反英運動が激化するアイルランドの寒村を舞台に、成長仕切れないまま年齢差のある教師と結婚した妻の不倫の物語を中心に人間の醜さや優しさを雄大な大自然をバックに描く、いかにもデヴィッド・リーンらしい、風景描写のスケールの大きさも際立つ、ロバート・ミッチャム、サラ・マイルズ、トレバー・ハワード、ジョン・ミルズ共演のドラマ。 |
・ドラマ
■ スタッフ キャスト ■
監督:デヴィッド・リーン
製作:アンソニー・ハヴロック=アラン
脚本:ロバート・ボルト
撮影:フレディ・ヤング
編集:ノーマン・サヴェージ
音楽:モーリス・ジャール
出演
チャールズ・ショーネシー:ロバート・ミッチャム
ロージー・ライアン:サラ・マイルズ
ヒュー・コリンズ神父:トレバー・ハワード
マイケル:ジョン・ミルズ
トーマス・ライアン:レオ・マッカーン
ランドルフ・ドリアン:クリストファー・ジョーンズ
ティム・オリアリー:バリー・フォスター
イギリス 映画
配給 MGM
1970年製作 196分
公開
イギリス:1970年12月9日
北米:1970年11月9日
日本:1971年4月24日
製作費 $15,000,000
■ アカデミー賞 ■
第43回アカデミー賞
・受賞
助演男優(ジョン・ミルズ)
撮影賞
・ノミネート
主演女優(サラ・マイルズ)
録音賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
第一次大戦中。
アイルランド、ディングル半島の村キネリー。
海岸を散歩中の娘ロージー・ライアン(サラ・マイルズ)は、ヒュー・コリンズ神父(トレバー・ハワード)と言葉の不自由なマイケル(ジョン・ミルズ)に出くわす。
男を求めているように思えるロージーを気にしながらコリンズ神父は酒場に向かい、彼女の父親で店主のトーマス・ライアン(レオ・マッカーン)にそのことを話す。
浜辺にいたロージーは、その後、会議が終わりダブリンから戻った学校教師チャールズ・ショーネシー(ロバート・ミッチャム)と話し込む。
二人は暫し話を弾ませ、チャールズはロージーと別れた後に、亡くなった妻の墓参りをして酒場に向かう。 ライアンらは、ダブリンの様子をチャールズから聞こうとするが、彼は多くを語らなかった。 反イギリス感情の高まるアイルランド国民は、駐屯するイギリス軍に対し、武器を密輸して再び立ち上がる機会を窺っていた。 ロージーは、学校に向かいチャールズの帰宅を待ち、彼に愛を伝えようとする。 チャールズは、ロージーの気持ちは嬉しく思うのだが、中年の男が、若さを奪うわけにはいかないと彼女に言い聞かせる。 しかし、自分を嫌いかと問われたチャールズは、ロージーが愛しくなり抱き寄せてしまう。 その頃、アイルランド義勇軍のリーダー、ティム・オリアリー(バリー・フォスター)が、鋳掛け屋に扮して村に入り、海岸の視察などを始め、連絡員だったライアンと接触しようとする。 やがて、年齢差を克服し、チャールズとロージーは結婚することになり、コリンズ神父が二人の式を執り行う。 マイケルは、何事が起きているのか理解できず、それを見て、複雑な表情で二人を見つめる。 ライアンは、娘ロージーのために盛大な祝宴を催すが、その夜、チャールズは、若いロージーの欲望を満たすことが出来なかった。 その後、二人の新生活は始まり、実直な人柄である教師チャールズは理想の夫ではあったが、ロージーの欲求は増すばかりで、満足の出来ない日々が続く。 ロージーは、それをコリンズ神父に見抜かれ、克服するよう助言される。 そんな時、イギリス軍駐屯地の指揮官として、戦場で足を負傷した、ランドルフ・ドリアン少佐(クリストファー・ジョーンズ)が着任する。 マイケルは、自分と同じ足の悪いドリアンを見て親しみを感じる。 ドリアンは、部下からライアンが情報を流していることを聞き、彼の店で手伝っているロージーと出会う。 ロージーは若いドリアンを意識するが、彼は戦場を思い出し、突然、発作で倒れてしまう。 戦場の悲惨な体験から心を閉ざしていた男と、欲望の満たされない女の心は一気に燃え上がってしまう。 やがてロージーは、自宅の裏手の高台にある、軍の駐屯地を気にし始める。 その夜、気持ちが高ぶるロージーが裏庭にいると、ドリアンが現れ、再会を約束をして立ち去る。 翌日の午後、父ライアンから譲られた馬で、ドリアンと遠乗りに出かけたロージーは、欲望のままに彼と何度も愛し合い、初めて満ち足りた思いになる。 そんな二人をマイケルは目撃してしまうが、誰かに伝えることもできない。 帰宅したロージーは、馬が倒れて、ドリアンに助けてもらったとチャールズに伝える。 チャールズは、何となくそれが気になり、ロージーに自分を裏切っていないか問い質す。 そんな夫をロージーは抱き寄せるのだが、彼女はその後もドリアンと情事を重ねる。 ある日、チャールズは子供達を連れて、課外授業で浜辺に向かう。 そこでチャールズは、足を引きずった男と女性の足跡を見つけ、それがロージーとドリアンのものではないかと想像する。 足跡の途中、貝殻を拾った形跡があり、さらにそれは洞窟まで続き、チャールズは愕然としてしまう。 マイケルが、洞窟でドリアンの軍服のボタンを見つけて、人々の前でロージーに対し、ドリアンの真似をして敬礼をしてしまう。 そして、ロージーは淫らな女のレッテルが貼られてしまう。 帰宅したロージーを訪ねたコリンズ神父は、彼女から、ドリアンと遠乗りに行ったと聞かされ、何もなかったかを問い質す。 ロージーは、神父に二人の関係を否定するが、そこにチャールズが戻る。 チャールズは、ロージーが浜に行かなかったことを確認するが、帽子に付いた砂と貝殻を見つけてしまう。 ロージーが嘘をついているのは明白だったが、チャールズは彼女を責めるのではなく、自分が相応しい夫かとということを考え直してみる。 嵐の夜、オリアリーら義勇軍の一団が、ライアンの前に姿を現し、海に漂流してしまった武器弾薬などを、回収する手助けを要請する。 しかし、ライアンはイギリス軍にそれを密告し、オリアリーらと海岸に向かう。 嵐の中で積荷を引き上げるのは困難と思えたが、そこに村人が駆けつけて、先頭に立って作業をしたライアンは、オリアリーに称えられる。 トラックに荷を積み、海岸を離れたオリアリーらだったが、ドリアンの部隊が彼らを待ち伏せしていた。 村人が見守る中、オリアリーは逃亡を図り、ドリアンが彼を銃撃して傷を負わせる。 しかし、ドリアンは発作が起きてしまい、ロージーが彼に寄り添おうとしたため、村人は彼女を嘲り笑い、チャールズがロージーを連れて、その場を立ち去る。 オリアリーと義勇軍の一団は逮捕され、村人はドリアンに憎しみをぶつける。 帰宅したチャールズは、ロージーの不貞を責めはしなかったが、彼女が、再びドリアンの元に向かうのを目撃してしまい、ついに家を出てしまう。 家に戻ったロージーは、チャールズが不在なのに気づき、現れたコリンズ神父に、ドリアンと会っていたことを話す。 コリンズ神父は、浜辺で武器の回収をするドリアンに、妻を寝取られた男に服を届けると言って立ち去る。 神父に服を渡されたチャールズは家に戻り、ロージーと別れる相談をする。 しかし、村人はロージーが密告者だと決め付け、彼女をリンチにかけようとする。 ロージーは、父が裏切り者ではないかと思うが、人々に取り押さえられ、髪の毛を切られて衣服を剥がされ、さらし者にされる。 彼女を助けようとしたチャールズも殴り倒され、コリンズ神父がその騒動を鎮める。 浜辺でマイケルに出くわしたドリアンは、彼が、義勇軍の爆薬を隠し持っているのを知り、心乱れた彼は、それを使い自ら命を絶つ。 爆音を聞いたロージーは、駆けつけたマイケルの表情を見て、ドリアンが自殺したことを知る。 チャールズは、ロージーと共に村を離れる決心をして、コリンズ神父とマイケルに付き添われながら家を出る。 今後のことを心配しつつも、チャールズはロージーの気持ちを察し、寄り添いながら村の大通りを抜ける。 酒場に寄ったロージーは、父と簡単な会話を交わして別れを告げる。 ライアンは、二人に罵声を浴びせる村人達の声を聞きながら、その場にたたずむ。 ダブリンに向かう、バスを待っていたロージーの帽子が風で飛んでしまい、マイケルは無惨に切られた彼女の髪の毛を見て驚いてしまう。 バスが到着して、ロージーは、嫌っていたマイケルにキスをして別れを告げる。 コリンズ神父は、ロージーに餞別を渡し、彼女と別れることを考えるチャールズに、それは疑問だと言い残して彼らを見送る。 そしてコリンズ神父は、”理解できない”とつぶやきながら、マイケルを連れて村に戻る。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
アイルランド、海岸沿いの村。
学校教師チャールズ・オショネシーは、教え子でもあった、ロージー・ライアンに愛を告白され、その純真な愛らしさに惹かれて結婚する。
しかし、親子ほどの歳の差からロージーの欲求は満たされることなく、彼女は同じ頃に赴任した若いイギリス軍将校との情事に走ってしまう。
やがて、それが村人に知れ、アイルランド義勇軍を支援する人々から、ロージーは裏切り者とみなされてしまう。
夫チャールズは、ロージーの気持ちを察し、彼女を責めようとしなかったが、村人達の醜い心は、二人の運命に容赦なく襲いかかる・・・。
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「ドクトル・ジバゴ」(1965)から5年が経ち、これで引退かとも思われたデヴィッド・リーンは、14年後に「インドへの道」(1984)を発表することになる。
第43回アカデミー賞では、ジョン・ミルズの助演男優と撮影賞を受賞した。
・ノミネート
主演女優(サラ・マイルズ)
録音賞
アカデミー撮影賞を受賞したフレディ・ヤングの、この種の作品では考えられないほどの、ロングショットを多用した、ディングル半島の美しい映像は秀逸だ。
また、戦場の悲惨な体験に怯えるイギリス軍指揮官の、決して晴れることのない心を表現する、顔に影を落とすショットなど、細やかな撮影手法などもうならされる。
同じく、デヴィッド・リーン作品の常連モーリス・ジャールの音楽の素晴しさなくして、この映像の見事さは伝わらない程の効果を上げている。
どちらかと言えば男臭いタフガイ的なアメリカ人俳優ロバート・ミッチャムを起用したところが、非常に興味深い。
ロバート・ミッチャムはそれに見事に応え、思慮深く身の程を知る教師役を、抑えた演技で好演している。
*彼は父親がスコットランドとアイルランド系で、母親はノルウェーである。
欲望をどうにも抑えられない、子供のような人妻サラ・マイルズも、アカデミー主演賞候補に相応しい熱演を見せ、欲求不満で、病的に震えるような表情が実に印象的だ。
言動は厳しいが洞察力があり、また人情味溢れる神父トレバー・ハワードも、重要な役をベテランらしく演じ存在感を示している。
障害を持ち、セリフがない男性を演じたジョン・ミルズの、豊かな表現力も出色で、正にアカデミー助演賞に値する演技だ。
彼は、アカデミー賞受賞の際のスピーチでも何も語らず、ただお辞儀をしただけというエピソードも残されている。
娘を犠牲にする裏切り者レオ・マッカーン、サラ・マイルズの時よりも、ジョン・ミルズとのツーショットの豊かな表情が魅力的なクリストファー・ジョーンズ、義勇軍のリーダーバリー・フォスターらの好演も印象に残る。