1936年に上演された、ノエル・カワードの舞台劇”Still Life”を基に自ら製作、脚本を手がけ映画化された作品。 互いに家族を持つ男女の出会いと別れを描く、デヴィッド・リーン初期の秀作にしてメロドラマの傑作。 主演シリア・ジョンソン、トレヴァー・ハワード共演。 |
■ スタッフ キャスト ■
監督:デヴィッド・リーン
製作総指揮
アンソニー・ハヴェロック=アラン
ロナルド・ニーム
製作:ノエル・カワード
脚本
ノエル・カワード
アンソニー・ハヴェロック=アラン
ロナルド・ニーム
デヴィッド・リーン
撮影:ロバート・クラスカー
編集:ジャック・ハリス
音楽:セルゲイ・ラフマニノフ
出演
ローラ・ジェッソン:シリア・ジョンソン
アレック・ハーヴェイ:トレヴァー・ハワード
アルバート・ゴドビー:スタンリー・ホロウェイ
ミルトゥル・バゴット:ジョイス・ケアリー
フレッド・ジェッソン:シリル・レイモンド
ドリー・メシター:エヴァーリー・グレッグ
ウォルター:アルフィー・バス
イギリス 映画
配給
Eagle-Lion Distributors
ユニバーサル・ピクチャーズ
1945年製作 86分
公開
イギリス:1945年11月26日
北米:1946年8月24日
日本:1948年5月
■ アカデミー賞 ■
第19回アカデミー賞
・ノミネート
監督
主演女優賞(シリア・ジョンソン)
脚色賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
ミルフォード駅。
喫茶室で同席していた、主婦のローラ・ジェッソン(シリア・ジョンソン)と医師アレック・ハーヴェイ(トレヴァー・ハワード)は、深刻な表情で会話をしていた。
その話の最中、ローラの知人ドリー・メシター(エヴァーリー・グレッグ)が二人の席に座る。
話を続けられなくなったハーヴェイは、乗車する汽車が到着したため席を立つ。
暫くして姿が見えなくなったローラは、動揺した様子で喫茶室に戻る。
ローラは汽車に乗り、同席したドリーのハーヴェイへの詮索とおしゃべりにうんざりしてしまう。
めまいがすると言って、ドリーに話を止めてもらったローラは、絶望感や苦しさを忘れ去る時がくるはずだと、自分に言い聞かせる。 しかし、一方、その全てを覚えていたいとも思ってしまうローラだった。 帰宅したローラは、夫フレッド(シリル・レイモンド)や子供達に迎えられ現実に戻る。 その後ローラは、フレッドとの会話の最中、彼に優しい言葉をかけられ、思わず涙してしまう。 ローラは、駅でめまいがしてドリーの話に付き合わされ、うんざりしたことをフレッドに話す。 悩みをフレッドに打ち明けたいローラだったが、優しく思いやりのある彼を、傷つけたくない気持ちが勝っていた。 そしてローラは、家族を愛する平凡な自分が、思いもよらぬ恋に落ちたことを思い起こす・・・。 ミルフォード駅の喫茶室。 毎週木曜に、買い物でミルフォードを訪れ、貸し本を交換し、映画などを見て帰るのが習慣だったローラは、喫茶室で汽車を待っていた。 その後ローラは、ホームで目にゴミが入り、それを医師であるハーヴェイにとってもらう。 ローラはハーヴェイに感謝し、その日はそれで別れるのだが、翌週、二人は街角で再び出くわし、軽い挨拶を交わし別れる。 映画を観たローラは駅に向かい、ホームで思わずハーヴェイを探してしまう。 翌週、夫フレッドへの誕生祝の時計を買ったローラは、ランチに寄った店でハーヴェイに再会する。 二人は同席し、自然の成り行きで午後から映画を観に行くことになる。 その後、二人は一緒に駅の喫茶室に向かい、ハーヴェイの医療に対する自論を聞いているうちに、ローラは彼に惹かれている自分に気づく。 ハーヴェイの汽車が到着し、彼もローラに再会を求め、彼女はそれを承諾し汽車を見送る。 ローラは、ハーヴェイが、妻に今日の出来事を話すかなどを想像し、恐れを感じてしまう。 帰りに汽車の中で罪悪感を感じたローラは、今日の行動を後悔し、ハーヴェイに二度と会わないことを決める。 帰宅したローラは、フレッドから息子が事故に遭ったことを知らされ、それが自分への罰だと考える。 幸い息子は軽傷で、ローラは医師のハーヴェイと映画を観たことなどをフレッドに話すのだが、彼はそれを気にもかけない。 ローラはそんな夫を見て、つまらぬ心配をした自分が滑稽に思えて笑いだしてしまう。 次の木曜、ローラはハーヴェイに会うつもりでいたのだが、約束の場所に彼は現れず、哀れな気分で午後を過ごし駅に向かう。 ハーヴェイの乗る汽車が到着し、二度と彼とは会えないと考えたローラだったが、そこに手術で手が離せなかったというハーヴェイが現れる。 ホームでハーヴェイを見送り、結局ローラは、来週も彼と会う約束をしてしまう。 翌週、二人は映画を見た後に植物園に行き、そこでハーヴェイはローラに愛を告げる。 ローラも同じ気持ちを認めるが、辛すぎる思いに泣き崩れてしまう。 駅の地下道でキスした二人は、愛を確かめ合い、ローラは帰りの車内で幸せをかみしめる。 そして、帰宅したローラは現実に戻り、昼間の行動で夫フレッドに嘘をついてしまい、惨めな気分を味わう。 翌週、ロイヤル・ホテルで食事をしたローラとハーヴェイは、そこで知人に出くわしてしまう。 知人は疑いはしなかったものの、その後ドライブに行くことになってもローラの気は重いままだった。 帰りが遅くなったローラは、ハーヴェイに友人の部屋に誘われるが、それを断り駅に向かう。 汽車は到着し、一旦は車両に乗り込んだローラは、ハーヴェイへの気持ちを抑えきれず彼の元に向かう。 二人は愛し合う間もなく、ハーヴェイの友人が帰宅し、ローラは裏口から部屋を出る。 ハーヴェイも、友人に女性を連れ込んだことが知られ、軽蔑されて部屋を出る。 雨の中、惨めさと恥で打ちひしがれながら、ローラはフレッドに電話をかけ、再び嘘をついてしまう。 雨は止み、ローラは、気を落ち着かせるつもりでベンチに座り、タバコを吸っていたところを警官に声をかけられる。 罪人のような思いでその場を後にしたローラは、3時間も街を歩き回った末に駅に到着する。 そこに現れたハーヴェイを見て、ローラは取り乱してしまい、惨めな自分を責め彼と別れようとする。 ハーヴェイは、お互いに家族を持っている上での恋を理解する辛さを抑え、翌週もう一度だけ会う約束をする。 そしてハーヴェイは、家族を連れてヨハネスブルグに行くことをローラに告げる。 翌木曜、同じようにドライブに出かけた二人は、あまり話しもせず夜になり、駅に向かい喫茶室で最後の時を過ごす。 そこにドリーが現れ、ローラは、その残酷な運命にめまいを必死にこらえる。 汽車が到着したハーヴェイは、ローラを気遣い彼女の肩に軽く手を触れただけでその場を立ち去る。 ドリーの話を無視していたローラは、ハーヴェイが汽車に乗らず戻ってくることを信じていたが、時間だけが過ぎてしまう。 急行がホームに入り、ローラは喫茶室を飛び出し、苦しみから逃れるために、急行に飛び込もうかとも考えるのだが、思い止まり喫茶室に戻る。 その場の状況を思い浮かべていたローラの表情を見て、夫フレッドは、思いつめていた彼女の気持ちを察し、寄り添い優しく声をかける。 そして、二人は固く抱き合う。
...全てを見る(結末あり)
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店を仕切るミルトゥル・バゴット(ジョイス・ケアリー)は、てきぱきと仕事をこなし、駅員アルバート・ゴドビー(スタンリー・ホロウェイ)は、暇を見ては店に立ち寄り彼女に話しかける。
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*(簡略ストー リー)
主婦のローラ・ジェッソンと医師のアレック・ハーヴェイは、駅の喫茶室で出会う。
その後、二人は度重なる再会がきっかけで意気投合し、やがて恋に落ちる。
しかし、自分をリードするハーヴェイの気持ちを歓迎しながらも、ローラは良き夫や幸せな家庭への裏切りに罪悪感を感じて思い悩むのだが・・・。
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主人公ローラの、一人芝居風で進行する展開、彼女の切実な思いを語るナレーション、刻々と変わるローラの浮き沈みの激しい心、そして喜びも悲しみも実に豊かに表現される彼女の表情・・・
後に大作嗜好となる、デヴィッド・リーンの、身近に起きた恋愛を、細やかに描き切った珠玉の名作。
第19回アカデミー賞では、監督、主演女優賞(シリア・ジョンソン)、脚色賞にノミネートされた。
幸せな家庭とは違う、突然の愛に喜びを感じる主人公の表情が、汽車の窓に映し出されるショットは、満面の笑みがガラスに映っていることで、どこか空虚に見え、悲しい結末を予感させるという素晴らしい演出だ。
大袈裟にも思えるセルゲイ・ラフマニノフのピアノで、ローラの揺れ動く心を見事に表現している。
主人公の周囲、特に喫茶室で起きる決まりきった何気ない出来事が、恋に落ちた二人の立場を、より強調する効果も上げている。
第二次大戦終結の年である、11月公開の作品だが、戦争の影響、疲弊しきった人々の表情などは全く見えない。
あえてそれを映さず、主人公二人の束の間の喜びや悲しみの描写に専念している。
因みに、撮影は終戦前の同じ年の1-4月に行われた。
我が身に起こった体験を語られているかのようなシリア・ジョンソンの、切実な、揺れ動く女心を見事に表現する演技は秀逸だ。
特に、上記の窓ガラスのショットや、派手さのない主人公が、思い余って急行に身を投げようとする際の、悲壮感漂うショッキングな表情が印象的だ。
気高ささえ感じさせる医師役のトレヴァー・ハワードの演技が、甘味なムードを一段と際立たせる。
喫茶室の店主ジョイス・ケアリーに言い寄る駅員、彼自身の作品とも言えるスタンリー・ホロウェイ、優しさと思いやりで、妻ローラの心を和ませるシリル・レイモンド、悪気はないおしゃべりな婦人エヴァーリー・グレッグなどが共演している。