ユダヤ人差別を問題提起したジャーナリストの苦悩を描く、監督エリア・カザン、主演グレゴリー・ペック、ドロシー・マクガイア、ジョン・ガーフィールド、セレステ・ホルム共演による社会派ドラマの傑作。 |
・グレゴリー・ペック / Gregory Peck / Pinterest
■ スタッフ キャスト ■
監督:エリア・カザン
製作:ダリル・F・ザナック
原作:ローラ・Z・ホブソン
脚本:モス・ハート
撮影:アーサー・C・ミラー
編集:ハーモン・ジョーンズ
音楽:アルフレッド・ニューマン
出演
グレゴリー・ペック:フィリップ・スカイラー・グリーン
ドロシー・マクガイア:キャシー・レイシー
ジョン・ガーフィールド:デイヴ・ゴールドマン
セレステ・ホルム:アン・デトリー
アン・リヴェール:グリーン夫人
アルバート・デッカー:ジョン・ミニフィ
ジューン・ハヴォック:エレイン・ウェルズ
ジェーン・ワイアット:ジェーン
サム・ジャフェ:フレッド・リーバーマン教授
ディーン・ストックウェル:トミー・グリーン
アメリカ 映画
配給 20世紀FOX
1947年製作 118分
公開
北米:1947年11月11日
日本:1987年10月
制作費 $2,000,000
■ アカデミー賞 ■
第20回アカデミー賞
・受賞
作品・監督
助演女優(セレステ・ホルム)
・ノミネート
主演男優(グレゴリー・ペック)
主演女優(ドロシー・マクガイア)
助演女優(アン・リヴェール)
脚本・編集賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
ニューヨーク。
ジャーナリストのフィリップ”フィル”スカイラー・グリーン(グレゴリー・ペック)は、妻を亡くし、息子トミー(ディーン・ストックウェル)と母親(アン・リヴェール)とで、この地に移り住む。
フィルは、雑誌”週間スミス”の編集長ジョン・ミニフィ(アルバート・デッカー)に招かれ、早々、反ユダヤ主義の記事を書くことになる。
この記事は、ミニフィの姪キャシー・レイシー(ドロシー・マクガイア)の案で、フィルは彼女と出会い、次第に心惹かれていく。
翌朝、トミーに反ユダヤ主義について質問されたフィルは、新鮮さに欠ける初仕事に消極的な姿勢を見せるが、母親から、子供にも、自然にそれが理解できるようになるまでは重要な問題であることを悟らされる。 フィルは、断りかけていた今回の取材を受けることに決めて、それをミニフィ編集長に伝える。 資料で情報を集めようとしたフィルに対し、現場の実体験を生の声として記事にするよう、ミニフィは彼に要求する。 その後、親交を深めたフィルとキャシーだったが、彼は気を休める暇もなく取材に没頭する。 アイデアは浮かぶものの、切り口が見つからないフィル、旧友でユダヤ人のデイヴ・ゴールドマン(ジョン・ガーフィールド)に意見を求めようと、軍人として国外にいる彼に手紙を出す。 そんな時、母親が心臓発作を起してしまい、大事には至らなかったものの、フィルは、今回のことで取材の件は諦めることにする。 しかし、それを母親に説明していたフィルは、自分自身がユダヤ人になってみることを思いつく。 興奮するフィルは取材を続ける気になり、キャシーをアパートに呼び、彼女に求婚する。 フィルは、早速その案を編集長ミニフィに伝え、彼の賛同を得る。 その直後、雑誌社の幹部との昼食会の席で、フィルは何気なく自分がユダヤ人だと語る。 フィルは、秘書のエレイン・ウェルズ(ジューン・ハヴォック)も、ユダヤ人だと知らされる。 彼女は、驚くことに、偏見と戦っているはずの、この雑誌社さえ、それを隠さないと雇ってもらえないという現実をフィルに伝える。 さらにエレインは、昼食会後には、フィルがユダヤ人であることが社内に広まったということを知らせ、思い通りの結果に彼は満足する。 社を離れても、フィルがユダヤ人だということを語ると、周囲の目は一変する。 キャシーにも、ユダヤ人だと伝えたフィルは、明らかに動揺する彼女と、気詰まりな時を過ごし帰ろうとする。 しかし、心残りのフィルは彼女の部屋に戻り、わだかまりを消し去り、二人は固く抱き合う。 ミニフィ編集長は人事部長を呼び出し、社の恥とも言える偏見をなくすための指示を出す。 フィルは、秘書エレインとの会話で、ユダヤ人自身も、同胞を差別していることを知る。 雑誌のファッション担当アン・デトリー(セレステ・ホルム)のホームパーティーに誘われたフィルは、キャシーと共に彼女の家に向かう。 キャシーは、実家のパーティーにフィルを招待する計画を告げ、姉ジェーン(ジェーン・ワイアット)だけには真実を伝えるつもりだと彼に話す。 パーティーは盛り上がり、アンはフィルとキャッシーを、高名なユダヤ人物理学者フレッド・リーバーマン教授(サム・ジャフェ)に紹介する。 その後フィルは、キャシーと結婚するのなら、早めに家族に会い、揉め事を回避するようアンに忠告される。 パーティーからキャシーのアパートに戻ったフィルは、彼女が姉ジェーンに、自分の件を話してしまったことを知らされる。 揉め事が起きるのを、事前に防ごうとしているとしか思えないキャシーの行動をフィルは非難し、彼はその場を立ち去る。 やがてデイヴが帰国し、フィルは記事のためにユダヤ人のふりをしていることを彼に告げる。 フィルはアンを誘い、デイヴと食事をしようとしていると、彼が酔った客に、ユダヤ人ということで絡まれる。 それを見たフィルは、反ユダヤ主義の現実を目の当たりにする。 その時、実家に戻っていたキャシーから、フィルに謝罪の電話が入り、諍いを気にかけていた彼は、安心してパーティー出席を約束する。 コネチカットのキャシーの実家に向かったフィルは、駅で彼女の出迎えを受ける。 パーティーは始まり、キャシーはジェーンが騒動を起さないよう気遣っているのを知る。 キャシーは、結婚後に休暇を過ごす山荘にフィルを案内して、離婚を経験した自分の思いが、その家に込められていることを話して聞かせる。 結婚式が迫り、フィルとキャシーがハネムーンで泊まるホテルが、客を選ぶことをアンから知らされる。 キャシーは宿泊先を変える提案をするが、フィルは逃げることを嫌い、デイヴの警告も聞き入れなかった。 ハネムーン先のホテルに向かったフィルは、デイヴの警告通り、信じられないほどの侮辱を受ける。 帰宅したフィルは、ニューヨークで、家を見つけることが出来ずに軍に戻ろうとするデイヴに、キャシーの山荘を提供する提案を彼女にする。 しかしキャシーは、保守的な町では、ユダヤ人を受け入れない、”紳士協定”があることをフィルに伝える。 フィルは、間違った決まりと闘おうとしないキャシーを責め、その後、息子トミーまでが、差別の犠牲になったことを知る。 トミーに、差別と闘うことを教え込んだフィルだったが、本当はユダヤ人ではないと、トミーを慰めたキャシーをさらに激しく責める。 キャシーは、自分達の幸せまで犠牲にするやり方にはついていけないとフィルに言い残し、立ち去ってしまう。 その後、戻ってきたデイヴは、自分や家族が受けてきた偏見と差別をフィルにしみじみと語る。 翌日、フィルは、秘書エレインに記事をタイプしてゲラ刷りにかける指示を出す。 エレインは記事の原文を見て、フィルがクリスチャンだということを知り驚いてしまう。 フィルは、エレイン自身の中に偏見があることを指摘し、ミニフィ編集長の元に向かい辞職を申し出る。 フィルの真実を知ったアンも驚き、記事に目を通した彼女はそれを絶賛する。 アンは、キャシーが立ち去り、気落ちするフィルを自宅に招く。 偏見と闘おうともしない、キャシーを偽善者だと言い切ったアンは、フィルに対する気持ちを告白する。 デイヴに会ったキャシーは、彼からの助言で、偏見に立ち向かおうとしなかった自分を責める。 そしてキャシーは、フィルが今後もそれと闘い続けることを支えることこそが、幸せを掴むために必要だと悟る。 帰宅したフィルは、原稿を読んだ母に誇らし気に迎えられ、どんな世界に変わるか、長生きしたくなったという最高の褒め言葉をうもらう。 そこにデイヴが現れ、就職するための電話を入れ、山荘をキャシーが提供してくれたことをフィルに話す。 それを聞いたフィルは、キャッシーの気持ちを察して彼女の元に向かう。
...全てを見る(結末あり)
*(簡略ストー リー)
ジャーナリストのフィル・グリーンは、妻を亡くし息子のトミーと母親とでニューヨークに移り住む。
フィルは、雑誌”週間スミス”の編集長ミニフィに招かれていたのだが、いきなり、反ユダヤ主義の記事を書くことになる。
その記事は、ミニフィの姪キャシーのアイデアで、フィルは彼女と出会い心惹かれる。
フィルは、新鮮味のない今回の取材を断ろうとも思っていたが、子供にも理解できるようになるまでは、非常に重要な問題であることを、母親に悟らされ、それを受けることを決める。
ミニフィは、現場の実体験を生の声として記事にするよう、フィルに指示し、彼は気を休める暇もなく取材に没頭する。
しかし、なかなか切り口が見つからないフィルは、旧友でユダヤ人のデイヴに、意見を求めようとする。
そしてフィルは、自分自身がユダヤ人となりそれを体験する、画期的な方法を思いつくのだが・・・。
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1947年に発表された、ローラ・Z・ホブソンの同名小説を基に製作された作品。
日本では、テレビ放映されただけだった本作は、製作から40年後1987年に劇場公開された。
第20回アカデミー賞では作品賞をはじめ7部門にノミネートされ、作品、監督、助演女優(セレステ・ホルム)を受賞した。
・ノミネート
主演男優(グレゴリー・ペック)
主演女優(ドロシー・マクガイア)
助演女優(アン・リヴェール)
脚本、編集賞
第二次大戦で、ヒトラーのナチスによる迫害を受けたユダヤ人だが、終戦からわずか2年後の本作を観ると、どこの世界でも彼らが根強い偏見と闘っていたという現実を知ることができる。
そういう意味でも、この年のアカデミー賞で、作品、監督賞を受賞したことは意味深い。
原作が発表され、間もなく映画化権を手に入れた20世紀FOXのダリル・F・ザナックは、当時としてはタブーだったこのテーマ、反ユダヤ主義を真正面から描くことを決意し、舞台出身で映画界にも進出し、2年前の「ブルックリン横丁」(1945)でも成功していたエリア・カザンを監督に起用した。
エリア・カザンの演出は、主人公の正義感をかなり強引に描くことで、反ユダヤ主義の根強さを強調し、周囲の人々の心を動かす困難さを表現している。
30歳になったばかりの主演グレゴリー・ペックの若々しさと、恋人や家族を犠牲にしてまで社会の偏見に立ち向かう正義感は、アメリカの良心を感じさせる。
エリア・カザンの「ブルックリン横丁」(1945)で、楽天家の夫と貧しい家族を支える母親役を見事に演じたドロシー・マクガイアは、偏見はなくとも、立ち向かう勇気もない、主人公を愛し苦悩する女性を好演している。
実際にユダヤ系移民のジョン・ガーフィールドの、真に迫る演技も見ものだ。
アカデミー助演賞を受賞したセレステ・ホルムは、超キャリアウーマンとして作品にアクセントを与え、終盤、女としての気持ちを主人公に伝えるシーンで、男心を揺さぶる素晴しい演技を見せてくれる。
主人公を温かく見守る母親役アン・リヴェールの、病弱の身で、息子の原稿を読み”長生きしたくなった”と気持ちを高ぶらせる場面も心を打つ。
他、気合の入っている編集長アルバート・デッカー、ユダヤ人秘書ジューン・ハヴォック、キャシー(D・マクガイア)の姉ジェーン・ワイアット、ワンシーンだけだが、高名なユダヤ人物理学者役サム・ジャフェの出演も印象に残る。
フィル(Gー・ペック)の息子役で、現在でも活躍を続けているディーン・ストックウェルが11歳で出演している。