絶望的なクリスマス・イヴを迎えた男性が希望を取り戻すまでを描く、製作、監督、脚本フランク・キャプラ、主演ジェームズ・ステュアート、ドナ・リード、ライオネル・バリモア、ヘンリー・トラヴァース、トーマス・ミッチェル共演によるファンタジー・タッチのヒューマン・ドラマである、映画史上に残る傑作。 |
・ジェームズ・スチュアート / James Stewart / Pinterest
■ スタッフ キャスト ■
監督:フランク・キャプラ
製作:フランク・キャプラ
原作:フィリップ・ヴァン・ドーレン・スターン”The Greatest Gift”
脚本
フランク・キャプラ
フランシス・グディック
アルバート・ハーケット
ジョー・スウェリング
撮影
ジョセフ・ウォーカー
ジョセフ・バイロック
編集:ウィリアム・ホーンベック
音楽:ディミトリ・ティオムキン
出演
ジョージ・ベイリー:ジェームズ・ステュアート
メアリー・ハッチ・ベイリー:ドナ・リード
ヘンリー・F・ポッター:ライオネル・バリモア
クラレンス(天使):ヘンリー・トラヴァース
ビリー・ベイリー:トーマス・ミッチェル
アーニー・ビショップ:フランク・フェイレン
バート:ウォード・ボンド
ヴァイオレット:グロリア・グレアム
ピーター・ベイリー:サミュエル・S・ヒンズ
ベイリー夫人:ビューラ・ボンディ
ハリー・ベイリー:トッド・カーンズ
ガウワー:H・B・ワーナー
マルティーニ:ウィリアム・エドマンズ
不動産業者:チャールズ・レイン
アメリカ 映画
配給 RKO
1946年製作 130分
公開
北米:1946年12月20日
日本:1954年2月17日
製作費 $3,180,000
■ アカデミー賞 ■
第19回アカデミー賞
・ノミネート
作品・監督
主演男優(ジェームズ・ステュアート)
編集賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1945年、クリスマス・イヴの夜。
地上での”ジョージ・ベイリー”に助けを請う声を聞き、天空の神達は2等天使の”クラレンス”を派遣しようとする。
神はクラレンスにジョージのたどった人生を見せる。
__________
1919年。
12歳のジョージは、氷が割れて池に落ちた弟の命を救い、風邪をひいたのがきっかけで左耳が不自由になる。
しかしジョージは、学校が終わった放課後の毎日、薬剤師ガウワー(H・B・ワーナー)のドラッグストアで、元気にアルバイトをしていた。
ある日ガウワーが、息子を亡くしてショックを受けて酒を飲みながら調合した薬を届けるようジョージは言われる。 ジョージは薬に毒が混ざっていることに気づき、ガウワーにそれを問い質すが、彼は、ジョージに早くそれを届けることを指示する。 不審に思ったジョージは、金融組合を営む父親ピーター(サミュエル・S・ヒンズ)に意見を聞きに行くが、強欲な資産家ヘンリー・F・ポッター(ライオネル・バリモア)と面会中の父に相手にされなかった。 不安にかられ、薬を届けなかったジョージを、ガウワーはひどく殴り、ジョージの左耳から出血する。 ジョージは泣きながらその事情をガウワーに話し、それを理解した彼はジョージに謝罪する。 そして、ジョージもガウワーの悲しみを慰めようとする。 1928年。 世話になったガウワーから、大きな鞄を贈られたジョージは、小さな町に留まりたくないことを父ピーターに告げる。 高校の卒業パーティーに、弟ハリー(トッド・カーンズ)と向かったジョージは、幼馴染のメアリー・ハッチ(ドナ・リード)に再会する。 ジョージとメアリーは楽しくダンスを踊るが、学生のいたずらでプールに落ち、ずぶ濡れになってしまう。 二人は意気投合して愛を語る寸前までなるが、そこに叔父のビリー(トーマス・ミッチェル)が現れる。 ビリーは、父ピーターが倒れたことをジョージに知らせ、メアリーを置き去りにしたまま自宅に急行する。 ピーターは亡くなり、後処理をしたジョージは、予定を変更して旅を諦め、大学に進学することになる。 その後、ポッターはピーターの金融組合を潰そうとするが、ジョージが後を継ぐことを条件に、理事として、存続を許可することにする。 それを断ろうとしたジョージだが、組合を解散するわけにはいかず、仕方なく町に留まり、代わりに弟ハリーを大学に行かせることにする。 フットボールの花形選手にまでなったハリーの卒業を、4年間待ち続けたジョージだったが、ハリーは、結婚した妻の父親の会社を継ぐかもしれないというのだ。 そんなジョージは、メアリーも、大学を卒業して町に戻ったことを知る。 街角で、昔からジョージに気のあるヴァイオレット(グロリア・グレアム)が、彼に近づいてくる。 しかし、ジョージはそれを軽くあしらい、メアリーの自宅に向かう。 組合やハリーのことを考え不機嫌なジョージは、メアリーに再会しても気が晴れずにいた。 しかし、自分への思いを必死に伝えようとする、メアリーの気持ちを受け留めたジョージは、彼女を抱きしめる。 やがて二人は、人々に祝福されながら結婚し、新婚旅行に旅立つ。 しかし、町の銀行が閉鎖の危機となり、組合への返済を迫り、ビリーが手持ちの現金を全て渡してしまう事態が起きる。 そこに、弱みに付け込んだポッターが融資を申し出て、銀行と組合を乗っ取ろうとする。 預金を下ろそうとする人々が組合に押しかけ、1週間後の銀行再開をジョージは約束する。 しかし、ポッターが株を半額で買い取るという噂を聞いた人々は、それに飛びつこうとする。 ジョージは人々を説得して、メアリーが、結婚の祝い金2000ドルを当座凌ぎに彼に渡す。 その金を人々に配りだしたジョージは、2ドルを残してその日の危機を何とか乗り切る。 ハネムーンにも行けなかったジョージに、メアリーからの連絡で、タクシー・ドライバーのアーニー・ビショップ(フランク・フェイレン)と警官のバート(ウォード・ボンド)に招かれ、ジョージは空き家のボロ屋敷に入っていく。 かつて卒業パーティーの夜、その屋敷を手に入れたいと言っていたメアリーが、ジョージのために、ご馳走や音楽で彼を迎える。 その後ジョージは、貧しい人々のために用意した宅地開発を始め、”ベイリー・パーク”という名前を付ける。 そのため、ポッターの私有地”ポッターズ・フィールド”は寂れる一方となり、不動産業者(チャールズ・レイン)は、それをポッターに報告する。 ジョージを呼び出したポッターは、素直に、自分の負けと彼の才能を認め、年棒2万ドルで雇おうとする。 一瞬それを検討しようと考えたジョージだったが、自分を利用しようとしているポッターの魂胆を見抜いて、提案を断る。 強がりを言ったジョージは、貧しい生活をさせるメアリーのことを思うと心が痛むが、彼女から子供が生まれることを知らされ大いに喜ぶ。 その後もジョージは、町を出ることなく、人のために尽くす日々を送り、4人の子供に恵まれる。 その間メアリーはボロ屋敷を改装し、やがて第二次大戦が始ると、彼女は慰問活動を続け、ジョージの母(ビューラ・ボンディ)は、赤十字で働いた。 弟ハリーやバート、アニーは戦地で活躍して、ジョージは耳の障害で徴兵を免れ、町に残り戦った。 戦争は終わり、トルーマン大統領から名誉勲章を授与されたハリーが、英雄として町に凱旋することになる。 1945年のクリスマス・イヴ。 現金が無いことに気づいたビリーは焦り、それを知ったポッターは、金を返さずに悪巧みを考える。 ビリーはジョージにそれを知らせ、銀行の監査官に見せる帳簿に8000ドルの不足が生じてしまい、二人は必死に現金を捜し始める。 いくら捜しても現金は見つからず、帰宅したジョージは、イヴの準備を進める家族に辛く当たってしまう。 困り果てたジョージは、仕方なくポッターに助けを求めるのだが、彼は復讐のチャンスと見て、ジョージの要求を拒む。 更にポッターは、ジョージが、旅立つヴァイオレットに金を貸したことを知っていたため、彼を横領罪で訴えるとまで言い出す。 酒場で神に祈ったジョージは、子供のことで悪態をついてしまった教師の夫に殴られてしまい、酔って車を運転して、ある家の木に激突し、家主に怒鳴られる。 1万5000ドルの保険金を得るために、死を覚悟したジョージは、絶望の果てに橋から身投げしようとする。 そこに現れたクラレンス/天使(ヘンリー・トラヴァース)が川に飛び込み、自分をジョージに救わせて、彼が身投げするのを防ぐ。 クラレンスは何食わぬ顔をして、自分が天国から派遣された天使で、ジョージを自殺から救ったことを伝える。 それを疑うジョージに、クラレンスは、自分が彼のことは全て承知している、守護天使だということを話して聞かせる。 ばかげた話だと聞き捨てるジョージは、自分など生まれてこなければよかったと嘆く。 それを聞いた、ジョージの善行を知るクラレンスは、彼の存在しない世界を見せてあげる。 ジョージは、突然、耳も聞こえはじめて殴られた傷も消え、吹雪の収まった町にクラレンスと向かう。 しかし、つい先ほど車で衝突した木は無傷で、そこがなんと、”ポッターズ・フィールド”だということを知らされる。 さらにジョージはマルティーニ(ウィリアム・エドマンズ)のものだった酒場を追い出されそうになり、世話になった薬剤師のガウワーが、子供の薬に毒を調合して、20年の刑になっていたことを知る。 ジョージは、世の中がなぜ違っているかをクラレンスに尋ね、彼は、ジョージが存在していないからだと答える。 そんなクラレンスを、頭が変だと罵りながら、ジョージは自宅に帰ろうとする。 町の風紀は乱れ人々の心はすさんでしまい、アーニーも自分や自宅の場所がわからず、警官のバートも、彼の知らせで、不審な言動のジョージを見張る。 自宅に着いたジョージは、そこが20年も空き家の廃墟と化した屋敷だと気づく。 困惑して興奮するジョージを、バートが連行しようとするが、クラレンスがそれを制止してジョージを逃がす。 実家に向かったジョージは、母親からも追い払われてしまい、”ベイリー・パーク”は墓場となり、弟のハリーは9歳の時に、池で溺れ死んだことを知る。 妻メアリーも、独身のまま全く違う寂しい生活を送り、彼女は、助けを請うジョージを異常者扱いする。 駆けつけたバートを殴り倒したジョージは、クラレンスを捜そうと橋に戻り、元の世界に戻してくれと懇願する。 泣き崩れるジョージの元にバートが現れるが、その彼は以前のバートで、ジョージを捜しに来たのだった。 元の世界に戻ったことに気づいたジョージは、バートに抱きつき、町の人々に”メリー・クリスマス!!”と叫びながら急いで帰宅する。 帰宅したジョージは、彼を告発しに来た監査官と警官を尻目に、子供達を抱きしめる。 ジョージにとっては、もう8000ドルはどうでもいいことだった。 そこに、メアリーが外出先から帰り、ジョージに最高のプレゼントを渡そうとする。 メアリーが、叔父ビリーに事情を聞き人々に話すと、町中の人々はジョージの窮地を知り、彼に世話になった者達は恩返しにカンパし合い、ジョージを救おうとする。 マルティーニはジュークボックスの金を寄付し、旅立つのを止めたヴァイオレットも、ジョージに返金する。 あっという間に8000ドル以上の現金が集まり、監査官までもが寄付し、警官は令状を破り捨てる。 そして、弟ハリーも現れ、全員でジョージのために乾杯をする。 自分の人生が無駄ではなかった事に気づいたジョージは、生きていく希望を取り戻す。 ジョージは、集まった金の中に、クラレンスの持っていた”トム・ソーヤの冒険”の初版本を見つける。 そこには、 そして、天使が翼を授かったことを知らせる、ツリーのベルが鳴る。 そしてジョージは、2等から1等天子になり、神から翼を授かったクラレンスにウィンクして感謝する。
...全てを見る(結末あり)
成長したジョージ(ジェームズ・ステュアート)は、冒険を夢見みていた少年時代からの念願を果たすために、大学入学前にヨーロッパへの船旅に出る決心をする。
ジョージはそれを喜びハリーの帰りを待つが、ポッターに甥を自慢したビリーが、銀行に預けるはずの8000ドルを、ハリーの記事の載った新聞に包み、誤ってポッターに渡してしまう。
”友のある者には、失敗する者はいないことを覚えておくように、翼を有難う”という、クラレンスの言葉が記されていた。
*(簡略ストー リー)
その場その場の成り行きで、自分を犠牲にして、人々のことを優先させることを心がけ生きてきた、ジョージ・ベイリーは成長する。
そんな時、金融組合を営むジョージの父ピーターが倒れ、強欲な資産家ポッターが組合を潰そうとする。
ジョージは、大学進学を諦めてまで、組合の後を継ぐことになり、思い描く自分の人生を歩めない彼は苦悩する。
幼馴染のメアリーが、大学を卒業して町に戻るものの、ジョージは彼女と再会しても、手放しで喜べる心境でなかった。
それでも、メアリーの思いを受け入れたジョージは、彼女との結婚を決意し、希望を胸に新婚旅行に旅立つ。
そんなジョージに、再び問題がのしかかり、町の銀行が閉鎖の危機にとなり、弱みに付け込んだ
ポッターが、銀行と組合を乗っ取ろうとする。
結婚の祝い金まで使い当座を凌ぎ、旅行もなくなったジョージは、その後も町を出ることなく、ボロ屋を改装して暮らし、メアリーとの間に子供も生まれる。
しかしジョージは、叔父ビリーのミスで、ついに破滅寸前の状況に追い込まれ、絶望の果てに身投げしようとする。
そこに、天空の神が派遣した2等天使のクラレンスが現れ、ジョージを救う。
そしてクラレンスは、自分がこの世に生まれて来なければよかったと嘆くジョージに、彼の存在しなかった世界を見せようとする・・・。
__________
1943年に発表された、フィリップ・ヴァン・ドーレン・スターンの短編小説”The Greatest Gift”を基に製作された作品。
1990年、アメリカ議会図書館が、国立フィルム登録簿に登録した作品でもある。
第19回アカデミー賞では、対抗馬の「我等の生涯の最良の年」(1946)などに完敗してしまったが、作品、監督、主演男優(ジェームズ・ステュアート)、編集賞にノミネートされた。
成功や名誉を受ける身近な人々を目の当りにしながら、自分の思い描く夢や人生設計がことごとく叶わない主人公のやるせなさ、それにつけこみ貧しい者を食物にしようとする強欲な人間など、波乱の展開の中で、主人公までもが時に苛立ち暴言を吐く特異な雰囲気で進むストーリーが、一気に霞が晴れるような、清々しいクライマックスを迎える盛り上がりが感動を呼ぶ、ストレートに楽しめる、フランク・キャプラらしい作品。
その後の彼の曲とは一風変わっている、ディミトリ・ティオムキンの、この頃の音楽も注目だ。
クリスマスが舞台の映画は多くあり、本作のように、戦中、終戦直後に名作が多いような気がする。
クリスマスが主ストーリーではないが、「我が道を往く」(1944)は、淀川長治氏もクリスマスを想い起こさせる作品に上げている。
主演のビング・クロスビーの、飄々とした進歩的な神父役は、ドラマにマッチして大ヒットした。
アカデミー賞では作品、主演、助演、監督賞他を受賞して大絶賛された。
しかし、最もクリスマスに相応しい映画といえば本作かもしれない。
正に”It’s A Wonderful Life !”という雰囲気で映画は終わる。
終戦翌年に製作された本作は、ご覧になって感動された方も多いと思う。
しかし、実は、前記の「我が道を往く」(1944)に比べると、興行的には大失敗に終わった。
よく考えると、戦勝の喜びと傷跡を同時に味わっていたアメリカ社会は、いかにも押し付けがましい理想主義的映画を受け入れられなかったのかもしれない。
*強欲な実業家まで改心させるのかと思いきや、結局は最後までただ一人主人公を憎み続けて終わっているところなどは、無理矢理に物語を美化しない工夫も見られる。
しかし、むしろ今観てみると、古さも感じさせない、素直に感動できる、クリスマスにはお勧めの映画であることは間違いない。
スティーヴン・スピルバーグが、新作の撮影に入る前に必ず確認する作品の中の1本であることは有名だ。
*その他の3作。
・デヴィッド・リーン
「アラビアのロレンス」(1962)
・黒澤明
「七人の侍」(1954)
・ジョン・フォード
「捜索者」(1956)
主演のジェームズ・ステュアートは、完全無欠の善人に描かれていないところが、彼のキャラクターそのものという感じで、人間味溢れる主人公を見事に演じている。
幼き頃から主人公を想い、妻となり献身的にそれを支えていくドナ・リードの、質素な美しさも実に魅力的だ。
最後まで主人公を痛めつけようとする強欲な実業家ライオネル・バリモア、終盤にしか登場しないが、温厚な人柄が滲み出ている、主人公の守護天使ヘンリー・トラヴァース、気忙しいが人の良い主人公の叔父のトーマス・ミッチェル、友人のタクシー・ドライバー、フランク・フェイレン、警官のウォード・ボンド、主人公に好意を寄せる女性グロリア・グレアム、主人公の父サミュエル・S・ヒンズ、「スミス都へ行く」(1939)でもJ・ステュアートの母親を演じたビューラ・ボンディ、弟トッド・カーンズ、薬剤師のH・B・ワーナー、酒場の主人役ウィリアム・エドマンズ、そしてチャールズ・レインが不動産業者でわずかに登場する。