1928年に発表された、ウィリアム・サマセット・モームの連続短編小説”アシェンデン”を基に製作された作品。 第一次大戦下、ドイツのスパイの行動を阻止する任務を受けた男女と協力者の情報活動を描く、監督アルフレッド・ヒッチコック、主演ジョン・ギールグッド、マデリーン・キャロル、ピーター・ローレ、ロバート・ヤング他共演のサスペンス。 |
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■ スタッフ キャスト ■
監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:マイケル・バルコン
原作:ウィリアム・サマセット・モーム”アシェンデン”
脚本
チャールズ・ベネット
アルマ・レヴィル
イアン・ヘイ
撮影:バーナード・ノールズ
編集:チャールズ・フレンド
音楽:ジョン・グリーンウッド
出演
エドガー・ブロディ大尉/リチャード・アシェンデン:ジョン・ギールグッド
エルザ・キャリントン:マデリーン・キャロル
モンテスマ将軍:ピーター・ローレ
ロバート・マーヴィン:ロバート・ヤング
ケイパー:パーシー・マーモント
ケイパー夫人:フローレンス・カーン
R:チャールズ・カーソン
リリー:リリー・パルマー
カール:ハワード・マリオン=クロフォード
アンダーソン大尉:トム・ヘルモア
大尉:マイケル・レニー
兵士:マイケル・レッドグレイヴ
イギリス 映画
配給 Gaumont British Picture Corporation
1936年製作 86分
公開
イギリス:1936年5月
北米:1936年6月15日
日本:1938年3月10日
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1916年5月10日、第一次大戦下、ロンドン、カーゾン街84番地。
著名な作家でもあるイギリス陸軍のエドガー・ブロディ大尉(ジョン・ギールグッド)が亡くなり、翌日、葬儀が行われることになっていた。
しかし、棺は空だった。
実は生きていたブロディは戦地から帰国し、R(チャールズ・カーソン)という男の元に連れて行かれる。
自分の死亡記事を見せるブロディは、今回の事態をRに問い質す。
イギリスとアメリカのパスポートを渡されたブロディは、”リチャード・アシェンデン”を名乗るよう指示され、コンスタンティノーブル経由で中東に向かう、人相も分からない敵を捜す任務を命ぜられる。
スイスにいる二重スパイと接触するよう言われたアシェンデンは、敵がアラブに向かうのを阻止する命令を理解する。 メキシコ人の助手がいると言われたアシェンデンは、彼を”将軍”と呼ぶよう指示され、モンテスマ将軍(ピーター・ローレ)を紹介される。 スイスで会うことを約束した将軍は、アシェンデンと別れる。 ドーバー海峡を渡り大陸に向かいスイス入りしたアシェンデンは、ホテルにチェックインし、妻も同伴することを知らされる。 部屋に向かったアシェンデンは、男性が”妻”と話していたために不思議に思い、ドアを閉めて気づかせる。 その男性(ロバート・ヤング)は驚き、浴室から現れた”妻”(マデリーン・キャロル)は、アシェンデンを迎える。 妻は、昨日知り合ったという男性ロバート・マーヴィンをアシェンデンに紹介する。 マーヴィンはその場を去り、アシェンデンは”妻”役のエルザ・キャリントンから、Rに派遣された者だと言われる。 不審に思うアシェンデンはエルザのパスポートを確認し、自分のを彼女に見せる。 アシェンデンはRからの伝言を受け取り暗号を解読して、夫婦らしく行動するようにという命令であることをエルザに伝える。 危険を好む勝気なエルザに、任務を甘く見るなと忠告したアシェンデンだったが、年配者の説教のような話は聞きたくないと彼女に言われる。 そこに現れた将軍は、アシェンデンだけに妻が与えられたことに対して不満を訴える。 任務遂行のための役目を果たすだけだと言われた将軍は、エルザに言い寄ってもよいかをアシェンデンに確認する。 冗談を言ってる場合ではないと言うアシェンデンは、敵の手先だったオルガン奏者が、こちら側に寝返ったことを将軍に伝える。 その人物に接触して手掛かりを掴むことを将軍に伝えたアシェンデンは、、彼に部屋から出るよう指示する。 話を聞きながら化粧をしていたエルザは、妻としての自分のことを、自信ありげにアシェンデンに問う。 ナルシストだと言われたエルザは気分を害し、アシェンデンの頬を叩く。 自分の頬も叩かれたエルザは、夫婦喧嘩だと冗談を言うが、任務を忘れるなとアシェンデンに再び忠告される。 その頃、敵側の連絡員にチョコレートに包まれたメモが渡される。 死んだはずの作家ブロディ(アシェンデン)が、現地に到着し情報活動を行っているという情報が伝わり、対抗する行動が開始されるという内容だった。 ランゲタール教会。 男が絞殺されていることに気づいた二人は、情報源を失うのだが、男が握りしめていたボタンが犯人のものだと考える。 誰かが近づいて来たので塔に上がった二人は、死体を調べた男が鐘を鳴らしたため、その場で待機するしかなかった。 その頃、エルザとマーヴィンは、外出して楽しい時を過ごしていた。 ホテルに戻ったアシェンデンは、エルザがマーヴィンとカジノに行ったことを知り、電報を受け取る。 敵の情報員が二日後に出発するため、将軍と共にそれを阻止するようにという指示だった。 それを確認した将軍は、カジノにいるエルザが何か情報を得ているかもしれないという可能性を指摘し、着替えをしてアシェンデンと共にその場に向かう。 エルザはアシェンデンに気づいて歩み寄り、一緒にいたマーヴィンは将軍を紹介される。 手掛かりのボタンをエルザに見せたアシェンデンは、それを誤って落してしまい、ボタンが示した数字がルーレットで当たりを出してしまう。 その場にいた紳士ケイパー(パーシー・マーモント)が自分のボタンだと気づいたため、彼が教会の男を殺した犯人だとアシェンデンは確信する。 その時、ケイパーの愛犬がカジノに入ってきてしまい騒ぎになり、アシェンデンとマーヴィンが、支配人に責められるケイパーを擁護する。 支配人は引き上げ、アシェンデンは、エルザと将軍をケイパーに紹介する。 昼間、訪ねた教会の村にケイパーが行ったらしいということを知ったアシェンデンと将軍は、とりあえず、夫人(フローレンス・カーン)も同席するテーブルでケイパーと話をすることになる。 アシェンデンと将軍は、山に登ることで口論する芝居をしてケイパーの気を引き、エルザはそれに気づく。 二日後に出発する予定の登山家でもあるケイパーは、明日なら自分が同行できると提案し、アシェンデンはそれに同意する。 エルザとダンスをするアシェンデンは、自分が山登りをしている間、ケイパー夫人を監視してドイツ語を習うよう彼女に指示する。 自分だけ山登りを楽しむのかと言われたアシェンデンは、戦時中であっても、殺人に変わりはない行いをしたケイパーと行動することは、危険が伴うとエルザに答える。 翌日、アシェンデンと将軍そしてケイパーは、ロープウェイで山に向う。 夫人と過ごしていたエルザは、現れたマーヴィンと共にドイツ語を教えてもらう。 ケイパーの殺害を躊躇するアシェンデンだったが、将軍は、それを決行する考えを変えない。 三人は山頂の展望台に着き、崖に近づき景色を眺める将軍とケイパーをアシェンデンが望遠鏡で監視する。 ケイパーの愛犬が落ち着かないため、様子がおかしいことを夫人が気にする。 将軍がケイパーを崖下に落とす瞬間、アシェンデンは、思わず”危ない”と叫んでしまう。 同じ頃、ケイパーの愛犬は呻き始め、夫人は不吉な予感を感じ、エルザはアシェンデンと将軍がケイパーを殺したことを察する。 その夜、自分達がしたことに納得いかないエルザは沈黙し、事故として処理されたため全く問題ないことを、アシェンデンは将軍から知らされる。 電報を受け取ったアシェンデンは、ケイパーがターゲットでなかったことを知る。 人違いだったことを知った将軍は、よくあるボタンだっただけだと言って高笑いする。 アシェンデンは、居たたまれなくなり席を外したエルザを追い寄り添う。 一目でアシェンデンに惹かれてしまったことを話すエルザは、殺人を実行しなければならないことに耐えられず涙する。 その考えに同調するアシェンデは、ケイパーには直接、手を下していないことをエルザに伝えるが、罪は同じだと付け加える。 手を引く気はないかと言われたアシェンデンは、自分も一目惚れしたことを伝えてエルザを抱きしめる。 部屋に戻ったアシェンデンは、R宛の手紙で辞表を書き、気分が晴れたエルザと共に朝を迎える。 二人に電話をかけたマーヴィンは、アシェンデンとエルザにからかわれ、彼女を諦めて別れを告げる。 現れた将軍に辞職することを伝えたアシェンデンは、自分達は情報活動の素人であり、プロに任せるべきだと伝える。 確かな情報が入ったと言う将軍からアドバイスだけを求められたアシェンデンは、今回だけだとエルザに約束して、心配いらないと言って部屋を出る。 部屋に向かった将軍は、その場にいた昨晩、意気投合した女性リリー(リリー・パルマー)のことをアシェンデンに話し始める。 リリーの恋人カール(ハワード・マリオン=クロフォード)が働くチョコレート工場が、ドイツの情報員の連絡場所であることを将軍はアシェンデンに伝える。 それは秘密裏に行われ、カールもその一員であると将軍は話す。 捜していた情報員の存在を知るカールに金を払う必要があると言われたアシェンデンは、エルザに電話をして2時間ほど出かけなければならないことを伝える。 仕方なく納得したエルザだったが、アシェンデンの書いた辞表を切り刻んでしまう。 アシェンデンと将軍はチョコレート工場に向い、その場を見学させてもらう。 製品の箱にメモが挟まれたことに気づいた将軍は、それが運ばれた階上に向かう。 そのメモは他の工員に届き、イギリスのスパイが二人来ているため、警察に通報するようにという内容だった。 連絡を受けた警察は、それを工場長に確認して現場に向かう。 その頃エルザは、任務から離れられないだろうというアシェンデンへの別れのメモを残し去ることを考える。 リリーは恋人のカールにアシェンデンと将軍のことを話し、彼は二人を監視する。 警官が現れたことに気づいた将軍は、それをアシェンデンに知らせる。 将軍は提供されたチョコレートをのどに詰まらせたと見せかけて騒ぎを起こし、アシェンデンが警報器を鳴らす。 工場が混乱している間に、アシェンデンと共に逃走する将軍は、追ってきたカールを殴る。 カールは、リリーの婚約者だと二人に説明して金を受け取る。 メモを渡されたアシェンデンは、マーヴィンがターゲットであることを知る。 エルザに危険が迫り、アシェンデンと将軍はホテルに急行する。 ホテルを去ろうとしたエルザは、ギリシャに向かうと言うマーヴィンに同行したいことを伝える。 任務があったマーヴィンだったが、仕方なくエルザを連れてホテルを出る。 ホテルに電話をしたアシェンデンは、エルザがマーヴィンと共に駅に向かったことを知る。 エルザが自分を見捨てることを知らないアシェンデンは、マーヴィンがスパイであることに彼女が気づいたと考え、将軍と共に駅に向かう。 そのことを知らされたRはエルザの行動を評価しつつ、アシェンデンが失敗した場合、彼女が逃げられる可能性はないと考える。 駅でエルザを見つけたアシェンデンは、マーヴィンがスパイだと彼女が気づいていないことを知る。 マーヴィンがコンスタンティノーブル行きの汽車に乗ったことを知ったエルザは、優しく接してくれた彼がスパイであることが信じられない。 汽車に乗ったアシェンデンは、マーヴィンを殺害することに反対するエルザの説得に梃子摺る。 トルコに入り多くの兵士が乗車し、吊るされるスパイを確認したエルザは、現れたマーヴィンからなぜ乗っているのかを問われ連れて行かれる。 個室に向かったマーヴィンは、銃を手にしながらエルザを追及し、Rの指令で任務を遂行していることを確認する。 現在は自国の領土であり、敵国にいることをエルザに伝えたマーヴィンは、アシェンデンと将軍が乗っているのかを問う。 二人が乗っていたら命はないと言うマーヴィンに、自分が追ってきた理由は、会ったその日から惹かれたからだとエルザは伝える。 それでもエルザを警戒するマーヴィンだったが、Rの要請で派遣された敵機の攻撃を汽車が受ける。 愛してはいないと言いながらエルザにキスしたマーヴィンだったが、アシェンデンと将軍が現れる。 マーヴィンにオルガン奏者の殺害を認めさせた二人は、エルザを外に出して彼を殺そうとする。 将軍がナイフで始末しようとするが、銃を手にしたエルザは、罪を犯すよりも、戦闘機の攻撃を受けて敵と共に死を選ぶようアシェンデンを説得する。 スパイのせいで多くの人命が奪われると言うアシェンデンは、良心の問題だと反論するエルザから銃を奪おうとする。 その時、線路が爆撃されて汽車は脱線し大事故となる。 無事だったアシェンデンはマーヴィンを殺すことができず、エルザと共にその場を離れる。 残骸に挟まったマーヴィンに歩み寄った将軍は、水が欲しいと言う彼に酒を渡そうとして銃を置く。 その銃を手にしたマーヴィンは、将軍を銃撃して息絶える。 将軍は、自分の名前を言いながら倒れて息を引き取る。 任務を終えたアシェンデンとエルザは抱き合う。 その後、アラブの地に侵攻した自国軍の勝利の報告を受けたRは、二度とお断りだという、アシェンデン夫妻からの手紙を確認する。
...全てを見る(結末あり)
アシェンデンと将軍は、合図であるろうそくに火を点けて待つが、誰も現れず何も起きないため、オルガンを鳴らし続ける男に近寄る。
*(簡略ストー リー)
1916年、第一次大戦下。
著名な作家でもあるイギリス陸軍のエドガー・ブロディ大尉は、戦地から帰国するものの死亡したことになっていた。
情報部のRの元に向かったブロディは、、”アシェンデン”を名乗り、コンスタンティノーブル経由で中東に向かう、人相も分からない敵を捜す任務を命ぜられる。
メキシコ人の”将軍”を助手にすると言われたアシェンデンはスイスに向い、接触するスパイが妻役のエルザと知らされて驚く。
エルザに言い寄る男性マーヴィンの存在を気にしながら、アシェンデンは将軍と共に、寝返った男に会おうとする。
その男は殺され、犯人でありターゲットと考えられる老紳士ケイパーを殺害したアシェンデンと将軍だったが、それが人違いがったことを知らされる・・・。
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第一次大戦の戦いの行方を左右するスパイ戦を描いた内容は、アルフレッド・ヒッチコックらしい、様々なアイデアを駆使し工夫を凝らした演出で観客を楽しませてくれる。
スパイ活動をストレートに描きながら、主人公二人の恋愛、謎の紳士や奇妙なキャラクターなどをアクセントとして使うヒッチコックの演出は、後年の作品につながる要素も随所で見られて実に興味深い。
舞台は第一次大戦下ではあるが、ナチスの台頭によりヨーロッパで迫る戦火を感じさせる混沌とした雰囲気が、当時の社会情勢を感じさせる。
アルフレッド・ヒッチコックが出演しているという情報について。
主人公のジョン・ギールグッドがスイスに到着した際、同じ船の乗客として登場すると言われているが、それは確認できず、英文の資料でも紹介されていない。
情報活動を行う者としては素人であり、スパイ戦に巻き込まれたような雰囲気ながら、任務遂行に全力を尽くすジョン・ギールグッド、同じヒッチコック作品である前年の「三十九夜」(1935)でも好演した、主人公をサポートしながら愛し合うマデリーン・キャロル、同じく主人公の助手として活躍する、特異なキャラクターであり怪演が光るピーター・ローレ、三人に関係する敵のスパイ、ロバート・ヤング、スパイに間違われて殺害される老紳士パーシー・マーモント、その妻フローレンス・カーン、作戦を指揮するチャールズ・カーソン、主人公らに情報を流す女性リリー・パルマー、その恋人ハワード・マリオン=クロフォード、Rの部下トム・ヘルモア、兵士役でマイケル・レッドグレイヴとマイケル・レニーなどが共演している。