巨額の財産を相続したために人生が変わってしまった青年の戸惑いと周囲の人々との交流を描く、製作、監督フランク・キャプラ、主演ゲイリー・クーパー、ジーン・アーサー他共演によるヒューマン・コメディの秀作。 |
■ スタッフ キャスト ■
監督:フランク・キャプラ
製作:フランク・キャプラ
原作:クラレンス・バディングトン・ケランド
脚本:ロバート・リスキン
撮影:ジョゼフ・ウォーカー
編集:ジーン・ヘイリック
音楽:ハワード・ジャクソン
出演
ロングフェロー・ディーズ:ゲイリー・クーパー
ルイーズ”ベイブ”ベネット/メリー・ドーソン:ジーン・アーサー
マクウェイド・エイカ:ジョージ・バンクロフト
コーネリアス・コッブ:ライオネル・スタンダー
ジョン・シダー:ダグラス・ダンブリル
メイ判事:H・B・ワーナー
ウォルター:レイモンド・ウォルバーン
メーベル・ドーソン:ルース・ドネリー
失業農夫:ジョン・レイ
センプル夫人:メイヨ・メソト
センプル:ジェームソン・トーマス
モロー:ウォルター・キャトレット
ハラー:チャールズ・レイン
アメリカ 映画
配給 コロンビア・ピクチャーズ
1936年製作 115分
公開
北米:1936年4月12日
日本:1936年5月21日
製作費 $800,000
■ アカデミー賞 ■
第9回アカデミー賞
・受賞
監督賞
・ノミネート
作品
主演男優(ゲイリー・クーパー)
脚本・録音賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
大恐慌の時代。
大富豪マーティン・W・センプルが、イタリアで事故死し、彼の遺産を誰が相続するか世間の注目を浴びる。
そんな中、ヴァーモント州の田舎町マンドレイク・フォールズのロングフェロー・ディーズ(ゲイリー・クーパー)という人物の名前が上がる。
センプルの顧問弁護士ジョン・シダー(ダグラス・ダンブリル)は、元新聞記者でシダーの”広報担当”コーネリアス・コッブ(ライオネル・スタンダー)を伴い、マンドレイク・フォールズに向かう。
ディーズの家に向かったシダーらは、彼が友人と油脂工場を経営し、絵葉書の詩を書き静かに暮らす青年だということを知る。 両親を亡くし、母の兄である伯父センプルに会ったこともないというディーズに挨拶したシダーは、2000万ドルというセンプルの遺産がディーズに入ることを伝える。 しかしディーズは、自分には必要のない金だと驚きもせずにシダーの話を聞き、とりあえずニューヨークに行くことになる。 2000万ドルがどの位の金額かもよくわからないまま、信望厚いディーズは人々に見送られ、趣味のチューバを抱えて吹き鳴らしながら汽車に乗る。 ニューヨークに戻ったシダーは、相続に無頓着なディーズを、容易に操れると高をくくっていた。 実はシダーは、センプルの財産の50万ドルを横領していて、帳簿の内容が知れぬよう手を打とうとしていた。 その頃、新聞社の編集長マクウェイド・エイカ(ジョージ・バンクロフト)は、ディーズに関する特ダネを得ようと躍起になり、敏腕女性記者ルイーズ”ベイブ”ベネット(ジーン・アーサー)に期待を寄せる。 顧問弁護士の座を狙うシダーだったが、ディーズは安易な返事は避け、財産分与を要求するセンプルの内縁の妻の弁護士だというハラー(チャールズ・レイン)も、ディーズは毅然とした態度で追い払ってしまう。 その夜、ボディーガードをまいたディーズが、屋敷を出たのを確認したベイブは、不幸な女性に扮して彼に近づき、食事を共にすることに成功する。 ディーズとベイブは、作家や詩人などが集まるレストランで食事をするが、彼は詩人達に、田舎町の絵葉書詩人だとからかわれ、彼らを殴り倒してしまう。 翌日、ディーズを”シンデレラ男”と名付けた記事を書いたベイブは、マクウェイドにそれを絶賛される。 ベイブは、”メリー・ドーソン”という名の女性になりすまして、ディーズとの密着取材をするようマクウェイドに命ぜられる。 二日酔いで目覚めたディーズは、執事ウォルター(レイモンド・ウォルバーン)から、昨夜はとんでもない様子で帰宅したことを聞かされる。 そのことが、新聞記事になっていることをディーズに知らせたコッブは、マクウェイドに抗議しに行く。 記事を書いたのがベイブとも知らず、ディーズは彼女との約束の場所に向かうが、記事を知る街の人々からは、冷ややかな目で見られてしまう。 ベイブは、ディーズが記事のことで心を痛めていることに気づき、”グラント将軍の墓”で、アメリカの理想を語る純朴な彼を見て、次第に心惹かれていく。 ディーズを説得できずにいたシダーは、センプルの身内であるセンプル夫妻(ジェームソン・トーマス/メイヨ・メソト)を利用し、彼を陥れようとする。 名所巡りをするディーズも、上流階級の女性達とは違う素朴なベイブに好意を持ち始める。 ベイブは、ディーズについてまともな記事が書けなくなってしまったことを、妹としての名前とアパートの部屋を借りている友人のメーベル・ドーソン(ルース・ドネリー)に打ち明ける。 ディーズを騙すことが出来なくなったベイブは、街を出る決心をするが、パーティーをキャンセルしたディーズが、アパートに彼女を誘いに現れる。 ベイブを散歩に連れ出したディーズは、ニューヨークの生活が自分に合わないことから、故郷に帰ることに決めたことを彼女に告げる。 そしてディーズは、愛を告白した詩をベイブに渡し、翌日、返事を聞くことにして彼女と別れる。 編集長マクウェイドは、ディーズに求婚されて、取材から手を引くというベイブも彼に恋をしていることを知り、思い悩む彼女の気持ちを察する。 ベイブを屋敷の昼食に誘って浮かれるディーズだったが、コッブが”メリー・ドーソン”の正体を暴き彼に知らせる。 電話でベイブから直接それを聞いたディーズはショックを受け、即刻、故郷に帰る支度を始める。 そこに、失業農夫(ジョン・レイ)が屋敷に押し入り、金の使い道を知らずに、新聞ネタになるディーズを責めて言い寄る。 ディーズは、農夫をタカリだと言って追い出そうとするが、農夫は彼に銃を向ける。 しかし、その行為を悔いて農夫は泣き崩れ、それを見たディーズは彼に食事を与えて複雑な心境になる。 そしてディーズは、失業者を救うために、巨大農場計画に1800万ドルを投資して労働者を募集したため、彼の屋敷には人々が押し寄せる。 ディーズは自ら陣頭指揮を執り、休み無しで労働者の人選を始め、集まった人々は彼に感謝する。 コッブは、ディーズにベイブのことを知らせたことを後悔し、彼の正義感に賛同して協力する。 その頃、シダーはセンプル夫妻をそそのかし、ディーズが精神錯乱で、財産の管理能力がないとして訴えを起こす。 ディーズは拘束され、精神鑑定に送られて塞ぎ込み、沈黙してしまう。 コッブの説得にもディーズは口を閉ざし、彼を助けようとするベイブも何も出来ずにいた。 やがて、ディーズは予備審問にかけられるが、彼は弁護を拒否してしまう。 労働者達は後援者を失い、ディーズを救うために裁判所に殺到する。 メイ判事(H・B・ワーナー)の下、ディーズの審問が始まり、シダーはベイブの記事で明らかになっている、彼の奇行などを取り上げ彼を追い詰める。 さらに、ベイブを証言台に立たせるが、ディーズが正気だというだけの彼女は取り乱し、メイ判事に警告されてしまう。 ディーズは無言を続け、故郷から召還された老姉妹は、彼のことを変人だと証言してしまう。 その後も何人もの証人が、ディーズの行動を批判的に証言し、精神科医は、彼が典型的な躁鬱病だと診断する。 メイ判事は、尚も沈黙を守るディーズを、精神病院に入院させるのが適当だと判断する。 しかし、居た堪れなくなったベイブが発言を要求し、記事とは違う本来のディーズの誠実さを訴える。 すると、取材を指示した編集長マクウェイド、コッブそして労働者達が一斉にディーズ擁護のために立ち上がる。 そして、ついにディーズは沈黙を破り、メイ判事に発言の許可を求める。 ディーズは、誰でも他人から見るとおかしく思われるクセはあるもので、故郷の姉妹は、自分達以外は全て変人扱いすることを証明する。 そして、必要な人のために自分の財産を使うことの正当性を主張し、シダーら、必要としない者に財産を取られる筋合いのないことを説く。 さらに、シダーが自分を正気だと判断したから顧問弁護士契約を結ぼうとしたことを証言し、ディーズはメイ判事の許可を得て彼を殴り倒してしまう。 メイ判事は、変わったところもあるが、ディーズが正常であることを認め、彼の拘束を解く。 傍聴人席の労働者他は歓喜するが、ディーズを利用して心を傷めるベイブは一人涙する。 しかし、労働者にもみくちゃにされながらディーズが現われ、わだかまりのなくなった二人は抱き合い、愛を確かめ合う。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
大恐慌の時代、ヴァーモント州。
田舎町の青年ロングフェロー・ディーズは、面識もない伯父の莫大な財産2000万ドルを相続することになる。
ディーズは、伯父の大邸宅に移り住むことになり、ニューヨークに向かう。
早速、財産を狙う者達や、それを特ダネにしようとする女性記者ベイブが、名前を偽って彼に接近する。
純朴なディーズは、たちまちその者達の策略にはまり、異常者扱いされてしまう。
絶望したディーズだったが、彼を利用しようとしたものの、その人柄に好意を持ち始めていた記者ベイブや、支援された失業者らが窮地を救おうとする・・・。
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クラレンス・バディングトン・ケランドの短編を基に映画化された作品。
純朴な青年を手玉に取ろうとする、醜い者の姿を徹底的に描き、都会に独り連れてこられても田舎者丸出しのまま、正直に生きようとする主人公の人間性に触れ、次第に彼への支援の輪が広がっていく様を、ユーモアを交え、クライマックスに向けて盛り上げていくという、いかにもフランク・キャプラらしい演出手腕が見所だ。
第9回アカデミー賞では、「或る夜の出来事」(1934)に続きフランク・キャプラが2度目の監督賞を受賞した。
・ノミネート
作品
主演男優(ゲイリー・クーパー)
脚本、録音賞
大恐慌の時代、疲弊しきった人々に希望を与えるには十分な内容で、平民の心を捨てる気のない主人公の人物像は、実に好感が持てる。
長身だが、やや弱々しく見えるゲイリー・クーパーは、時に癇癪を起こしたりするところも愛嬌があり、初のアカデミー主演賞のノミネートとなる好演を見せる。
強引な花形記者から、善人を利用したのを悔い、良心の呵責を感じ続け主人公を愛するジーン・アーサーの、ゲイリー・クーパーを上回る熱演が光る。
*ジーン・アーサーがゲイリー・クーパーより一歳年上。
編集長ジョージ・バンクロフト、主人公の男気に惚れ協力者になるライオネル・スタンダー、財産を横領し尚且つ奪おうとする弁護士のダグラス・ダンブリル、フランク・キャプラ作品には欠かせない名優で、判事役のH・B・ワーナー、チャールズ・レインも財産を狙う弁護士役で出演している。