精神科医の妻として何不自由ない生活を捨ててまで精神患者の彫刻家との恋を選んだ女性の転落を描く、監督デヴィッド・マッケンジー、製作、主演ナターシャ・リチャードソン、マートン・チョーカシュ、イアン・マッケラン、ヒュー・ボネヴィル、ショーン・ハリス他共演のドラマ。 |
・ドラマ
■ スタッフ キャスト ■
監督:デヴィッド・マッケンジー
製作
デヴィッド・E・アレン
ローリー・ボーグ
メイス・ニューフェルド
製作総指揮
ジョン・ブキャナン
クリス・カーリング
バロン・デイヴィス
ハーモン・カスロー
スティーヴ・メイコフ
ブルース・マクニール
ロバート・レーメ
ナターシャ・リチャードソン
原作:パトリック・マーバー”Asylum”
脚本
パトリック・マーバー
クリサンジー・バリス
撮影:ジャイルズ・ナットジェンズ
編集
コーリン・モニー
スティーブン・ワイズバーグ
音楽:マーク・マンシーナ
出演
ステラ・ラファエル:ナターシャ・リチャードソン
エドガー・スターク:マートン・チョーカシュ
ピーター・クリーヴ:イアン・マッケラン
マックス・ラファエル:ヒュー・ボネヴィル
ニック:ショーン・ハリス
チャーリー・ラファエル:ガス・ルイス
ブレンダ・ラファエル:ジュディ・パーフィット
ジャック・ストラファン:ジョス・アクランド
ストラファン夫人:ワンダ・ヴェンサム
クラウディア・グリーン:マリア・エイトキン
リリー:ヘイゼル・ダグラス
イギリス/アイルランド 映画
配給 パラマウント・ヴァンテージ
2005年製作 99分
公開
イギリス:2005年9月9日
北米:2005年8月12日
日本:未公開
北米興行収入 $375,400
世界 $1,644,360
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1950年代、イギリス。
ステラ・ラファエル(ナターシャ・リチャードソン)は、精神科医である夫マックス(ヒュー・ボネヴィル)が副院長として赴任する、精神科病院に隣接する屋敷に引っ越し、息子のチャーリー(ガス・ルイス)と共に三人で暮らし始める。
院長のジャック・ストラファン(ジョス・アクランド)と夫人(ワンダ・ヴェンサム)に歓迎され、性病理学を専門とするピーター・クリーヴ博士(イアン・マッケラン)を紹介される。
クリーヴと楽しく話ができたステラだったが、マックスは彼を警戒する。
マックスは、同僚の妻達と交流を持ち社交的なることをステラに強要する。 翌日、婦人達とのお茶会後に病棟に向かったステラは、患者から話しかけられて動揺し、出くわしたクリーヴから、公共区域外には出ない方がいいと言われる。 患者との交流として、年に一度開かれるダンス・パーティーがあることを、クリーヴはステラに伝える。 毎日、何もすることがないステラは暇を持て余し、ある日、チャーリーが仲良くなった、労働を許可され温室を片付けている患者エドガー・スターク(マートン・チョーカシュ)と知り合う。 チャーリーのことを心配するステラは、温室担当の患者が安全かをマックスに確認し、危険なら庭では働けないと言われる。 マックスは、自分ではなくクリーヴのお気に入りの患者だとステラに伝える。 クリーヴが芸術家気取りなので、彫刻家のエドガーを気に入ったのだろうとマックスは話す。 翌日、温室に向かいエドガーと話したステラは、入所して6年の彼が、浮気をした妻を殺したことを知る。 クリーヴは、その様子を目撃する。 木から落ちて額を怪我したチャーリーを屋敷に運んだエドガーは、ステラと共に治療したマックスに感謝される。 その後、エドガーからチャーリーのことを訊かれたステラは、彼を意識し始める。 マックスと共にパーティーに出席したステラは、エドガーからダンスに誘われ、クリーヴは、その様子を観察する。 帰宅してベッドに入ったステラは、院長のストラファンが来年、引退するので、自分が後継者に推薦されそうだということをマックスから知らされる。 翌日、踊ってくれたお礼だと言うエドガーから花を渡されたステラは、受け取れないと伝える。 気持ちだけでもと伝えたエドガーは、花をその場に置いて立ち去る。 化粧をして温室に向かったステラはエドガーを求め、二人はその場で愛し合う。 その後も二人は密会を続け、ステラはマックスに愛情を感じなくなる。 ステラのことなどをクリーヴと話したエドガーは、パーティーで踊ったのは、女性と接しても問題ないことを証明したかったからだと伝えて、順調に治療の効果が出ていると言われる。 退院の可能性を訊かれたクリーヴは、忍耐が肝心だと答える。 先はまだ長いと言われたエドガーは、指示には従ったと伝えるものの、社会復帰はまだ許可できないと判断するクリーヴに、重度の人格障害と病的な嫉妬心を完治させてほしいと伝える。 現状を維持して頑張るようにと指示されたエドガーは、観察していると言われる。 クリーヴの前では冷静でいたものの、エドガーは苛立つ。 マックスは、母親のブレンダ(ジュディ・パーフィット)とストラファン夫妻、そしてクリーヴを食事に招待する。 エドガーの話になったステラは、彼の長期の拘束を願い乾杯したため、来客が帰った後で、礼儀に欠く失言だと言うマックスから痛烈に非難される。 翌日、チャーリーがブレンダと出かけることを知ったエドガーは、ステラの部屋に向かい愛し合う。 車で出かけたブレンダは、小切手帳を忘れたために屋敷に引き返し、それに気づいたステラとエドガーは焦る。 入浴中だったとブレンダに伝えたステラが部屋を出た隙に、エドガーは、現金とマックスの上着を奪ってその場を去る。 そこに現れたチャーリーは、エドガーが屋敷にいたために不思議に思う。 動揺するチャーリーを気にするステラは、その後エドガーを捜すののの彼の姿はなかった。 チャーリーの様子がおかしいので問い詰めたブレンダは、屋敷で患者を見た彼から、母の寝室にいたのかもしれないと言われたために車を止める。 トランクに隠れていたエドガーに気づいたチャーリーだったが、ブレンダには何も話さなかった。 マックスと共にストラファンに呼ばれたステラは、エドガーとの不適切な関係を疑われ、チャーリーが仲良しだったのでたまに話したと伝える。 二人が帰った後でクリーヴと妻と話したストラファンは、ステラとエドガーの関係は事実であり、たぶんマックスも知っているだろうと考え、大問題であるため、引退の年に失態を追及されると言って悔やむ。 マックスの解雇は免れないと考えるストラファンは、雇うべきではなかったと言って、夫のキャリアを台無しにしたステラのことを非難する。 仕方なくマックスの解雇を決めたストラファンは、クリーヴから、狂人が逃走中であるため、メディアには慎重に対処しないと自分達の立場が悪くなると言われる。 病院の名に傷がつくとも言われたストラファンは、警察の事情聴取ではエドガーの行為に言及しないようにとクリーヴに伝える。 ストラファン夫人から、ステラが逃亡の手助けをしたのかと訊かれたクリーヴは、恋に落ちたために利用されたのだろうと考える。 マックスと話したクリーヴは、不安定のままの状態でエドガーを働かせたと言われるものの、想定外の存在だったステラが不安定にしたと伝える。 ストラファンの指示で辞表を取りに来たのかとクリーヴに尋ねたマックスは、仕事に戻るべきだと言う彼に、自分が上司だと伝えるものの、クリーヴはそれを問題にしない。 仲が良かったエドガーのことを心配するチャーリーは、何日も見つからないので逃亡に成功しているとステラに伝える。 虚しい日々が続くステラは、クリーヴから力になりたいと言われるものの、それを拒み一人で悩み続ける。 クリスマスの買い物に行くことをマックスに伝えたステラは、ロンドンに向かう。 以前、エドガーの助手だったニック(ショーン・ハリス)に会い、ある場所に案内されたステラは、潜伏していたエドガーに会い愛し合う。 翌週も行く理由を見つけてロンドンに向かったステラはエドガーと愛し合い、その夜、マックスからプレゼントはどこにあるか訊かれる。 クリスマスまで秘密だと言うステラに、見せることを強要したマックスは、彼女がクローゼットからプレゼントを出したために驚く。 ステラは、謝罪するマックスと愛し合う。 その後もエドガーと情事を続けるステラは、一緒に住むことを提案され、家族を捨てる気がなければ二度と来るなと言われる。 エドガーから、いずれはチャーリーも呼び寄せようと言われたステラは迷う。 ステラがエドガーと会っていることに気づいていたクリーヴは、危険な行為だと言って、患者は自分で治すと伝える。 エドガーが妻にしたことをステラに話そうとしたクリーヴは、興味がないと言われる。 妻をハンマーで殴り殺して首を切り落とし、メスで目をえぐり出し顔を切り刻んだとステラに伝えたクリーヴは、精神が不安定なので暫く会わない方がいいと言って忠告する。 マックスに話して拘束することを提案すると言うクリーヴは、エドガーの居場所を教えるようにとステラに迫る。 家族を捨ててエドガーの元にむかうことを決心したステラは、荷物意をまとめてロンドンに向かい、彼に歓迎される。 ステラには休暇が必要だとチャーリーに話したマックスは、直ぐに戻ると伝える。 チャーリーは、母はエドガーの元に向かったと考える。 その後ステラは、エドガーとニックと共に自由奔放な生活を楽しむ。 エドガーに監視されることを不満に思うステラは、チャーリーを想い涙する。 ステラに惹かれたニックは、彼女に気持ちを伝えるものの、それを知ったエドガーに痛めつけられる。 その頃、警察はステラの捜索を始め、刑事が彼女を捜す。 去ることを決心したニックはステラを誘い、エドガーが以前のように変わってきたと言って、妻の死体も見たことを伝える。 不安が募るステラは街でニックに会い、それを目撃したエドガーは彼女を痛めつける。 刑事に見つかったステラは捕らえられて連行され、エドガーはそれに気づく。 留置場に現れたマックスから、明日、釈放されると言われたステラは、チャーリーに会わせてほしいと伝える。 マックスは、縁を切ることもできるが、チャーリーには母親が必要だとステラに伝えて、会わせることを約束する。 今回の事件はマスコミも注目し、クリーヴは、エドガーが潜伏していた場所を調べ、ステラをモデルにした粘土の彫刻を持ち帰る。 左遷されたマックスは、ステラを連れてウェールズに向かい、町の病院に就職できたことを彼女に伝える。 ステラは、それがストラファンではなく、後継者のクリーヴの指示であることを知る。 クリーヴは、院長室で持ち帰ったステラの彫刻を見つける。 田舎町の家に着いたステラは、眠っていたチャーリーから元気になったかと訊かれ、もうどこにも行かないことを約束して謝罪する。 男らしく諦めるべきだったが、止めることができなかったことを悔やむマックスは、ステラと別の部屋で眠る。 チャーリーの世話をしていたブレンダは、恥を自分への哀れみにしようとしてもうまくはいかないとステラに伝えてその場を去る。 学校に通うチャーリーの送迎などをして過ごすステラは、元のような生活には戻れずに苦しむが、マックスから、立ち直るようにと言われる。 マックスの居場所を尋ねる電話を受けたクリーヴは、それがエドガーだと気づき、その件をマックスに知らせる。 来週、遠足があることをチャーリーから知らされてステラは、親も一緒に行けるか尋ねるが、だめだと言われる。 部屋の壁を塗ることで気分を紛らすステラは、チャーリーから、遠足には親も行けると言われる。 ウソをついてしまったことを謝罪したチャーリーに、誰でもウソをつくと伝えたステラは、一緒に行ってほしいと言う彼を抱きしめる。 ステラとベッドを共にするようになったマックスは、エドガーとは二度と会うことはできないと言って、以前と同じに幸せだと思えるようになると伝える。 その頃、町に着いたエドガーはマックスの病院に侵入し、ステラの家の電話番号を知る。 出かける際に電話を受けたステラは、学校の先生から遠足のことだったとマックスに伝える。 エドガーからの電話だったステラは、マックスを病院で降ろし、報せを受けた警察は動き出す。 ステラはエドガーとの待ち合わせ場所に向かい、一緒にいることをチャーリーに約束したことを伝える。 待機していた警官に気づいたエドガーは、逃げようとするものの逮捕される。 帰宅したマックスは、エドガーが去ったことをステラに伝え、忘れるようにと言って声を荒げる。 遠足の日、チャーリーに同行したステラは目的地に向かい、子供達は分かれて、興味のあるものを瓶に入れるよう教師から指示される。 チャーリーと共に川に向かったステラは、魚を瓶に入れようとする息子を見つめる。 川に入り深みにはまって溺れるチャーリーの方向を見つめるものの、エドガーを想い呆然としていたステラは、教師がそれに気づき水に飛び込んだために慌ててチャーリーを助ける。 チャーリーは息を引き取り、葬儀が行われる。 葬儀に参列したクリーヴがステラを病院に収容することになり、失意のマックスは、今後どのような苦しみが待っているかをステラに話し、それが一生続くと伝える。 それを制止したクリーヴは、ステラを病院に連れて行き、チャーリーのことを話しながら動揺する彼女に、鎮静剤を打ち落ち着かせる。 エドガーのことを訊かれたクリーヴは、ここにはいるはずがないと言って、過去の人だとステラに伝える。 実は収容されていたエドガーが何も話そうとしないため、治療ができないと伝えたクリーヴは、6週間前から、ステラが自分の患者として病院にいることを彼に知らせる。 チャーリーが溺死したことも知らせたクリーヴは、ステラに会いたければ話すようにとエドガーに伝える。 改善の様子が見られるステラは、チャーリーの死と共にエドガーへの思いも消えたことをクリーヴに話す。 エドガーがこの病院にいたとしたらどう思うかと訊かれたステラは、いてもおかしくはないと答え、クリーヴから、あくまで仮定の話だと言われる。 マックスを訪ねたクリーヴは、病院を辞めて教員になるつもりの彼にステラのことを話す。 病院に戻りステラと話したクリーヴは、退院の条件は治療と安全を保証することだと言って、マックスにも了解を得たのだが、自分と暮らすのが最も適切な方法だと伝える。 マックスが離婚する考えをステラに伝えたクリーヴは、自分に対する愛情があるとは思わないが、君には必要な男だと言って彼女を納得させる。 ステラが自分に惹かれているとエドガーに話し、かつては彼を求めようとしていたクリーヴは、彼女が他の男と幸せになれることを悔しく思うだろうと伝える。 母親の指輪をステラに渡してプロポーズしたクリーヴは、恒例行事のダンス・パーティーのことを話す。 エドガーのことを訊かれたクリーヴは、患者を離すとは思わなかったと言われ、いずれ話そうとは思っていたと答えて、彼もパーティーに参加すると伝える。 嫌なら来させないと言われたステラは、クリーヴにそれを任せる。 エドガーと話したクリーヴは、治療に協力すればステラに会わせると伝える。 パーティーの夜、準備してパーティー会場に向かうエドガーだったが、クリーヴは彼を独房に戻してしまう。 エドガーを待っていたステラは、クリーヴから、迎えに行ったエドガーは眠っていて、起こしたものの来ないと言われたことを伝える。 独房に戻ったエドガーは、泣き崩れる。 パーティーは終わり、部屋に戻る患者の列から外れたステラは、指輪を廊下に投げ捨てる。 階段を上り屋上に出たステラは、身を投げる。 瀕死のステラは、寄り添うクリーヴに、放っておいてほしいと伝えて息を引き取る。 呆然とするクリーヴは、ステラから離れる。 その後エドガーは、ステラのことを想う。 チャーリーの墓参りをしたマックスは花を手向け、傍らに眠るステラの墓にも一輪、置く。
...全てを見る(結末あり)
オフィスで雑務を終えたクリーヴは、手にしていたステラの彫刻を見つめて今回の件を考える。
■ 解説 評価 感想 ■
*(簡略ストー リー)
1950年代、イギリス。
ステラ・ラファエルは、精神科医である夫マックスが副院長として赴任した精神科病院に隣接する屋敷に引っ越し、息子のチャーリーと共に三人で暮らし始める。
何不自由ない日々の中で充実感を感じられないステラは、労働を許された精神患者で彫刻家のエドガーと知り合う。
やがて惹かれ合い密会を続けるようになった二人だったが、エドガーは逃亡し、ステラは彼との関係を疑われる。
ロンドンに向かい、エドガーのかつての助手ニックの案内で潜伏しているエドガーの元に向かったステラは彼との情事を繰り返し、ついに家族を捨てる決心をするのだが・・・。
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1996年に発表された、パトリック・マーバーの小説”Asylum”を基に製作された作品。
原作者のパトリック・マーバーが脚本を担当し、若手期待のデヴィッド・マッケンジーが監督した作品。
夫の赴任した精神科病院の患者との恋により、全てを失ってしまう女性の悲劇を描いたドラマ。
単に主人公の恋が実らない恋物語ではなく、家族の崩壊から、自分自身が精神を病む立場になってしまうという、主人公の苦悩が切実に描かれている。
また、患者となった主人公を自分の”所有物”にしようとする、精神科医の計画が着実に実行されていく過程も興味深い。
第55回ベルリン国際映画祭では、が”Prize of the Guild of German Art House Cinemas”を受賞し、金熊賞にもノミネートされた。
製作も兼ねた主演のナターシャ・リチャードソンは、何不自由ない生活環境でありながら、満たされない思いから全てを失う悲劇の女性を好演している。
主人公と自分の患者と関係を利用する用意周到な精神科医を深く演ずるイアン・マッケランが、実生活でもそうであるように(同性愛者)、バイセクシャルである役を演じているその演技にも注目したい。
人格障害と病的な嫉妬心により妻を殺して入院していた患者であり、主人公と愛し合う彫刻家のマートン・チョーカシュ、妻をコントロールできずに破滅する精神科医ヒュー・ボネヴィル、その息子ガス・ルイス、その祖母ジュディ・パーフィット、院長のジョス・アクランド、その妻ワンダ・ヴェンサム、エドガー(マートン・チョーカシュ)の元助手であり主人公に惹かれるショーン・ハリス、精神科医の妻マリア・エイトキン、精神患者のヘイゼル・ダグラスなどが共演している。