初老のボクシング・トレーナーとジムの雑用係の前に現れた闘いに懸ける女性との親交と運命を描く、製作、監督、主演、音楽クリント・イーストウッド、ヒラリー・スワンク、モーガン・フリーマン、アンソニー・マッキー他共演によるヒューマン・ドラマの秀作。 |
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■ スタッフ キャスト ■
監督:クリント・イーストウッド
製作総指揮
ロバート・ロレンツ
ゲイリー・ルチェッシ
製作
ポール・ハギス
トム・ローゼンバーグ
アルバート・S・ルディ
クリント・イーストウッド
原作:F・X・トゥール”Rope Burns: Stories From the Corne”
脚本:ポール・ハギス
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス
音楽:クリント・イーストウッド
出演
フランキー・ダン:クリント・イーストウッド
マギー・フィッツジェラルド:ヒラリー・スワンク
エディ”スクラップ・アイアン”デュプリス:モーガン・フリーマン
ショーレル・ベリー:アンソニー・マッキー
デンジャー・バーチ:ジェイ・バルシェル
ビッグ・ウィリー・リトル:マイク・コルター
ホーヴァク神父:ブライアン・オバーン
アーリーン・フィッツジェラルド:マーゴ・マーティンデイル
オマー:マイケル・ペーニャ
ビリーのマネージャー:ベニート・マルティネス
ミッキー・マック:ブルース・マックヴィッティ
サリー・メンドーサ:ネッド・アイゼンバーグ
トラックの少女:モーガン・イーストウッド
ビリー”ザ・ブルー・ベア”:ルシア・ライカー
マーデル・フィッツジェラルド:リキ・リンドホーム
J・D・フィッツジェラルド:マーカス・チェイト
アメリカ 映画
配給
ワーナー・ブラザーズ
レイクショア・エンターテインメント
2004年製作 132分
公開
北米:2004年12月15日
日本:2005年5月28日
製作費 $30,000,000
北米興行収入 $100,422,790
世界 $216,763,650
■ アカデミー賞 ■
第77回アカデミー賞
・受賞
作品・監督
主演女優(ヒラリー・スワンク)
助演男優(モーガン・フリーマン)
・ノミネート
主演男優(クリント・イーストウッド)
脚色・編集賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
ロサンゼルス。
止血係からトレーナーになった、初老の男フランキー・ダン(クリント・イーストウッド)の元に、前座試合に出たマギー・フィッツジェラルド(ヒラリー・スワンク)が弟子入りの許可を得るために現われる。
ダンは、女性ボクサーのトレーナーになる気などないため、マギーを相手にもせず追い払う。
ダンは、信心深くはあるが、教会のホーヴァク神父(ブライアン・オバーン)に、何かと難癖をつけ愛想を尽かされる。
17年前にジムを買ったダンは、赤字経営が続いていたが、ある日、雑用係のエディ”スクラップ・アイアン”デュプリス(モーガン・フリーマン)から、ジムでマギーがトレーニングをしていることを知らされる。
ミズーリ州、オザーク高原の貧しい育ちで、既に31歳のマギーだったが、生活費を切り詰めながら、ジムの会費の6ヶ月分を払い、毎日トレーニングに励んでいた。 ジムに住み込んでいるスクラップは、独りサンドバッグを叩き続けるマギーが気に入り、トレーニング方法を伝授するようになる。 左フックは強いが、蚤の心臓のショーレル・ベリー(アンソニー・マッキー)は、全く才能のないデンジャー・バーチ(ジェイ・バルシェル)とマギーをからかい、逆に彼女に恥をかかされてしまう。 マギーに自分のスピードバッグを使われ、指導していると思われるのを嫌ったダンは、年をとり過ぎている彼女に、率直にボクシングを諦めるよう言い渡す。 しかし、気落ちする彼女を見たダンは、マギーを気の毒に思い、彼女にスピードバッグを渡してトレーニングを続けさせる。 そんな時ダンは、ジムのトップ選手でタイトルまでを狙える、ビッグ・ウィリー・リトル(マイク・コルター)から、タイトル戦は他のトレーナーと組むことを告げられて愕然とする。 元ボクサーだったスクラップは、疾うにタイトルを狙えたウィリーに対し、慎重すぎる育て方をしたダンを非難する。 夢に向かって、直向きに努力を続けるマギーを気にかけながら、ダンは、ウィリーが世界チャンピオンになったことを知るのだった。 32歳の誕生日に、マギーは自分のスピードバッグを手に入れ、その日も夜のトレーニングを続けていた。 スクラップの元を訪れたダンはマギーに気付き、彼女から、貧しいトレーラー生活から抜け出すための、日々の努力とボクシングに懸ける情熱を聞かされる。 ダンは、マギーにトレーナーを付けることを約束するのだが、彼女は、ダンがトレーナーを引き受けてくれなければ意味のないことを告げる。 根負けしたダンは、トレーニングに妥協を許さないことをマギーに告げ、自分の指示に一切口出さずに従うことと、100万ドルを稼ぐ気で努力することを誓わせる。 ダンから基本を叩き込まれたマギーだったが、彼女は試合ばかりしたがり、仕方なくダンは、サリー・メンドーサ(ネッド・アイゼンバーグ)をマネージャーに付けて、手を引いてしまう。 マギーは試合を組まれ、捨て試合でサリーが得をするだけだと知ったダンはリングに向かい、彼女にアドバイスを始める。 サリーは当然不平を言うが、マギーは彼が気に入らずダンの指示に従い相手を倒す。 その後、マギーは直ぐに才能を発揮し、KO勝ちの連戦連勝を続ける。 4回戦では相手がなく、6回戦を戦うことになったマギーだったが、さらに戦う相手がいなくなり、ダンは自腹を切って試合を組むしかなかった。 ダンは、マギーの階級を上げることを考えて試合に挑む。 強打を受けたマギーは鼻血を出し、ダンは棄権しようとするが、彼女はそれを承知せず、無理に止血して闘いを続けて勝利する。 12試合連続KOの後、ウェルター級王者ビリー”ザ・ブルー・ベア”(ルシア・ライカー)と対戦する話が舞い込む。 しかし、ダンはその対戦を断り、ビリーに負けたイギリス・チャンピオンとの試合も断ってしまう。 ダンは、マギーが、顔面の防御に難がるために対戦を断ったことを告げる。 スクラップは、トレーニングを終えたマギーを連れ出して、自分とダンとの関りを語り、タイトルを狙いたいのなら、慎重過ぎるダンと組むべきでないことを彼女に告げる。 その場に呼ばれた、マネージャーのミッキー・マック(ブルース・マックヴィッティ)に引き会わされたマギーだったが、彼女は、今後もダンと組むことをマックに告げて、その場を立ち去る。 そしてダンは、マギーをイギリス・チャンピオンと、ロンドンで対戦させることを決める。 ミドル級タイトルマッチの前座試合だったが、マギーは若い相手を2ラウンドでKOする。 ダンが意味を教えない、”ゲール語”の”モ クシュラ”というリングネームで、ヨーロッパの各地を転戦したマギーは、アメリカに帰国する頃には、一流のプロ・ボクサーになっていた。 ファイトマネーを貯めて、母親アーリーン(マーゴ・マーティンデイル)と妹マーデル(リキ・リンドホーム)のために家を買ったマギーだったが、生活保護が受けられなくなると、意外にもそれが歓迎されず彼女の心は沈む。 結局はマギーは、ダンしか心の支えになる者がいないことに気付き、彼もマギーを気遣う。 ラスベガスでのビリーとのタイトルマッチが決まり、ダンはスクラップをセコンドに付けようとするが断られてしまう。 そんな時、素人のデンジャーを相手に、彼を打ちのめして喜ぶショーレルを、スクラップは叩きのめしてしまう。 そして、マギーとビリーの闘いは始まり、第一ラウンドでビリーの反則に遭い、マギーは早くも左まぶたを切ってしまう。 第三ラウンド、攻勢をかけたマギーだったが、TKO寸前でレフェリーがブレイクした隙に、ビリーが、マギーの顔面にパンチを食らわせる。 転倒したマギーは、コーナーのイスで首を強打し、意識を失ってしまう。 病院で意識を取り戻したマギーは、頚椎が折れ神経も切断されたために、全身マヒ状態になってしまう。 ダンは最悪の状態に、マギーを押し付けたスクラップを責める。 マギーを治せる病院を探し、ダンは国中の病院に連絡するが手立てはなく、ただ献身的な介護をするしかなかった。 リハビリ施設にマギーを移動させたダンは、毎日彼女に付き添い、”ゲール語”の詩を読んで聞かせたりする。 そんなある日、マギーのファイトマネーなどを手に入れようとする母アーリーン、弟J・D(マーカス・チェイト)そして妹のマーデルが、弁護士を伴い病院に現れる。 ダンがそれを阻止しようとするが、マギーは彼を部屋から出し、自分が与えた家のことを隠し、生活保護を受けている母親達のことを非難して追い払ってしまう。 左足に壊疽を起したマギーは、足を切断することになり、ダンは彼女と共に絶望の日々を送る。 貧困から這い上がり、世界を周り有名にもなったマギーは、人生に悔いのないことをダンに伝える。 そして、マギーは死を選び、その手助けをダンに頼む。 ダンはそれを拒むが、マギーは自ら舌を噛み切り命を絶とうとする。 マギーを見て苦しむダンは、それをホーヴァク神父に相談するが、神父は死に手を貸すことは大罪だと言い切る。 ダンが何かを隠していることを知ったスクラップは、事を成し遂げたマギーが、人の死に様としては満足できる人生だということをダンに伝える。 マギーの元に向かったダンは、彼女に人工呼吸器を止めることを告げる。 そして、”モ クシュラ”の意味が、”君は私の全てだ”ということをマギーに伝える。 それを知ったマギーは、笑みを浮かべて涙を流す。 ダンは、呼吸器を止め、致死量の”アドレナリン”を点滴液に注入する。 ダンは病院を去り、スクラップはそれを見届けていた。 ジムに戻ったスクラップはダンを待つが、彼は現れずに、その後、消息を絶つ。 スクラップは、絶縁状態のダンの娘に手紙を書き、父親の人間性などを伝える。 ダンは、マギーの故郷からの帰り道に立ち寄った、安らぎを感じたダイナーで思いに耽る。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
家族と絶縁状態のボクシング・ジムを経営する初老のトレーナー、フランキー・ダンの元に、生活苦を抜け出すため、必死に生きようとするボクサー志望の女性マギー・フィッツジェラルドが現れ、弟子入りを希望する。
女性であり、年をとり過ぎているということを理由に、それを断るダンだったが、マギーの情熱に負けて、彼女を育てようとする。
マギーは、たちまち才能を発揮して、瞬く間に世界王者に挑戦するまでになるのだが、試合中の不慮の事故で全身不随になってしまう。
そして、人生を悔いなく生きたと考えた彼女は、ダンの手を借りて究極の選択をする・・・。
__________
F・X・トゥールの短編集”Rope Burns: Stories Fromthe Corne”を基に製作された作品。
トゥールは映画公開の2年前に亡くなっている。
70歳を過ぎ衰えを知らないクリント・イーストウッドが、製作、監督、主演さらに音楽まで担当している。
叩き上げのボクシング・トレーナーとジムの雑用係、初老の二人のしがない人生を描くドラマではあるが、年輪を感じさせる人物像を、細やかな映像表現で淡々と描き切る、イーストウッドらしい作風の作品に仕上がっている。
さらに、貧困から抜け出すためにボクシングに打ち込む、頑固なまでに直向きな女性の生き様を力強く描いた、重厚な人間ドラマでもある。
女性の希望ではあったものの、その結果、死の手助けをしなければならない主人公の苦悩に辛さを感じる反面、その死を無念とは思わない女性の姿に、頂点を極めようとする者の強靭な精神力も感じる。
この後、非常に評価の高い話題作を続けざまに手がけることになる、ポール・ハギス(製作、脚本)の出世作でもある。
第77回アカデミー賞では、作品、監督、主演女優賞(ヒラリー・スワンク)、助演男優賞(モーガン・フリーマン)を受賞した。
・ノミネート
主演男優(クリント・イーストウッド)
脚色、編集賞
イーストウッドにとっては「許されざる者」(1992)以来となる作品、監督のダブル受賞となり、70歳半ばということを考えると、その後の活躍を含め”超人”とも言えるバイタリティーだ。
評価は高いが商業的には成功しないイーストウッド作品の中で、北米で約1億ドル、全世界では約2億1700万ドルのヒットとなり、彼の作品としては最高の興行収入作品となった。
*その後「グラン・トリノ」(2008)が約2億7000万ドルの興収を記録する。(世界)
ボクシングしか考えられない不器用な男が、究極の選択を迫られる苦悩の姿を熱演したイーストウッドに対し、自分の世界の中で生きつつ主人公に深入りし過ぎることもなく控えめな友情を示す、雑用係モーガン・フリーマンの抑えた演技は、いつもながらに素晴らしい。
彼女自身、一時期トレーラーハウス生活を経験したともいうヒラリー・スワンクは、スポーツ万能だったということもあり、一流のアスリートとしてのヒロインを見事に演じている。
彼女は「ボーイズ・ドント・クライ」(1999)に続き、30歳にして早くも2度目のアカデミー主演賞を獲得した。
ジムの若手ボクサー、アンソニー・マッキー、ジェイ・バルシェル、マイケル・ペーニャ、そしてチャンピオンになるマイク・コルター、神父のブライアン・オバーン、マギー(H・スワンク)の母親マーゴ・マーティンデイル、妹のリキ・リンドホーム、弟マーカス・チェイト、実際の元ボクサーであるチャンピオン役ルシア・ライカー、イーストウッドの娘モーガン・イーストウッドも端役で登場する。