1985年に上演され、1987年にピューリッツァー賞を受賞したオーガスト・ウィルソンの戯曲”Fences”を基に製作された作品。 差別社会の中で挫折した元野球選手が時代の変化に順応できないまま家族のために懸命に生き抜く姿を描く、製作、監督、主演デンゼル・ワシントン、ヴィオラ・デイヴィス、スティーヴン・ヘンダーソン、ミケルティ・ウィリアムソン他共演のヒューマン・ドラマ。 |
・デンゼル・ワシントン / Denzel Washington 作品一覧
■ スタッフ キャスト ■
監督:デンゼル・ワシントン
製作
トッド・ブラック
スコット・ルーディン
デンゼル・ワシントン
原作:オーガスト・ウィルソン”Fences”
脚本:オーガスト・ウィルソン
撮影:シャルロッテ・ブルース・クリステンセン
編集:ヒューズ・ウィンボーン
音楽:マーセロ・ザーヴォス
出演
トロイ・マクソン:デンゼル・ワシントン
ローズ・リー・マクソン:ヴィオラ・デイヴィス
ジム・ボノ:スティーヴン・ヘンダーソン
コーリー・マクソン:ジョヴァン・アデポ
ライオンズ・マクソン:ラッセル・ホーンズビー
ガブリエル・マクソン:ミケルティ・ウィリアムソン
レイネル・マクソン:サナイヤ・シドニー
アメリカ 映画
配給 パラマウント・ピクチャーズ
2016年製作 139分
公開
北米:2016年12月16日
日本:未公開
製作費 $24,000,000
北米興行収入 $57,682,900
世界 $64,414,760
■ アカデミー賞 ■
第89回アカデミー賞
・受賞
助演女優賞(ヴィオラ・デイヴィス)
・ノミネート
作品
主演男優(デンゼル・ワシントン)
脚色賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1957年、ピッツバーグ。
53歳の市清掃局員であるトロイ・マクソン(デンゼル・ワシントン)は、いつものように同僚のジム・ボノ(スティーヴン・ヘンダーソン)と、ゴミ収集車の後部にしがみつきながら仕事をする。
苦情を申し立てたために清掃局長に呼ばれたいた黒人のトロイは、白人社会に対する偏見をボノに語りる。
黒人でもゴミ収集車を運転したいだけだと語るトロイは、その週の仕事を終えて、給料を受け取りボノと共に自宅に向かおうとする。
バー”テイラーズ”で、トロイがアルバータに酒をおごったことを知っていたボノは、二人の関係を気にする。
過去の女性関係は認めたトロイは、妻ローズ(ヴィオラ・デイヴィス)に出会う前の話だとボノに伝える。 ボノと共に家に着いたトロイは、いつものように話をしようとする。 裏口から出てきたローズに男同士の話があると伝えたトロイは、彼女をからかい愛を確かめる。 高校生の息子コーリー(ジョヴァン・アデポ)がバイトをしているスーパーの話などをしたトロイは、弟のガブリエル(ミケルティ・ウィリアムソン)が出て行ってくれたために助かっていることもボノに伝える。 フットボールで大学にスカウトされたコーリーを誇りに思うローズだったが、白人の中では活躍できないと言うトロイは、黒人は手に職を持つべきだと主張する。 コーリーは高校生なので、仕事とフットボールの話を一緒にするのはおかしいと、トロイはローズから意見される。 ボノからは、運動神経は自分譲りだと言われたトロイは、かつて野球選手として活躍していたのだった。 黒人プレイヤーが認められなかった時代に現役だったため、トロイはメジャーリーグ入りができなかった。 ローズから、それは戦前のことで時代は変わったと、ボノからは時期が早過ぎたとも言われたトロイは、それを否定し、当時の自分の成績は、メジャー選手を遥かに上回っていたことを伝える。 ローズから、”ジャッキー・ロビンソン”も活躍していると言われたトロイは、あの程度の選手はざらにいたと伝え、肌の色に関係なく優秀な者が活躍すべきだと語る。 死を恐れないという話になったトロイは、肺炎で苦しんだ時も死神に勝ったとボノに伝え、三人は大いに盛り上がる。 そこに前妻との息子であるミュージシャンのライオンズ(ラッセル・ホーンズビー)が現れ、自分の給料日を知っている彼が金を借りに来たことをトロイは見抜く。 ライオンズから10ドル貸してほしいと言われたトロイは彼を相手にせず、まともな仕事に就く気のない彼に、自分がどうやって10ドルを稼ぐか教える。 ガブリエルがミス・パールの家に移り生活が苦しい状況で金は渡せないと言うトロイは、自立して他人を当てにするなとライオンズに伝える。 音楽だけが生き甲斐なので指示されたくないと言うライオンズは、10ドル借りるために来ただけだとトロイ伝えてお願いする。 ローズから、貸してあげるべきだと言われたトロイは、週給の76ドル22セントを彼女に渡す。 10ドル受け取ったライオンズは、トロイに嫌味を言われながらその場を去り、ボノも家に帰る。 翌朝、目覚めたトロイは、洗濯物を干しているローズから、コーリーが出かけたと言われたため、フェンスを作りたくなくて逃げたと考え怠け者だと批判する。 シーズン前のフットボールの特訓だと言われたトロイは、家の仕事もしないコーリーを許せなくなる。 朝から機嫌が悪いトロイの話を聞く気になれないローズは家に戻る。 ガブリエルが通りで大声を出していることに気づいたトロイは、彼をからかう子供達を追い払う。 戦争で日本軍と戦ったガブリエルは、頭を負傷して治療したため、障害を持っていた。 意味不明なことを話し続けるガブリエルを労わるトロイとローズは、彼を朝食に誘う。 既に食べたと言うガブリエルは、野菜を売らなけらばならないと二人に伝えて家に入ることを拒み、歌いながら去って行く。 ローズから、ガブリエルを病院に入れるべきだと言われたトロイは、弟が受け取った3000ドルのお陰で家を手に入れられたことで自分を責めながら、フェンス作りもせずにバーに向かう。 トロイのせいではないと伝えたものの、出て行った彼のことを考えると辛いローズは、帰宅したコーリーに、フェンス作りをしないのでトロイが怒っていたいたことを知らせる。 フェンスを作るはずが、結局、父は毎週テイラーズに行ってしまうと言うコーリーに、トロイが戻る前に仕事をするようローズは指示する。 その後、トロイは酔って戻り、出かけるローズを見送った彼は、コーリーと共にフェンス作りを始める。 コーリーからテレビを買うことを提案をされたトロイは、その代金200ドルを使い屋根を直すのが先決だと伝える。 スポーツに熱中し過ぎるコーリーが、家の仕事とスーパーのバイトもする約束を守ろうとしないため、トロイは、大学のスカウトが来てもサインはしないと言って息子を批判する。 白人社会であるスポーツの世界では絶対に成功しないと言うトロイは、手に職を持つべきだと伝える。 成績がいいのでスカウトされ、大学に行けばチャンスはあると言うコーリーだったが、納得しないトロイは、スーパーでのバイトをさせようとする。 断ったために既に代わりが雇われたと言うコーリーの話を聞こうとしないトロイは、バイトをしないのならフットボールをやめるよう指示する。 逆らえないコーリーは仕方なく納得し、自分のことを好きかトロイに尋ねる。 好き嫌いではなく責任があると言われたコーリーは、それよりも、自分が正当に扱われているかを気にしろと忠告される。 二人の話を家の中で聞いていたローズは、コーリーにスポーツをやらせてあげてほしいとトロイに伝える。 ローズから、メジャーに行けなかったのは年齢が問題だったと言われたトロイは、スポーツに裏切られ人種のせいだったと言い切る。 コーリーは社会に出る厳しさを知るべきだと言うトロイは、時代の変化を受け入れないことをローズから批判される。 粗末な食事で我慢して一週間働き、それ以外に何も与えられないとローズに伝えたトロイは家の中に向かう。 翌週、清掃局長に会ったトロイは、ボノと共にローズの名を叫びながら帰宅し、クビだと思ったのが昇進で運転手になれたことを彼女に伝えて抱き合い喜ぶ。 そこに現れたライオンズは、字も読めず運転免許もないトロイが運転手になったことをボノから知らされる。 トロイに10ドル返そうとしたライオンズは、また借りる時のために持っていろと言われたため、それをローズに渡す。 現れたガブリエルの引っ越した話になり、ローズと口論となったトロイは、コーリーのために、スカウトが来たらサインするようにとも言われる。 そのことをライオンズとボノに話したトロイは、コーリーが自分の指示に従わず、スーパーでも働いていないことを伝える。 コーリーは自分に追いつこうとしているだけだとライオンズから言われたトロイは、親に背くなら家を出る年齢でもあると話す。 トロイは、自分の父親のことと、14歳で家を出た時の話をする。 みじめな生活を始めて、盗みなどをしながらライオンズの母親と出会い、銃で襲ってきた相手を殺して15年服役し、刑務所でボノと知り合い、そこで野球を教わったと話すトロイは、その間に妻は子供を連れて出て行ってとライオンズに伝える。 その後にローズと出会ったことを話したトロイは、口説き文句が違うと言われたため、彼女にはかなわないと思う。 ライオンズから演奏を聴きに来てほしいと言われたトロイは、クラブに行くような柄ではないことを伝える。 帰宅したコーリーは、スカウトの件がだめになったことで、トロイに怒りをぶつける。 指示に従わなかったからだと伝えたトロイは、コーリーから、自分を超えられるのが怖いためにした行為だと言われる。 コーリーに、投げ捨てたヘルメットを拾い被るよう指示したトロイは、ストライク・ワンの状況になったため、三振はするなとだけ伝えて家に戻る。 その後、治安を乱すという理由でガブリエルが警察に連行され、ボノと共に戻ったトロイは、警官に50ドルを渡して釈放させたことをローズに伝える。 ボノとフェンス作りを始めたトロイは、アルバータの件を話す彼から、ローズのことを考えて面倒は起こすなと忠告される。 家に戻ったトロイは、ローズとガブリエルの話になり、彼女から、病院に入れた方がいいと言われる。 思い切って話したトロイは、自分が父親になることをローズに伝える。 ショックを受けたローズは動揺するが、そこにガブリエルが現れる。 外で待っていてほしいとガブリエルに伝えたローズは、18年も連れ添った末に裏切った理由をトロイに問う。 取り乱しそうになりながら、親の違う姉弟の中で辛い思いをして育ったことを話すローズに、隠してはおけないことだとトロイは伝える。 知りたくなかったと言うローズは裏庭に向かい、隣の部屋で話を聴いていたガブリエルは心を痛める。 事実は消し去れないとローズに話しかけたトロイは、自分達なら何とか切り抜けられると伝える。 アルバータといると違う自分に気づくと言うトロイは、家の問題や重圧から解放されて別の人間になれることも話す。 今後も付き合うのかを知りたいだけだと言うローズは、アルバータとの関係は諦められないと答える彼に、それならば一緒に暮らせばいいと伝える。 最高の妻であり悪いのは自分だと言うトロイは、必死に生きてきたものの、生まれた時からツー・ストライクであり、それを切り抜けるだけの人生だったと話す。 アルバータを見ると、1塁のベース上で留まらず盗塁できるような気がしたと言うトロイは、野球の話ではないと考えるローズに、自分なりに説明していると伝える。 妻として生きる道しかなかった辛い思いを語るローズは、トロイを見限ろうとするものの、腕ずくで引き留められる。 現れたコーリーに押し倒されそうになったトロイは、ツー・ストライクだと言って、三振しないように自分から離れていろと伝える。 その後、トロイは一人でフェンスを作り、単なる妻だけの日々を過ごすローズとの会話もなくなる。 半年が経ち、仕事を終えたトロイが職場から出てくるのを待っていたローズは、まっすぐ家に帰ってほしいと彼に伝える。 こんな生活に耐えられないと言うローズに、入院したアルバータの出産が近いと伝えたトロイは、その場を去ろうとする。 ガブリエルが再び連行されたのは、自分の指示だとローズから言われたトロイは、それを否定する。 書類に書いてあったと言われたトロイは、コーリーにはサインしないで今回はサインしたことをローズから批判され、それは釈放の書類だったと伝える。 自分は字が読めないしガブリエルを裏切らないと伝えたトロイは、入院を勧めた時は拒み、ガブリエルの金目当てで、今回は彼を病院に送ったとローズから言われる。 それを否定し、自分のサインではなく、ミス・パールがでっち上げた嘘だとトロイから言われたローズは、その場を去る。 その夜、眠っていたローズは電話のベルで目覚め、病院からの連絡があり、女の子が生まれてアルバータは亡くなったことをトロイに伝える。 ショックを受けたトロイは、心配するうローズの気持ちを察することなく、死神に対して、家の周囲にフェンスを作り自分のものを守ると言って、対決することを伝える。 コーリーは、トロイに理解してもらえずに苦しむローズを気遣う。 娘を連れて病院から戻ったトロイは、大人の事情を知らない子供には罪はないとローズに伝える。 トロイから、自分と共に娘を育ててほしいと言われたローズは、母親になることを伝えて子供を抱くが、妻はいないと考えるようにと彼に伝える。 その後も真面目に仕事だけは続けるトロイは、コーリーとの会話もなくローズにも相手にされず、孤独な日々が続く。 テイラーズで飲んでいたトロイは、昇進したために会う機会も減ったボノが現れたため、仕事に充実感もないので引退することを伝える。 顔を見に来ただけだと言うボノは席を立ち、ようやく買った冷蔵庫のことを訊かれたため、フェンスも完成させたことでおあいこだとトロイに伝えてその場を去る。 大学進学を諦めたコーリーは、海兵隊に志願することを考える。 帰宅したコーリーが父親に敬意を払わないために非難して家から追い出そうとしたトロイは、与えられたものはなく、抜かれることを恐れ怖がらせただけだと言われる。 殴りかかるトロイにバットを持って抵抗しようとしたコーリーは、それを奪われ、出ていけと言われてその場を去ろうとする。 トロイは、荷物は取りに来ると言うコーリーに、フェンスの外に出しておくと伝える。 死神との対決を覚悟したトロイは、バットを手にして構える。 6年後。 再会を喜ぶローズ、ライオンズ、そしてボノは、コーリーの制服姿を誇らしく思う。 トロイの葬儀を控え、ガブリエルは病院であることをコーリーに伝えたローズは、兄のことをほとんど覚えていないレイネルに支度をさせる。 コーリーが立派になることを信じていたライオンズは、自分は他人の小切手を使ったため、3年間の労役所暮らしだと伝える。 ライオンズは、”心を広くもて”が口癖だった父トロイは、三連続三振の後に特大ホームランを放ち、試合後には200人のファンにサインを求められたことをコーリーに話す。 音楽のことを訊かれたライオンズは、退所後に労役所の仲間とバンドを組むことをコーリーに伝える。 フェンスが完成した裏庭に向かったコーリーは、バットを振った後にトロイが倒れたとローズから知らされる。 葬儀には出ない考えのコーリーに近づき頬を叩いたローズは、一度くらい父親を否定したいと言われる。 父の存在が常に付きまとっていたと言うコーリーに、間違いはあったとしても全て息子のためだったと伝えたローズは、トロイと出会った瞬間に幸せを感じたことを話す。 トロイのパワーを保つために自分を犠牲にし、彼の人生をもらい自分と混ぜて生きたと言うローズは、受け入れ難かったレイネルさえも、人生をやり直すきっかけになったとコーリーに伝える。 神から力を与えられるなら、トロイが息子にしたように娘を育てると伝えたローズは、牧師からかかってきた電話に出る。 レイネルと話したコーリーは、”ブルー”のことを訊かれ、可愛がっていた愛犬のことを想うトロイが口ずさんでいた歌を二人で歌う。 そこにガブリエルが現れ、家族に歓迎された彼は、”トロイのためにペテロに門を開けてもらう時間だ”と言いながら、いつも持っているトランペットを吹く。 必死に吹くものの音が出ないガブリエルは、天のトロイに話しかける。 フェンスの戸が自然に締り、ガブリエルがもう一度トランペットを吹いて音が出た瞬間に、太陽の光が家族を照らす。 これでいいと言ってガブリエルはその場を離れ、ローズらは天を仰ぎながら、平穏の中で神の赦しを得られたと考える。
...全てを見る(結末あり)
トロイとアルバータの娘レイネル(サナイヤ・シドニー)は成長し、海兵隊の伍長となったコーリーが現れる。
*(簡略ストー リー)
1957年、ピッツバーグ。
53歳の市清掃局員であるトロイ・マクソンは、かつて野球選手として活躍したのだが、黒人がスポーツで成功できる時代ではなく、メジャーリーグ入りを果たせなかった。
妻ローズと高校生の息子コーリーと暮らすトロイは、今でも人種の壁は越えられないと信じて生きていた。
ローズから時代は変わったと言われてもそれを受けいらないトロイは、フットボールで大学からスカウトされたコーリーに、白人社会のスポーツの世界では成功できないと言って、手に職を持ち地道にな人生を歩ませようとするのだが・・・。
__________
かつて、実力はあっても人種の壁で夢を果たせなかった元野球選手が、公民権運動の波が押し寄せようとしていたアメリカ社会の中で、時代の波に順応できず、家族を養う”責任”のためだけに生きる姿を描いたドラマ。
製作、監督、主演のデンゼル・ワシントンは、演出を兼ねているとは思えない好演を見せる。
ハリウッドNo.1ともいえる演技派として、その集中力は流石に素晴らしく、観る者に訴える深い演技は心を打つ。
脚本も兼ねるオーガスト・ウィルソンの舞台劇の映画化だけあり、実力派の演技のぶつかり合いが見どころの作品。
第89回アカデミー賞では、ヴィオラ・デイヴィスが助演女優賞を受賞し、作品、主演男優(デンゼル・ワシントン)、脚色賞にノミネートされた。
各方面で高い評価を得た人気スター主演の作品にも拘わらず、なぜか日本では劇場公開されなかった。
主人公を演ずるデンゼル・ワシントンに勝るとも劣らない演技を見せる、ヴィオラ・デイヴィスの妻役は印象に残る。
夫の生き方を理解しつつ、厳しい生活を支える妻として渾身の演技が光る、念願のオスカーを受賞した彼女の熱演は絶賛された。
主人公の同僚である友人を、雰囲気ある演技で演ずるスティーヴン・ヘンダーソン、主人公と対立する息子のジョヴァン・アデポ、その異母兄ラッセル・ホーンズビー、戦争で負傷したため障害を持つ主人公の弟ミケルティ・ウィリアムソン、主人公と愛人との間に産まれた娘マーセロ・ザーヴォスなどが共演している。