖沿いを車で走る。 ジョニーの乱暴な運転に怯えるリナは、開いたドアから落ちそうになるが、ジョニーが手をつかみ車を急停車させる。 リナは車から飛び降り逃げようとするが、ジョニーは彼女を捕まえ意外な告白をする。 ジョニーはメルベックの借金が払えず苦悩し、リナの保険金で金を借りるため、ビーキィを送った後にリバプールに向かい、それも無駄に終わった彼は、ついに服毒自殺を考えていたのだ。 ジョニーへの疑惑はリナの妄想に過ぎず、彼女は改めて最初からやり直すことを提案して彼を励ます。 自分は変われないと言うジョニーは、リナを母親の元に帰そうとする。 しかしジョニーは、リナに説得され車をユーターンさせて、我が家へと戻って行く。
...全てを見る(結末あり)
★ヒッチコック登場場面
上映後約45分、今回は、ジョーン・フォンテインが立ち寄る町の本屋前の郵便ポストに手紙を出そうとしている。
やや遠景のショットなので、見過ごしてしまうかもしれない。
*(簡略ストー リー)
富豪令嬢のリナ・マクレイドロウは、汽車で出会った、社交界で噂の男性ジョニー・エイスガーに心惹かれる。
ジョニーが詐欺師まがいのプレイボーイだと知りつつも、世間知らずのリナは彼の虜になる。
両親には話さず駆け落ちしてしまったリナだったが、ジョニーが文無しで仕事をする気もなく、自分の持参金を当てにしていることを知る。
それでも、ジョニーを許してしまうリナは、その後、彼の不審な行動に疑問を持ち、ついには殺人を企んでいるのではないかと疑い始める・・・。
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世間知らずの令嬢の被害妄想、必死に借金苦から逃れようとする詐欺師まがいの男、つまり大人として未熟な男女が愛し合ってしまった結果の、言い知れぬ不安や疑念を抱く人間心理を見事にサスペンスにしたアルフレッド・ヒッチコックの演出は冴え渡る。
毒殺の恐怖に怯えるヒロインに運ぶ、ミルクだけが光る演出などはうならされる。
また、作家(オリオール・リイ)に招待された食事の席で、正装してテーブルにつく優雅な雰囲気の中、会話は殺人や毒殺の内容で終始し、美味しそうな料理をグロテスクに見せてアップで映すシーンや食べ物を粗末に描写するなど、ヒッチコックお得意の演出も楽しめる。
アカデミー作曲賞にノミネートされた、フランツ・ワックスマンの音楽も心に残る。
第14回アカデミー賞では、ジョーン・フォンテインが主演女優賞を受賞した。
・ノミネート
作品・作曲賞(ドラマ)
プレイボーイである憎みきれない小心者を演じたケイリー・グラントは、いつものようにユーモアも見せつつ、疑わしき主人公を好演している。
前年のヒッチコック作品の「レベッカ」(1940)でも好演し、アカデミー主演賞候補にもなったジョーン・フォンテインは、本作で見事に主演賞を獲得した。
その育ちからか、自ら恋焦がれて結婚したにも拘らず、自分本位に妄想を抱き苦悩する妻役を見事に演じている。
共演陣では、この時代の名作に軒並み出演している、主人公の母親であるメイ・ウィッティ、既にサーの称号を受けていた、父親役のセドリック・ハードウィック、ヒッチコック作品に6作出演する不動産業者レオ・G・キャロルらベテランの演技が、作品に重みを加えている。
主人公ジョニーの友人で、楽天家のナイジェル・ブルースの、洒脱な人柄が非常に印象に残る。
主人公の知人役イザベル・ジーンズ、メイド役のヘザー・エンジェル、ミステリー作家オリオール・リイなどが共演している。