心の旅路 Random Harvest (1942)

ポーラは、精神を病んではいるが、どことなく上品で弱々しいスミスの事が気になり後を追う。

旅芸人一座の花形女優のポーラは、スミスを劇場の楽屋に連れて行き、自分の舞台を見せようとする。

しかし、スミスはショーの最中に倒れてしまい、ポーラが献身的に介抱する。

ポーラは、気のいいマネージャー、サム(リス・ウィリアムズ)に、スミスを巡業に連れて行くことを頼み込み、サムもそれを了承する。
そこに、病院の警備員が現れ、逃げ出した患者のことを告げたため、サムは危険だと言ってスミスの同行を心配する。

スミスのことを考えて、病院に戻るよう彼を説得したポーラだったが、スミスは言葉を返せない。

それを見たポーラは、スミスを哀れに思い見捨てられず、一座を辞めて彼と共に逃亡しようとする。

しかし、スミスがサムを押し倒して、彼が意識を失ってしまったため、ポーラは焦り汽車で町から遠ざかろうと考える。

デヴォンという片田舎の村に、スミスとたどり着いたポーラは、酒場の主人ビッファー(レジナルド・オーウェン)への電話で、サムが無事で事故だと言ってくれたと聞き胸を撫で下ろす。

やがて、田舎ののどかな生活で、スミスは不自由だった言葉や体力も回復し、彼は作家を志してみることにする。

ある日、記事が採用され、わずかな原稿料を手にしたスミスは、ポーラに求婚する。

やがて二人は、地元の医師シムズ(ヘンリー・トラヴァース)らに祝福されながら、ささやかな結婚式を挙げ、小さな家を手に入れて幸せな生活を始める。

その後、スミスとポーラは村人達と親交を深め、二人には男の子が生まれる。

そしてスミスは、ポーラと子供の瞳と同じ、青色のビーズの首飾りを彼女に贈る。

そこに、リバプールの新聞社から採用の通知が届き、スミスはポーラと共に希望に胸膨らます。

しかし、現地に到着して新聞社に向かおうとしたスミスは、自動車に撥ねられて意識を失ってしまう。

幸い軽傷で済んだスミスは、薬屋(アーサー・シールズ)らに手当てされて意識を取り戻すが、記憶は３年前の戦場に戻ってしまっていた。

ポーラと過ごした記憶を失ってしまったスミスは、どうしてリバプールにいるのかを知ろうと、故郷に戻ってみることにする。

故郷の屋敷”ランダム・ホール”に戻ったスミスは、亡くなった父親の葬儀が、その日にあったことを知る。

スミスは、イギリスでも有数の大富豪の息子、”チャールズ・レニア”だったのだ。

翌朝、親族の前に現れたチャールズは、遺産として屋敷を相続することになり、 姪で１５歳の女学生キティ・チルセット(スーザン・ピータース)に慕われるようになる。

事故時にポケットの中にあった鍵と、どうしてリバプールにいたのかを気にしながら数年が過ぎ、チャールズは、兄に代わり事業を継いで実業界で大成功する。

成長したキティに誘われ、食事をしていたチャールズは、聞き覚えのある男性(ベネット医師)の声が気になる。

何かを思い出しそうなチャールズだったのだが、現実に戻りキティと結婚を決意する。

一方、子供を亡くしたポーラは、失踪したスミスが、昔の記憶を取り戻し、実業家になったことを知る。

そしてポーラは、マーガレット・ハンソンという名を語り、苦労して彼の秘書になっていた。

かつてポーラと出会った、メルブリッジの工場を買収することにしたチャールズに、彼女は期待を込めて工場の資料を見せる。

しかし、チャールズは何も記憶が戻らないばかりか、引退してキティと結婚することをポーラに告げる。

ポーラは動揺し、支えになってくれているベネット医師にそのことを伝え、真実をチャールズに告白しようとする。

しかし、ベネット医師は、奇跡を信じて”スミス”がポーラの元に戻るのを待つよう助言する。

スミスを傷つけたくないポーラは、目の前の夫に名乗り出ることも出来ずに苦悩する。

そして、ポーラはスミスの死亡届を提出し、彼との結婚が無効となる。

チャールズとキティは、結婚式の準備を進めるが、空白の記憶を気にするチャールズを見て、彼女は婚約を解消してしまう。

チャールズは姿を消し、事故に遭ったリバプールで、失った記憶の手がかりをつかもうとするが無駄足だった。

ポーラは、チャールズがリバプールに向かったことを知り、彼を追って手掛かりを探す手助けをする。

チャールズは、事故時に宿泊したホテルに保管されていた、”ジョン・スミス”の札が付いた鞄を見ても、何も思い出せない。

やがて、国会議員の補欠選の候補となり、見事に当選したチャールズは、秘書ポーラの有能さを痛感して彼女に求婚する。

それをベネット医師に相談したポーラだったが、彼女自身が傷つく可能性を医師に指摘される。

ポーラはチャールズとの結婚を選ぶが、彼女が他の誰かを想っていることを察したチャールズはそれを尋ねる。

貴族になったチャールズに仕える役に徹するポーラは、”スミス”から贈られたビーズの首飾りを見て、彼を想い苦悩する。

そこにチャールズが現れ、自分の贈った高価な宝石よりも、ポーラが手にする首飾りが、価値があるのだということを知る。

チャールズも誰かを想う気持ちが強く、どうしても記憶が戻らない彼とポーラの話は平行線のまま、彼女は一人で旅立つ決心をする。

旅立つポーラを駅で見送ったチャールズは、工場のストライキを解決するため、メルブリッジに向かうことになる。

ストを解決し、町に出たチャールズは、知らぬ間にタバコ屋を探し当て、メルブリッジという地名に聞き覚えを感じ、さらに施設のことを思い出す。

その頃、ポーラはスミスとの想い出の場所デヴォンの宿を後にしようとしていた。

帰り際に、ポーラは昔の女主人のことを尋ねるが、偶然にもその日に男性が、同じ質問をしたことを宿主から知らされる。

そしてポーラは、その男性が、以前住んでいた家を捜しに行ったことを知らされる。

記憶が徐々に甦ったチャールズは、デヴォンの小さな家を訪ねる。

油の切れた柵のきしむ音、垂れ下がった木の枝、そして、持っていた鍵を鍵穴に入れるとドアは開いた。

ポーラも、スミスと暮らした想い出の家に足を運ぶ。

そこには、記憶を取り戻しつつあるチャールズがいた。

ポーラは親しみを込めて、チャールズを以前の名前で呼ぶ。

”スミシー”

チャールズは記憶が戻り”ポーラ”の名を呼び、二人は固く抱き合う。