ロンドンのSt James’s Theatreで1954年に1956年にはブロードウェイでも上演されたテレンス・ラティガンの舞台劇の映画化。 イギリスの海岸の田舎町のホテルで繰り広げられる宿泊客の人間模様を描く、監督デルバート・マン、主演デボラ・カー、リタ・ヘイワース、デヴィッド・ニーヴン、ウェンディ・ヒラー、バート・ランカスター他共演によるドラマ。 |
・ドラマ
■ スタッフ キャスト ■
監督:デルバート・マン
製作:ハロルド・ヘクト
戯曲:テレンス・ラティガン
脚本
テレンス・ラティガン
ジョン・ゲイ
撮影:チャールズ・ラング
編集
マージョリー・ファウラー
チャールズ・エニス
音楽:デヴィッド・ラクシン
出演
シビル・レイルトン=ベル:デボラ・カー
アン・シャンクランド:リタ・ヘイワース
アンガス・ポロック少佐:デヴィッド・ニーヴン
パット・クーパー:ウェンディ・ヒラー
ジョン・マルコム:バート・ランカスター
レイトン=ベル夫人:グラディス・クーパー
グラディス・マシソン夫人:キャスリーン・ネスビット
ファウラー:フェリックス・ エイルマー
チャールズ・ストラットン:ロッド・テーラー
ジーン:オードリー・ダルトン
ミーチャム:メイ・ハラット
■ アカデミー賞 ■
第31回アカデミー賞
・受賞
主演男優(デヴィッド・ニーヴン)
助演女優賞(ウェンディ・ヒラー)
・ノミネート
作品
主演女優(デボラ・カー)
脚色・撮影・画音楽賞(ドラマ・コメディ)
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
イギリス、海岸の町ボーンマス、”ボーリガード・ホテル”。
二日振りに帰ってきたアンガス・ポロック少佐(デヴィッド・ニーヴン)を、ホテルの外のベンチにいたシビル・レイルトン=ベル(デボラ・カー)が迎える。
シビルは、母親レイトン=ベル夫人(グラディス・クーパー)に、人前でポロックと親しげに話すのを注意され、 内気な彼女はそれを気にしてしまう。
その後ポロックは、ホテルの女主人パット・クーパー(ウェンディ・ヒラー)に新聞が届いていないかを尋ね、 それを受け取り、内容を見た彼は顔をしかめる。
医学生のチャールズ・ストラットン(ロッド・テーラー)は、試験の準備に余念がなかったが、恋人ジーン(オードリー・ダルトン)に誘われ、ビリヤードを始めてしまう。
そこに、その場にそぐわない、ゴージャスな女性でモデルのアン・シャンクランド(リタ・ヘイワース)が現れる。
アンは、アメリカ人作家ジョン・マルコム(バート・ランカスター)のことをクーパーに尋ねチェックインを済ます。 午後7時、各自はそれぞれのテーブルで夕食をとり始め、食事をしないポロックは、自分の読んだものと同じ新聞の購読者が、レイトン=ベル夫人だということをクーパーから聞き出す。 食事を終えたレイトン=ベル夫人とシビル、そしてグラディス・マシソン夫人(キャスリーン・ネスビット)は、ストラットンとジーンがいちゃつくのを気にしながらラウンジでくつろぐ。 そこに、バーから戻ったマルコムが現れるが、クーパーは彼の無作法を注意する。 実は、その二人は愛し合っていたのだが、食事をしようとしたマルコムは、その場にいた別れた妻アンを見て驚いてしまう。 気まずい雰囲気で、しばらく話をした二人だったが、アンはマルコムに恋人が出来たことに気づき、それを祝福する。 何の下心もないというアンに、マルコムはトラブルが起きる予感を感じ、再びバーに向かってしまう。 新聞が配達されるのを待ち構えていたポロックは、ある新聞の記事のページを破ろうとする。 そこにレイトン=ベル夫人が現れ、ポロックは彼女に別の新聞を借りる許可を得る。 ラウンジでは、シビルが働きたいことを母親に伝えるが、彼女は神経を病んでいる娘にそれを諦めさせようとする。 ポロックが読もうとしていた記事が気になったレイトン=ベル夫人は、メガネを忘れたために、それをマシソン夫人に読んでもらう。 何とそこには、ポロックが映画館でわいせつ行為をしたことを認め、逮捕されたことが書かれていた。 更に、ポロックが終戦時に中尉であり、軍人としての階級も少佐と偽っていたことも記されていた。 当初から、ポロックを良く思っていなかったレイトン=ベル夫人は、それをシビルに知らせずに、彼をホテルから追い出そうとする。 宿泊客をラウンジに集めようとしたレイトン=ベル夫人は、何事か知りたがったシビルに、仕方なく新聞を渡す。 シビルは記事を読み、そのショックで持っていた母親のメガネを握り潰してしまう。 レイトン=ベル夫人は、アンや引退した教師ファウラー(フェリックス・エイルマー)の前で、ポロックのことについてを話し合い、そこにマルコムが戻る。 マルコムにも、レイトン=ベル夫人はポロックの件を話すが、マシソン夫人は彼を擁護しないまでも、被害者の言動も不確かだと語る。 どんな人間にも、覚えがあるような行為が過ぎたまでだと、マルコムは、ポロックを追い出すほどのことではないと意見する。 更にマルコムは、この場にはポロックより酷い行いをした者もいるのではないかと、アンを意識しながら話を続ける。 ファウラーは哲学的な見解でその件を語るが、そこに現れた、競馬と推理小説が趣味の婦人ミーチャム(メイ・ハラット)は、以前から、つまらない男だと感じていたポロックの件に関心を示さない。 レイトン=ベル夫人は、ファウラーとマシソン夫人、シビルも賛成と決め付け、クーパーにポロックの追放を要求しようとする。 マルコムはシビル自身に答えさせようとするが、レイトン=ベル夫人がそれを娘に問い詰めたために、彼女は興奮して取り乱してしまう。 シビルに辛い思いをさせたことを、マルコムとマシソン夫人は後悔する。 その後、アンはあからさまに自分を嫌うマルコムに言い寄り、彼の愛を再燃させてしまう。 部屋に向かおうとした二人だったが、アンに電話が入った事を知らせたクーパーが、マルコムに自分達のことを彼女が知っているのかを問い質す。 そしてクーパーは、アンが最初から、マルコムの婚約者が自分だと知って現れたことを彼に伝える。 その直後、レイトン=ベル夫人はクーパーに新聞を見せて、ポロックを追い出すよう要求する。 激怒したマルコムはアンを問い詰め、老いれば男達が誰も振り向かなくなるということを彼女に伝える。 しかし、自分だけは例外だとアンに言われたマルコムは、何も言い返せずその場を立ち去ってしまう。 マルコムは、追ってきたアンを階段で押し倒しホテルを出て行くが、それが騒動となり、クーパーやレイトン=ベル夫人らが集まってくる。 翌朝、クーパーはアンを客として気遣い、ベランダにいたシビルにポロックが気軽に声をかける。 しかし、シビルは全てを知っていることをポロックに伝え、彼が常習犯だということを知る。 罪を認めるポロックは、女性恐怖症であり、自分も内気な人間であることを正直に打ち明け、シビルだけには遠慮なく話が出来ることを伝える。 ポロックは、ホテルを出てロンドンの同じような境遇の知人を訪ねることを、シビルに伝え部屋に戻る。 怯えるようなポロックを見てシビルは同情してしまい、動揺する彼女に、近くにいたアンが労わりの声をかける。 シビルが、ポロックに好意を持ち案じているのを悟ったアンは、彼女を励まそうとする。 戻ってきたポロックはシビルに別れを告げ、彼女に親切にしてくれたアンに感謝する。 そこに、マルコムが戻りクーパーの元に向かい、アンのことを心配する。 一晩中アンと話をしたクーパーは、彼女が睡眠薬を常用し、結婚するのも嘘だったことをマルコムに伝える。 現実の自分から、逃げることばかり考えているマルコムに、二人が愛し合っているから苦しむのだと、クーパーは言い放つ。 それでもアンに会おうとしないマルコムを、クーパーは突き放そうとするが、そこにポロックが現れる。 マルコムはその場から去り、ポロックは気を使いながらクーパーに部屋を引き払うことを告げる。 しかし、クーパーはポロックを追い出そうとはせずに、彼とシビルが、互いに支えになっていることを伝える。 食堂では、試験の準備がはかどらないチャールズが、ジーンとの結婚を決める。 朝食の際、アンに声をかけたマルコムは、自分が彼女の要求を満たせない男だと告げる。 マルコムの気持ちを理解したアンは、ニューヨークに戻っても、孤独の恐怖と不安に怯えていることを彼に伝える。 アンの意外な一面を見て、驚いてしまうマルコムだったが、そこにレイトン=ベル夫人とシビル、マシソン夫人、そして気まずそうなポロックが現れ、それぞれのテーブルに着く。 居たたまれない様子のポロックを気遣ったマルコムは、彼に朝の挨拶をして、ミーチャムが続き競馬の話などをする。 レイトン=ベル夫人は、当然ポロックの存在を煙たがるが、ファウラーは彼に近づきクリケットの話をする。 さらに、マシソン夫人も、ポロックに微笑みかけながら挨拶したため、周囲の雰囲気に憤慨したレイトン=ベル夫人は席を外そうとする。 しかし、シビルは母親に従わずに、食事を済ませると言い張り、夫人が去った後、ポロックに昨夜の三日月の話を始める。 マルコムは、自分達が復縁しても希望は持てないことをアンに伝えながらも、二人の将来に希望も感じる。 そこに、何事もなかったかのようにクーパーが現れ、タクシーが迎えに来たことをポロックに伝える。 ポロックはシビルを見つめながら、クーパーにタクシーを返すように伝え、昼食も定刻にとることを告げる。 そして、シビルは笑みを浮かべ、食事を続ける。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
海岸の町ボーンマスのホテルに滞在している元陸軍少佐ポロックは、自分が犯してしまった罪が、宿泊客に知られることを心配する。
しかし、それを知ったレイトン=ベル夫人は、ポロックをホテルから追い出そうと、宿泊客を集めて話し合いを始める。
紳士であったポロックに心を寄せていた、夫人の娘で神経を病む内気なシビルは、その事実を知り動揺してしまう。
一方、アメリカ人作家マルコムの元妻でモデルのアンは、彼の愛を取り戻そうとしてホテルに現れる。
しかしマルコムは、アンとの生活で傷ついていたため、彼女を突き放そうとする。
そして、マルコムと愛し合っていたホテルの女主人クーパーは、冷静な目で二人やポロックの動向を窺うのだが・・・。
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バート・ランカスター、ハロルド・ヘクト、そしてジェームズ・ヒルが主宰するプロダクションの”Hecht-Hill-Lancaster” による作品。
*ジェームズ・ヒルは、出演者リタ・ヘイワースと当時、結婚していた。
デビュー作の「マーティ」(1955)で、いきなりアカデミー監督賞を受賞したデルバート・マンが、ハロルド・ヘクトらと再び組んだ作品。
豪華スター競演が話題を呼び、地味な内容ではあるが、全ての宿泊客、そしてそれを取り仕切る女主人の人間性などを繊細に描写した、デルバート・マンの見事な演出は光る。
第31回アカデミー賞では作品賞以下7部門にノミネートされて、主演男優(デヴィッド・ニーヴン)、助演女優賞(ウェンディ・ヒラー)を受賞した。
・ノミネート
作品
主演女優(デボラ・カー)
脚色・撮影・画音楽賞(ドラマ・コメディ)
*受賞を逃したデボラ・カーは、主演とは言えないな気もするが、 当時のネームバリューでクレジットもトップであることから、納得もいくところだろうか。
品格とキャリアを持ち合わせる、完璧な紳士として登場する序盤から、一気に犯罪者として惨めな立場に立たされる、元将校を演ずるデヴィッド・ニーヴンの、苦渋の表情が実に印象的だ。
周囲の眼差しから、善人としての描写で締めくくられる、クライマックスの演出も心地よい。
その場にはそぐわない、異質な雰囲気を漂わせるリタ・ヘイワースの魅力、また、典型的な淑女のイメージを払拭する、情緒不安定的な女性を演ずるデボラ・カーの演技も新鮮だ。
ウェンディ・ヒラーの、無駄のない仕事振りと、洞察力もあり、様々な問題を抱える宿泊客に的確に対応する女主人、製作に参加しながら、控えめな役柄で登場するものの、 印象としては主演級のバート・ランカスター、両者の存在が印象的だ。
結局は孤立してしまう、口うるさいシビル(D・カー)の母親役グラディス・クーパー、ポロック(D・ニーヴン)を擁護する夫人のキャスリーン・ネスビット、引退した教師役のフェリックス・エイルマー、 医学生のロッド・テーラー、その恋人役オードリー・ダルトン、ブロードウェイのオリジナルキャストで、競馬好きの婦人メイ・ハラットなどが共演している。