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蜘蛛女のキス Kiss of the Spider Woman (1985)

1976年に発表された、アルゼンチンの作家マヌエル・プイグのベストセラー同名小説を基に製作された作品。
同じ監房に入れられた同性愛者の男性と政治犯の関係を描く、監督エクトール・バベンコ、アカデミー主演賞受賞のウィリアム・ハートラウル・ジュリアソニア・ブラガ共演のドラマ。

アカデミー賞 ■ ストーリー ■ 解説


ドラマ

ウィリアム・ハート / William Hurt / Pinterest


スタッフ キャスト ■
監督エクトール・バベンコ

製作総指揮:フランシスコ・ラマリオJr.
製作:デヴィッド・ワイズマン
原作:マヌエル・プイグ
脚本:レナード・シュレイダー
撮影:ロドルフォ・サンチェス
編集:マウロ・アリス
音楽:ジョン・ネシュリング

出演
ウィリアム・ハート:ルイス・モリーナ
ラウル・ジュリア:ヴァレンティン・アレギ
ソニア・ブラガ:レニ・ラメゾン/マルタ/ 蜘蛛女
ホセ・レーゴイ:刑務所長
ミルトン・ゴンカルヴェス:警察官
ハーソン・カプリ:ワーナー
ヌノ・リアル・マイア:ガブリエル
デニス・デュモン:ミシェル
フェルナンド・トーレス:アメリコ博士

ブラジル/アメリカ 映画
配給 Island Alive
1985年製作 120分
公開
北米:1985年7月26日
日本:1986年7月19日
北米興行収入 $17,005,229


アカデミー賞 ■
第58回アカデミー賞

・受賞
主演男優賞(ウィリアム・ハート
ノミネート
・作品・監督・脚色賞


*詳細な内容、結末が記載されています。
ストーリー ■
ブラジル、あるの刑務所。
同じ監房の二人の男、同性愛者のルイス・モリーナ(ウィリアム・ハート)は少年に手を出して、ヴァレンティン・アレギ(ラウル・ジュリア)は、政治犯として収監されていた。

モリーナは、四六時中、以前に観た映画の話をし続け、アレギは、次々と投獄されて来る同志の様子を窺っていた。

アレギは、モリーナの映画の話に飽き飽きしていたのだが、同志のために何もできない状況で、仕方なく彼の話を聞いていた。

モリーナの話とは、
第二次世界大戦中、ナチ占領下のパリ
歌手レニ・ラメゾン(ソニア・ブラガ)と、ナチス・ドイツ親衛隊情報部将校ワーナー(ハーソン・カプリ)の恋物語だった。

...全てを見る(結末あり)

レニが出演するクラブにワーナーが客として現れ、二人は一目で惹かれ合う。

ある日、レニは同僚で親友のミシェル(デニス・デュモン)が、ドイツ兵との子を妊娠したことを知らされる。

その後、レニはワーナーに誘われ、実はレジスタンスのミシェルは、恋人の元に向かい同志に抹殺されてしまう。
__________

その話を聞いて、アレギは恋人のことを想い、モリーナは、彼に手紙を出すよう提案する。

アレギは、それでは警察の思う壺で、死んでも同志のことは言わないとモリーナに断言する。

その後、母親のことを思い出して悲しくなったモリーナは、関係を持ちたかった、既婚者でレストランのウエイターのガブリエル(ヌノ・リアル・マイア)の話を始める。

結局ガブリエルとは、友達以上には発展しなかったことを語ったモリーナは、突然、腹痛に見舞われる。

アレギは、痛みを忘れるよう、モリーナに映画の話をさせる。
__________

ミシェルが死んだために、レジスタンスはワーナーと親しいレニに、敵の兵器庫の地図を手に入れさせようとするが、彼女はそれを拒みその場を逃れる。
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モリーナは痛みに耐えられなくなり、アレギが看守を呼び彼は治療室に運ばれる。

監房に戻ったモリーナは、再び映画の話を始めるものの、同志が拷問に遭う姿を見たアレギは、それを見て憤慨してわめき始める。

アレギに八つ当たりされたモリーナは、危機感の無さを責められて涙し、その後、気分を害してしまう。

その後、今度はアレギが腹痛を訴えもがきだすが、彼は看守を呼ぶことを拒み、仕方なくモリーナは映画の話を始める。
__________

レジスタンスから逃れたレニは、ワーナーの屋敷に向かい、月明かりのホールで穏やかな気持ちの中、ダンスを踊る。

ワーナーと一夜を共にしたレニは、彼が同胞の処刑命令を下すのを聞いてしまい、ショックを受ける。
__________

腹痛に耐えられないアレギはモリーナに介抱され、何とか持ち応える。

そして、落ち着きを取り戻したアレギは、恋人マルタ(ソニア・ブラガ)についてをモリーナに話し始める。

政治家の息がかかる、資本家の娘マルタと恋仲だったアレギは、反体制活動を続けるために彼女の元を去った。

記者のアレギは、不法逮捕や拷問の情報を海外に流し、同志の逃亡を助けていた。

マルタと別れたアレギは、アメリコ博士(フェルナンド・トーレス)の逃亡に加担して、その直後に警察に逮捕されてしまう。
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刑務所内で死を迎えるだろうということを口にしたアレギは、初めてモリーナを心の支えとして求める。

刑務所長(ホセ・レーゴイ)と警察官(ミルトン・ゴンカルヴェス)に会ったモリーナだったが、実は所長の命令で、アレギから情報を得るために同じ監房に入れられていた。

減刑を条件にそれを受けていたモリーナは、アレギに食べさせるはずの下剤入りの食事を口にしてしまい、腹痛になってしまったのだった。

満足な情報を得られない警察官は苛立ち、モリーナに引き続き、アレギの監視を続けさせる。

母からの差し入れということで、所長から大量の食料などを渡されたモリーナは、それをアレギにも分け与え、食後に映画の続きの話を始める。
__________

同胞を殺すことに不満を訴えたレニを、ワーナーは保管庫に連れて行き、あるフィルムを見せる。

抑圧される人々を救う唯一の手段として、止むを得ず使命を果たしていたワーナーを理解したレニは、彼に謝罪してレジスタンスに近づくことを了承する。

その後、レジスタンスのリーダーに、兵器庫の地図を渡したレニだったが、彼に体を求められてしまう。

レニは、テーブルにあったナイフで、リーダーを刺し殺して逃亡するが、仲間に襲われかける。

そこにワーナーが現れ、レジスタンスを銃撃するものの、まだ息のあった男は、レニを射殺してしまう。
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向かいの監房の、拷問されている男の顔を見たアレギは、それが、かつて逃亡を助けたアメリコ博士だと口に出してしまう。

翌日、博士が死亡したことを知ったアレギは、モリーナに怒りをぶつけてしまう。

冷静さを取り戻したアレギはモリーナに謝罪し、彼の優しさに感謝して心を開き始める。

所長にアレギの話を報告したモリーナは、自分が出所するとなれば、彼が必要な情報を話すかもしれないと提案する。

出所することをアレギに話したモリーナだったが、彼の秘密を探るための行動と生活で、いつしか愛情が芽生えてしまっていた。

今後、何をしていいのか不安を感じるモリーナは、不思議な女/蜘蛛女(ソニア・ブラガ)と、漂流した男(ラウル・ジュリア)が登場する映画の話を始める。

アレギも、それを恥じるモリーナに愛情を感じ始め、そして二人は愛し合う。

翌日、モリーナは所長に呼ばれ、何も情報を得られないまま、彼は仮釈放を認められる。

アレギはモリーナとの別れ際に、同志の電話番号を彼に教えようとする。

モリーナは、警察に追われることを嫌いそれを拒むものだが、アレギの気持ちを察して番号を聞き、キスをして別れを告げる。

その後、出所したモリーナは母親の元に戻り、ゲイ・バーで歓迎を受けたものの、警察を警戒して家に閉じこもる。

数日後、アレギから伝えられた場所に電話をしたモリーナは、彼への罪滅ぼしのために、指摘された場所に向かう決心をする。

モリーナは銀行の預金を下ろし、眠る母に別れを告げて現場に向かおうとする。

尾行を気にしながら、アレギの同志と接触したモリーナだったが、そこに警察が現れて双方が撃ち合いとなる。

その場を逃れたモリーナだったが、接触した活動家の銃弾を受けて警察官に連行される。

電話番号を吐くよう強要されたモリーナは、何も語らずに息を引き取り、スラム街に捨てられる。

一方、拷問を受けたアレギは、モルヒネを打たれて眠りにつく。

そして、アレギは夢の中で、マルタと共に刑務所を脱出し、浜辺に向かい戯れ、ボートで沖に向かう。


解説 評価 感想 ■

*(簡略ストー リー)
同じ監房に入れられた、同性愛者の男性ルイス・モリーナと政治犯ヴァレンティン・アレギは、相容れない関係で日々を過ごしていた。
モリーナは、アレギの自分への態度を気にもせず、かつて観た恋愛映画の話をし続ける。
それを鬱陶しく思いながらも、活動の自由を奪われ拷問を受けるアレギは、モリーナの話を聞くことしか、癒されることがないのも事実だった。
しかし、アレギに優しく接するモリーナは、実は口を割らない彼から情報を聞き出すために、仮釈放を条件に送り込まれたスパイだった・・・。
__________

原作者マヌエル・プイグの手で戯曲化され、舞台劇ミュージカルにもなった。

薄汚い刑務所内と、芸術作品のような映画や夢の世界の映像の対比が、独特の雰囲気を醸しだし、ほとんど全編を、密室の二人の会話で進行させた、アルゼンチン人監督エクトール・バベンコの演出は光る。

ジョン・ネシュリングの、美しく優雅な主題曲も素晴らしい。

上記のように、刑務所内のストーリーにも拘らず、映画の再現シーンなどはファンタジックな描写に徹していて、オープニング・タイトルロールなども実に洒落ている。

サン・パウロのロケも、ハリウッド作品にはない、新鮮な映像となっている。

第58回アカデミー賞では、ウィリアム・ハートが、主演男優賞を受賞した。
ノミネート
・作品、監督、脚色賞

若くて上品な顔立ちであるウィリアム・ハートは、同性愛者を演じても全く違和感がなく、老いた母親への想いや釈放のため、相手を利用しなくてはならない、苦悩する服役囚を見事に演じている。

彼は本作でアカデミー主演賞を獲得し、翌年の「愛は静けさの中に」(1986)、「ブロードキャスト・ニュース」(1987)、「ドクター」(1922)など、演技派として、着実にキャリアを積んでいくことになる。

共演のラウル・ジュリアも、地下活動に闘志を燃やす男を熱演している。
個人的には、彼もオスカーにノミネートされてよかったのではないかと思うが・・・。
ゴールデングローブ賞にはノミネートされた。

映画の追想場面や夢にのみ登場する、三役をこなすソニア・ブラガは、幻想的で芸術的でもある登場場面と、彼女自身の美しさが印象に残る。

刑務所長ホセ・レーゴイ、同じく主人公を政治犯の情報収集に利用する警察官ミルトン・ゴンカルヴェス、映画の場面のナチス親衛隊情報部将校ハーソン・カプリ、主人公の友人ヌノ・リアル・マイア、レニ(S・ブラガ)の親友デニス・デュモン、政治犯の博士フェルナンド・トーレスなどが共演している。


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