1928年に発表された、クレメンス・デインとヘレン・シンプソンの小説”Enter Sir John”を基に製作された作品。 ある殺人事件の陪審員を務めた高名な役者が死刑を宣告された女優の無実を証明しようとする姿を描く、監督、脚色アルフレッド・ヒッチコック、脚本アルマ・レヴィル(ヒッチコック夫人)、主演ハーバート・マーシャル、ノラ・ベアリング、フィリス・コンスタム、エドワード・チャップマン他共演のサスペンス。 |
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■ スタッフ キャスト ■
監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:ジョン・マクスウェル
原作
”Enter Sir John”
クレメンス・デイン
ヘレン・シンプソン
脚色
アルフレッド・ヒッチコック
ウォルター・C・マイクロフト
脚本:アルマ・レヴィル
撮影:ジャック・E・コックス
編集:レネ・マリソン
音楽:ジョン・レインダース
出演
サー・ジョン・メニアー:ハーバート・マーシャル
ダイアナ・ベアリング:ノラ・ベアリング
ドーシー・マーカム:フィリス・コンスタム
エドワード”テッド”マーカム:エドワード・チャップマン
ゴードン・ドルース:マイルズ・マンダー
ハンデル・フェイン:エスメ・パーシイ
アイオン・スチュアート:ドナルド・キャルソープ
陪審員:ヴァイオレット・フェアブラザー
ミッチャム夫人:マリー・ライト
グログラム夫人:ウナ・オコナー
イギリス 映画
配給
British International Pictures Inc.(北米)
Wardour Films (イギリス)
1930年製作 98分
公開
イギリス:1930年7月31日
北米:1930年11月24日
日本:1994年1月15日
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
ロンドン。
ある夜、劇団の舞台監督エドワード”テッド”マーカム(エドワード・チャップマン)の妻で女優のドーシー(フィリス・コンスタム)が、同僚の女優ダイアナ・ベアリング(ノラ・ベアリング)の家の騒ぎに気付く。
ドーシーは夫と共に様子を見に行き、その場には人々と巡査も駆けつけ、劇団員の女優エドナ・ドルースの死体が確認される。
その傍には、同じ劇団の女優ダイアナ・ベアリング(ノラ・ベアリング)が呆然として椅子に座り、彼女の手元には血の付いた火かき棒が落ちていた。
巡査は、エドナがダイアナの客であり食事に来ていたことを大家のミッチャム夫人(マリー・ライト)から、また、二人が自分達の劇団員であるとマーカムからを知らされる。
酔ってその場に現れたエドナの夫で劇場の支配人ゴードン(マイルズ・マンダー)は、妻を嫌っていたダイアナに嫌みを言って批判する。 ゴードンにブランデーを飲ませようとした巡査に、エドナに飲ませようとした瓶がテーブルの上にあるとダイアナが呟く。 しかし、ブランデーの瓶は空だった。 お茶を入れようとしたミッチャム夫人と話をしたドーシーは、二人が不仲であり、ダイアナが劇団をやめようとしたため、ゴードンが引き留めたと話す。 ところがエドナが、突然、仲直りしようとして食事をしたのだった。 ダイアナは警官に逮捕され、警察署に連行される。 劇団は、ダイアナとエドナが出演しないまま興行を続ける。 舞台が進行中に、主演のハンデル・フェイン(エスメ・パーシイ)やマーカムは、事情聴取に来た巡査の前で事件についてを話す。 その後、殺人容疑で起訴されたダイアナは公判で裁かれることになり、彼女は無意識のうちにしたことだと主張する。 高名な役者サー・ジョン・メニアー(ハーバート・マーシャル)他、陪審員の協議が始まる。 検察側の主張する現状証拠では紛れもなく有罪ではあるが、本人の証言では無意識であったため、無罪だという意見も出る。 投票が行われ、無罪に入れた三人の内の一人の女性(ヴァイオレット・フェアブラザー)が、被告の精神状態の不安定さは病気であり、行動が本人の意思でなかったと語る。 しかし、病気だとすれば再発して再び殺人を犯す可能性があると別の女性に指摘され、彼女は納得して有罪に変えてしまう。 被告が魅力的な女性であり、犯人だと思えないというだけの理由だった男性も有罪とする。 最後の無罪主張者サー・ジョンは、ダイアナが覚えていないというのは真実で、ブランデーを飲んでいないと確信していた。 ダイアナが酒を飲んでいたのは確かだが、サー・ジョンは食事中のワインの可能性があると指摘する。 しかし、マーカムの証言ではブランデーが空であり、俳優の間でも、ダイアナとエドナの仲が悪いのは知られていたと、陪審員達はサー・ジョンに詰め寄る。 もう一度、疑いない証拠があると陪審員達から言われたサー・ジョンは、反論できるかと問われる。 ダイアナが、酒を飲んで酔うような女性ではないことを確信しているサー・ジョンは、侵入者を疑うもののそれも否定される。 本人が認めていないとしか答えられないサー・ジョンは、仕方なく有罪を認める。 そして判決が下され、ダイアナは死刑を宣告される。 その後サー・ジョンは、無罪を主張し続けなかったことを後悔し、なぜ人々はダイアナが犯人と思えるのか理解できない。 法廷で挑戦的だったダイアナが反感を買ったのか・・・しかし、その彼女は魅力的だったとサー・ジョンは考える。 いったい誰がブランデーを飲んだのか、殺人は否定しなかったのに、ダイアナはそれを飲んでないとはっきりと答えた・・・。 サー・ジョンは、そのことが頭から離れず、別の人間がブランデーを飲んだのではないかと考える。 自分を尋ねて来た女優志願のダイアナを、経験を積ませるために地方巡業に行かせたことを、サー・ジョンは悔やむ。 その頃、芝居のスケジュールが未定で苦しかったマーカムは、サー・ジョンに呼び出される。 サー・ジョンは、ダイアナ事件の陪審員だったことをマーカムに伝えて、その件について話しを聞く。 予定する芝居の舞台監督を頼みたいことと、年間契約も仄めかしたサー・ジョンは、女優である妻ドーシー(フィリス・コンスタム)を推薦するマーカムの話を聞き入れて、その場に来ている彼女を部屋に呼ぶ。 サー・ジョンは事件のことを話し始め、メリーが犯人だと思えないと言ってマーカムに意見を求める。 そこにドーシーが現れてサー・ジョンに歓迎され、彼女は仕事をもらえたことをマーカムから知らされる。 サー・ジョンが事件の話をし始めたため、ドーシーは、彼がダイアナを無実にしようとしているのかを確認する。 自分とマーカムは無実を信じると言うサー・ジョンの考えを否定できないドーシーは、ダイアナを救うための協力を申し出る。 マーカムとドーシーは用意された昼食の席に着き、サー・ジョンと共に侵入者が誰かを考える。 ドーシーは、夜中に巡査を見かけたことを話し、サー・ジョンはそれに興味を持つ。 騒ぎに気づいたドーシーは巡査を目撃してマーカムに知らせるが、目を離している間にその巡査は姿を消した。 そこに別の巡査が現れたのだが、マーカムは、最初の巡査は角を曲がって去ったのだろうとサー・ジョンに伝える。 マーカムとドーシーは、サー・ジョンを家に連れて行きその際の状況を話す。 酔ったゴードンが、エドナに会いたいと言ってミッチャム夫人の家に押し入ろうとしていることに気付いたマーカムは、その場に向い彼を制止する。 ミッチャム夫人にサー・ジョンを紹介したマーカムは、彼女に招かれて、事件現場の部屋で状況を説明する。 劇場の楽屋方面にある窓から侵入者が入った場合、よほど身軽でなくては無理だと考えたサー・ジョンは、高い声の叫び声が女性だったことを知る。 サー・ジョンは、別の部屋から甲高い声で夫人の名を呼び、聞いた声が女性ではなかったのではないかと問う。 夫人に侮辱だと言われたサー・ジョンは、声が男性の可能性があることを伝え、無実の罪のダイアナが死刑になると付け加える。 それを悲しむ夫人は協力を約束し、サー・ジョンにダイアナの部屋を見せる。 自分の写真があることを確認したサー・ジョンは、次の場所である楽屋口に向かう。 フェインと同僚アイオン・スチュアート(ドナルド・キャルソープ)が楽屋の洗面台を壊したことを知らされたサー・ジョンとマーカムは、落ちていたタバコ入れを渡される。 楽屋を見せてもらったサー・ジョンは、住宅街に面した窓と、その手前の壊された洗面台を確認する。 その後サー・ジョンは、話も聞けるということでマーカムが手配した、事件を担当した巡査の家に泊めてもらうことになる。 翌朝、巡査の妻グログラム夫人(ウナ・オコナー)に起こされたサー・ジョンは、子供達がいたずらした鞄の話を聞く。 鞄にあった巡査の制服を見つけた子供を、持ち主と思われる役者フェインが叱ったため、夫人は夫のものだと勘違いしただけだと話したことがあるとサー・ジョンに伝える。 するとフェインは態度を一変させたため、夫人は不審に思ったのだが、鞄は一緒にいた同僚アイオン・スチュアート(ドナルド・キャルソープ)のものだという可能性もあった。 そこにマーカムが現れ、楽屋に落ちていたタバコ入れにドーシーが見覚えがあり、それがスチュアートの物だということだった。 タバコ入れにはシミがついていて、それが血液であることを確認したサー・ジョンは、舞台で巡査の制服を着たのがフェインとスチュアートであることを知る。 最初の巡査が警察の者ではないことを確信したサー・ジョンは、ダイアナが誰をかばおうといているのではないかと考え彼女に会おうとする。 サー・ジョンの考えが正しければ、部屋にもう一人いたことになる。 面会を許可されたサー・ジョンは、ダイアナと再会して事件のことを話し始めるが、彼女は話題を変えてしまう。 自分と会った記憶があることを確認したサー・ジョンは、その際にその場に留めておけばこのようにならなかったと言って、責任を感じていることをダイアナに伝える。 サー・ジョンは、辛い気持ちを語るダイアナに、事件の日、エドナと誰の話をしていたかを聞く。 その男性は事件とは無関係なのだが、エドナが彼の悪口を言い始めたたため、ダイアナは耳を塞いでいたということだった。 そのため誰かが入ってきても聞こえなかったと言うダイアナは、エドナが何を話すか分かっていたため、それを聞きたくなかったと答える。 サー・ジョンに問い詰められ、相手を愛していたからではないかと言われたダイアナは、その人物が混血であることを口にしてしまう。 黒人との混血なのかを尋ねたサー・ジョンは、タバコ入れを見せて渡し、それがフェインの物であることをダイアナは確認する。 面会時間の終了を知らされ、何か別の話をしたいと言われたサー・ジョンは、部屋にあった自分の写真についてを尋ねる。 ダイアナは、サー・ジョンが子供時代からのファンであったため、会いに行ったことを伝える。 ミッチャム夫人からそれが届けられ、今でも大切にしていると言うダイアナは係官に促され、サー・ジョン別れを告げてその場を去る。 サー・ジョンはフェインを捜し、サーカスの空中ブランコ乗りをしていることを突き止める。 マーカムとサーカスを見に行き、女装で演技するフェインを確認したサー・ジョンは、この事件を題材にした舞台のオーディションを行い、彼に役をつけて演じさせることを考える。 フェインと屋敷で面会したサー・ジョンは、役にピッタリであることを伝え、舞台の内容がベアリング事件を題材にしていると知らせる。 動揺するフェインは、ゴードンの劇団にいたことを聞かれ、ダイアナとエドナと親しかったと答える。 サー・ジョンは台本を用意し、事件を再現するシーンで、フェインに侵入者の犯人を演じさせる。 台本が未完成だと知ったフェインは、サー・ジョンが、それを完成させる手伝いをさせようとしていたことを知る。 戯曲を書いた経験がないフェインは、完成したら連絡してほしいと言ってその場を去る。 今一歩だったサー・ジョンは悔しがり、フェインの出番を確認してサーカスに向かう。 出番を待つフェインは手紙を書き、そこに現れたサー・ジョンとマーカムは、落ち着くためだと言うフェインが、ブランデーを飲んでいることに気づく。 舞台の役の件かと聞かれたサー・ジョンは、それが何を意味しているかを知っているはずだと答える。 出番が終わった後で全てを話すと伝えたフェインは、女装して演技を始める。 そして、一通りの演技を終えたフェインは、ロープを手にして輪を作り、それを首にかけて飛び降りる。 場内は騒然となり混乱し、サー・ジョンとマーカムも驚く。 サー・ジョンはフェインからの手紙を受け取り、事件が解決したと言って全ての謎を解こうとする。 フェインが未完成の脚本に協力してくれたと言うサー・ジョンは、彼彼の手紙を読む。 ”一人の女性を火かき棒で撲殺した男が怖気づいてブランデーを飲み、気を失っていたもう一人の女性が目覚める前に窓から出て楽屋に戻り洗面台を壊した。” ”どうやって家に戻るかを考えた男は、巡査に扮することをお思いつく。” ”愛する女性に自分の秘密を知られたくなかった・・・” サー・ジョンは、これが真相だとマーカムに語り、ダイアナは彼の素性を知っていたのに哀れな話だと語る。 出所したダイアナを迎えに行ったサー・ジョンは、悲しむ彼女に、新作まで涙は取っておくようにと伝える。 そして、ダイアナはサー・ジョンと共に舞台に立つ。
...全てを見る(結末あり)
★ヒッチコック登場場面
上映約59分、サー・ジョン(ハーバート・マーシャル)と彼に協力する舞台監督のマーカム(エドワード・チャップマン)と妻ドーシー(フィリス・コンスタム)が、事件現場を調べて家から出た際、三人の前を通り過ぎる女性を連れた太った男性がアルフレッド・ヒッチコック。
画面を横切るので解り易い。
*(簡略ストー リー)
ロンドン。
ある夜、劇団員ダイアナの家で同僚のエドナが殺される。
死体の傍らで呆然としていたダイアナの手元には、血の付いた火かき棒が落ちていた。
状況証拠からダイアナは逮捕され、殺人容疑で起訴されて公判が開かれる。
ダイアナは無意識のうちに起きた事件だと主張し、陪審員が協議に入る。
陪審員の一人で高名な役者のサー・ジョン・メニアーは、ダイアナの犯行と思えず無罪を主張するものの、証拠を示せなかった。
ダイアナの有罪は確定して、彼女は死刑を宣告される。
かつて自分を訪ねて来たダイアナを、経験を積ませるために巡業に出したサー・ジョンは責任を感じる。
そして、サー・ジョンはダイアナの無実を証明するために、不可解な事件の真相を暴こうとするのだが・・・。
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アルフレッド・ヒッチコックのトーキー三作目の作品で、30歳前半にして既にキャリア十分の彼が脚色も担当し、妻アルマ・レヴィルが脚本を担当した。
翌年、ドイツ人俳優を起用したドイツ語バージョン「メリー」(1931)が公開された。
高名な役者が取る行動を不自然に思うかは別として、死刑を宣告された女優の無実を証明しようとする、真犯人探しのための調査が見所の作品。
にわか探偵のような主人公の執念とも言える行動を淡々と描く内容はやや単調で、そのためサスペンスとも言えない内容だ。
しかし、トーキーの初期作品であり、その時代を考えると、なかなか凝った仕上がりではある。
死が近づく女優の不安を伝える、絞首刑台の影が迫るシーンなどは、その後のヒッチコック作品を思わせる工夫が感じられる演出だ。
落ち着いた雰囲気と気品を感じさせる、撮影当時40歳手前のハーバート・マーシャルは、名探偵のような推理で、真犯人を突き止めようとする高名な役者を好演している。
主人公が言うように、容姿を含めた雰囲気が実に魅力的なヒロイン、ノラ・ベアリング、同僚女優で主人公の調査に協力するフィリス・コンスタム、その夫で舞台監督のエドワード・チャップマン、被害者の夫で劇団支配人のマイルズ・マンダー、役者である犯人エスメ・パーシイ、同僚のドナルド・キャルソープ、陪審員のヴァイオレット・フェアブラザー、下宿の大家マリー・ライト、巡査の妻ウナ・オコナーなどが共演している。