1860-1861年にかけてチャールズ・ディケンズ自らが編集に携わった”All the Year Round”に掲載された同名長編小説を基に製作された作品。 貧しい少年時代を過ごした彼自身の経験を基に綴った自伝的な作品。 監督デヴィッド・リーン、主演ジョン・ミルズ、ヴァレリー・ホブソン、ジーン・シモンズ、アレック・ギネス他共演のドラマ。 |
・ドラマ
■ スタッフ キャスト ■
監督:デヴィッド・リーン
製作:ロナルド・ニーム
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本
ケイ・ウォルシュ
アンソニー・ハヴロック=アラン
デヴィッド・リーン
セシル・マッギヴァーン
ロナルド・ニーム
撮影:ガイ・グリーン
美術・装置
ジョン・ブライアン
ウィルフレッド・シングルトン
音楽:ウォルター・ゲール
出演
フィリップ”ピップ”ピリップ:ジョン・ミルズ
エステラ:ヴァレリー・ホブソン
エステラ(少女期):ジーン・シモンズ
フィリップ”リップ”ピリップ(少年期):アンソニー・ウェイジャー
ジョー・ガージェリー:バーナード・ミルズ
ジャガーズ:フランシス・L・サリヴァン
アベル・マグウィッチ:フィンレイ・カリー
ハビシャム夫人:マーティタ・ハント
ハーバート・ポケット:アレック・ギネス
ウェミック:アイヴァー・バーナード
ガージャリー夫人:フリーダ・ジャクソン
ベントレイ・ドラムル:トリン・サッチャー
ハンブルチュック:ヘイ・ペトリー
ビディー:エイリーン・エリスカリン
脱獄囚:ジョージ”ギャビー”ヘイズ
イギリス 映画
配給 General Film Distributors Ltd.
1946年製作 118分
公開
イギリス:1946年12月26日
北米:1947年5月22日
日本:1949年1月18日
■ アカデミー賞 ■
第20回アカデミー賞
・受賞
撮影(白黒)・美術賞(白黒)
・ノミネート
作品・監督・脚本賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
両親を亡くした少年フィリップ”ピップ”ピリップ(アンソニー・ウェイジャー)は、両親の墓地で脱獄囚アベル・マグウィッチ(フィンレイ・カリー)に捕まり、翌朝、食料とやすりを持ってくるよう脅される。
義兄でかじ屋のジョー・ガージャリー(バーナード・ミルズ)と姉(フリーダ・ジャクソン)とで暮らしていたピップは、帰宅して、姉から酷く叱られてしまう。
翌朝ピップは、マグウィッチに言われた通りに、ポークパイとやすりを家から持ち出し墓地に向かう。
客が来ると言ってその場を立ち去ったピップは、客人の前で、姉がポークパイを振舞おうとしたために焦ってしまう。
しかし、運良く脱獄囚捜索の軍隊が現れたため、ピップはジョーと共にその捜索に付いて行くことになる。 ピップは目の前で、マグウィッチが、彼が憎む顔に傷がある脱獄囚(ジョージ”ギャビー”ヘイズ)と共に捕まるのを見守る。 囚人マグウィッチは、自分がパイなどを盗んだと言ってヒップをかばい連行されていく。 1年後。 ハビシャム夫人の養女エステラ(ジーン・シモンズ)に迎えられたピップは、薄気味悪い屋敷に招かれ、夫人の部屋に案内される。 夫人に呼び寄せられたピップは、エステラとカードをするよう言われ、彼女に嫌味を言われながらも、夫人の前でゲームをしてみせる。 ピップは、意地悪なエステラが美しいことは認めるのだが、家に帰りたくなり、夫人の許可を得て屋敷を立ち去る。 貧乏な労働者だと、エステラに馬鹿にされたピップはショックを受けるのだが、翌日、さらに酷い侮辱を彼女から受ける。 しかし、エステラは帰り際に、ピップに頬にキスすることを許し彼を見送る。 3ヵ月後、ピップの姉が病死し、ジョーはビディー(エイリーン・エリスカリン)という女性を後妻として迎える。 家の雰囲気は一変し、ピップはビディーに紳士になりたいということを相談する。 ピップとハビシャム夫人との親交は深まり、嫌味などを言われながらも、彼のエステラを思う気持ちは、日に日に増していく。 やがて、14歳になるピップは、かじ屋の見習いが始まるため、屋敷に来られなくなることをハビシャム夫人に伝える。 夫人は今までのことをピップに感謝し、1ポンドを渡して別れを告げる。 エステラに送られたピップは、彼女がレディの作法を身に付けるために、フランスに旅立つことを知らされる。 ピップはそれを悲しみ、エステラにキスをして別れる。 そして、ピップは、かじ屋としての人生が始まり6年の歳月が流れる。 ある日、青年ピップ(ジョン・ミルズ)の元に、ハビシャム夫人の弁護士でもある、ジャガーズ(フランシス・L・サリヴァン)が現れる。 ジャガーズは、名前は明かさずに、ある人物の莫大な遺産がピップに与えられることを告げ、その条件として、紳士になるための勉強をすることを伝えられる。 それを承諾して希望に燃えるピップは、ロンドンに向かう前に、ハビシャム夫人に挨拶に行き、エステラの近況を聞いて旅立つ。 馬車でロンドンに着いたピップは、世界の中心である大都市に圧倒されてしまう。 ジャガーズの事務所を訪れたピップは、年間250ポンドという大金を受け取る話を聞かされた後、宿泊先に案内される。 事務所の金庫番ウェミック(アイヴァー・バーナード)に、下宿に案内されたピップは、ルームメイトのハーバート・ポケット(アレック・ギネス)と挨拶を交わす。 ピップは、以前ハビシャム夫人の屋敷でハーバーとに会っていたことを思い出し、彼から、エステラが男への復讐のために育てられたということを聞く。 食事の際ピップは、ハビシャム夫人の屋敷が荒れ放題の理由が、婚約者に裏切られ、結婚に失敗したことだと聞かされる。 ピップの紳士としての教育が始まり、彼はパーティーなども催すようになる。 21歳になったピップは、ジャガーズに恩人が誰かを聞くが答えてもらえず、手当ての受取額2年分の500ポンドの銀行券を渡される。 それで、恩人が現れるまでの生計を立てるようにと、ピップはジャガーズに指示される。 そんな時、ジョーが現れ、ピップは彼を金で操ろうと考えたり、または彼が金をせびりに来たと思い込む。 しかし、ジョーはハビシャム夫人が会いたいとの言伝を伝えに来ただけで、彼を疑ったピップはその行為を恥じる。 故郷に戻ろうとしたピップは、ジョーの家に泊まるつもりだったが、村に向かう途中、泊まれない理由を考え初めてしまい、町のホテルに向かう。 ハビシャム夫人の元に向かったピップは、そこで美しく成長したエステラ(ヴァレリー・ホブソン)と再会する。 エステラとの、初対面の思い出などを話し始めたピップだったが、彼女は、自分には心や記憶が無いと素っ気無い態度で接する。 しかし、ハビシャム夫人は、ロンドンに向かうことになったエステラを愛するようにと、ピップに言い聞かせる。 エステラとの行動を始めたピップは、社交界デビューを果たした彼女の周辺が気になる。 やがて、エステラの前に、ベントレイ・ドラムル(トリン・サッチャー)という男性が現れ、ピップの心は穏やかでなくなる。 エステラは、ドラムルに関心が無いことをピップに伝えるが、彼は、ドラムルの悪口をエステラに吹き込んだりもする。 ある日、ピップの元に脱獄囚マグウィッチが現れ、その後、オーストリアで成功した彼が、ピップに遺産を譲ろうとしている人物だと知らせる。 ピップは思いがけない話しに戸惑いながらも、帰宅したハーバートにマグウィッチを紹介し、彼に寝床を提供する。 後援者がハビシャム夫人だと思っていたピップは、翌日、ジャガーズにマグウィッチのことを確認しに行く。 ジャガーズは、マグウィッチがイギリスに入国すれば重罪となり、それを匿った者も同罪になると警告する。 マグウィッチと出国することを決めたピップは、エステラに会いにハビシャム夫人の屋敷に向かう。 そこでピップは、エステラがドラムルと結婚することを知りショックを受ける。 ピップは、それを嘆くハビシャム夫人に、悔やむならエステラを解放するべきだと伝え、その場を立ち去ろうとする。 その直後、ハビシャム夫人のドレスに暖炉の火が燃え移り、ピップが戻って火を消すのだが、彼女は焼死してしまう。 ロンドンに戻り、ウェミックに呼ばれたピップは、マグウィッチの敵が現れたため、彼を他の場所に匿ったことを知らされ、その場に向かう。 マグウィッチは、かつてピップの目の前で捕らえられた時に、一緒だった密告屋の囚人が敵であることをピップに告げる。 ピップはハーバートと共に、オーストリアに逃亡する準備を始める。 そして、マグウィッチを案内役に仕立て、ピップとハーバートはボートで沖合いに向かい、海岸の宿に身を隠す。 しかし、顔に傷のあるマグウィッチの敵は、それに気づいていた。 翌日、追っ手の気配を感じながら、定期船に向かうピップらのボートに、密告屋と警察官が近づく。 マグウィッチと密告屋は格闘となり、海に転落した密告屋は死に、マグウィッチはピップが助けるが、警察に捕らえられてしまう。 裁判の結果、マグウィッチは死刑が確定して、財産は没収されてしまう。 マグウィッチに、財産を相続する権利がある肉親がいれば別だと、ピップはジャガーズから聞かされる。 娘の存在をマグウィッチから知らされていたピップは、その情報をジャガーズから聞き出そうとする。 ジャガーズは、マグウィッチの肉親についての情報を仮定の話としてピップに話し始める。 そしてピップは、ハビシャム夫人の養女となったエステラが、マグウィッチの娘だということを知る。 牢獄で、衰弱したマグウィッチに面会に行ったピップは、彼に娘が美しく成長して裕福に暮らし、自分が彼女を愛していることを告げる。 ピップの優しさに感謝したマグウィッチは、それを聞き安堵の表情を浮かべて息を引き取る。 その後、ピップは病に倒れ、気がつくと故郷の村でジョーの看病を受けていた。 回復したピップは、ジョーの親切な心に感謝して、エステラを想いながら、かつてのハビシャム夫人の屋敷を訪ねる。 売り家になっていた屋敷の、ハビシャム夫人の部屋に向かったピップは、そこでエステラに再会する。 エステラは、ドラムルに自分の素性を知られて婚約は破棄されたことをピップに伝える。 屋敷は売らず、そこで暮らすというエステラに、ピップは死の家から出るよう告げる。 ピップは、日の光を遮っていた部屋の窓を開け、ハビシャム夫人の亡霊を追い払おうとする。 そしてピップは、想い続けていたエステラへの愛を告げて、彼女もそれを受け入れ固く抱き合い、二人はチリと埃にまみれた屋敷を去っていく。
...全てを見る(結末あり)
ピップが、大金持ちのハビシャム夫人(マーティタ・ハント)に、遊びに来るよう誘われたため、おじのハンブルチュック(ヘイ・ペトリー)は彼を屋敷に連れて行く。
*(簡略ストー リー)
優しくて思いやりのある、孤児となった少年ピップは、婚約者に裏切られたことで、屋敷に何十年も閉じ篭る富豪ハビシャム夫人に気に入られる。
ピップは、夫人の養女で、美しいエステラに出会い恋してしまう。
自分に冷たく接するエステラに思いを寄せながら、やがて成長したピップは、思わぬ遺産を相続することになる。
そしてピップは、金の力と女性への憧れで、かつての純真な心を失いかける。
その後ピップは、かつて助けた囚人マグウィッチが後援者だと知り戸惑うが、見かけとは違う彼の大らかな心に触れる。
それがきっかけとなり、ピップは優しい心を取り戻すことになり、そして、彼には新たな運命が待ち構えていた・・・。
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7度の映画化の中でも傑出した仕上がりを見せる、多くのディケンズの著書の映画化作品中で出色とも言える、イギリス映画を代表する珠玉の名作。
また、デヴィッド・リーンの後年の作風とは一線を画する、初期の傑作としても貴重な作品である。
少年から、青年紳士に変貌していく過程の男性の心の動き、謎めいた富豪夫人と、彼女に”洗脳”されながら育てられる美しい養女、そして凶暴な囚人が施す善行など、複雑に絡み合う人間模様を、シャープな演出でまとめ上げたデヴィッド・リーンの演出は見事だ。
のどかな片田舎とは対照的な、おぞましく不気味で、幻想的な雰囲気の屋敷と異様な人物描写など、ガイ・グリーンの白黒撮影の妙も冴え渡る。
第20回アカデミー賞では、そのガイ・グリーンが撮影賞(白黒)を、そして美術賞(白黒)も受賞した。
・ノミネート
作品・監督・脚本賞
憧れの女性への愛を貫きながら、純朴な青年の揺れ動く心と成長を見事に演じ切ったジョン・ミルズ、男性を手玉に取るように育てられたヴァレリー・ホブソンと、その少女期のジーン・シモンズ、ピップの少年期を演じたアンソニー・ウェイジャー、心清らかな義兄でかじ屋のバーナード・ミルズ、弁護士フランシス・L・サリヴァン、物語の重要人物として異彩を放つ囚人のフィンレイ・カリーと謎の富豪夫人マーティタ・ハント、主人公の同居人で協力者、初々しさが残るアレック・ギネス、弁護士事務所の金庫番のアイヴァー・バーナード、主人公の姉フリーダ・ジャクソン、エステラ(V・ホブソン)に近づく紳士のトリン・サッチャー、義兄の後妻役エイリーン・エリスカリン、おじ役のヘイ・ペトリー、密告者のジョージ”ギャビー”ヘイズなど、個性派俳優の競演も見ものだ。