35歳の若さでこの世を去ったオーストリアの天才作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトが謀殺されたという設定でモーツァルトと神を憎む宮廷作曲家のアントニオ・サリエリの回顧で進行するドラマ。 監督ミロシュ・フォアマン、F・マーリー・エイブラハム、トム・ハルス共演。 |
■ スタッフ キャスト ■
監督:ミロシュ・フォアマン
製作総指揮
マイケル・ハウスマン
ベルティル・オルソン
製作:ソウル・ゼインツ
脚本:ピーター・シェーファー
撮影:ミロスラフ・オンドリチェク
編集
マイケル・チャンドラー
ニナ・デネヴィック
美術・装置
パトリッツィア・フォン・ブランデンシュタイン
カレル・サーニー
音楽
ジョン・ストラウス
ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
出演
F・マーリー・エイブラハム:アントニオ・サリエリ
トム・ハルス:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
エリザベス・ベリッジ:コンスタンツェ・モーツァルト
ジェフリー・ジョーンズ:皇帝ヨーゼフ2世
サイモン・キャロウ:エマヌエル・シカネーダー
ロイ・ドートリス:レオポルト・モーツァルト
クリスティン・エバソール:マダム・カヴァリエリ
リチャード・フランク:フォーグラー神父
シンシア・ニクソン:ロール(メイド)
ヴィンセント・スキャヴェリ:サリエリの召使
ケニー・ベイカー:大衆オペラの座員
アメリカ 映画
配給
ワーナー・ブラザーズ
オライオン・ピクチャーズ
1984年製作 160分(DC 180分)
公開
北米:1984年9月19日
日本:1985年2月16日
製作費 $18,000,000
北米興行収入 $51,564,280
■ アカデミー賞 ■
第57回アカデミー賞
・受賞
作品・監督
主演男優(F・マーリー・エイブラハム)
脚色・美術・衣裳デザイン
メイクアップ・音響賞
・ノミネート
主演男優(トム・ハルス)
撮影・編集賞
*詳細な内容、結末が記載されています。
■ ストーリー ■
1823年、ウィーン。
ある老人が、”モーツァルトを殺したのは自分だ”と叫びながら自殺を図ったが、一命を取り留め、精神病院に運ばれる。
その後、フォーグラー神父(リチャード・フランク)が老人の元を訪ね、彼は神父に語り始める。
自分の名はアントニオ・サリエリ(F・マーリー・エイブラハム)、 かつて、オーストリア皇帝ヨーゼフ2世に仕えた宮廷作曲家だと。
サリエリの名を知らしめた名曲を聞かせても、神父には聴き覚えがない曲ばかりだった。
しかし、あるメロディを奏でると、神父はそれがサリエリの曲だと思い、彼を喜ばせようと、その曲を口ずさむ。
だがそれは、神の子としてヨーロッパ中を驚嘆させた、 ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトの曲だった。
モーツァルトとは違い、音楽家としての生い立ちに恵まれなかったサリエリは、音楽に興味のなかった父の死をきっかけに、ウィーンで宮廷作曲家として成功した。
そしてサリエリは、神父に、自分の運命が狂い始めた物語を、更に語り始める。
__________
1781年。 しかし、彼の譜面を見たサリエリは、その音の調べに驚き、自分の知らない、初めて耳にするメロディ、正に神の声を聞くような音楽は、満たされぬ憧れに変わっていく。 そしてサリエリは、なぜ神は下品な若者にそのような才能を与えたのか、疑問を抱き始める。 やがて、皇帝ヨーゼフ2世(ジェフリー・ジョーンズ)に迎えられるモーツァルトのために、サリエリは曲を用意する。 モーツァルトは、その曲を一度で暗記して難点まで指摘した上で、その場で編曲してしまい、サリエリを驚かす。 サリエリは、その才能に驚き嫉妬するが、表面上はモーツァルトを歓迎する。 *非常に印象的なその場面。 そして、モーツァルトのウィーンでの初オペラ”後宮からの誘拐」に、サリエリが思いを寄せるオペラ歌手マダム・カヴァリエリ(クリスティン・エバソール)が出演する。 それを見たサリエリは、二人が愛し合っていることを察し、再び嫉妬して神を恨む。 息子ウォルフガングの素行の悪さを、大司教に指摘された父レオポルト(ロイ・ドートリス)は、モーツァルトの傍で、その行いを監視しようとする。 しかし、モーツァルトはそれを断り、下宿屋の娘であるコンスタンツェ(エリザベス・ベリッジ)と結婚してしまう。 その後、皇帝が、姪の音楽教師にモーツァルトを推薦するのだが、サリエリはそれに反対する。 やがて、モーツァルトは女癖に加え浪費も絶えず、家計は苦しくなっていく。 コンスタンツェは、モーツァルトの書いた楽譜を持参し、サリエリの元に向かい仕事の推薦を依頼する。 その楽譜を見たサリエリは、頭の中で既に完成されている音楽、書き直しもなく完璧なオリジナルの楽譜に驚嘆する。 そして、サリエリはコンスタンツェの頼みを断り、遂に、傲慢な下品な若者を選んだ神を敵とみなす。 父レオポルトが、ザルツブルグにモーツァルトを連れ帰ろうと彼の元を訪ねるが、モーツァルトは道化のように豪遊を繰り返し、また作曲に没頭しウィーンを離れようとしなかった。 モーツァルトへの嫉妬と、神への復讐に燃えるサリエリは、 メイドのロール(シンシア・ニクソン)を、モーツァルトの家に スパイとして忍び込ませる。 サリエリは、皇帝が上演禁止にした、フランスの風刺的戯曲”フィガロの結婚”を、モーツァルトがイタリア語でオペラにすることを知る。 それを阻止するためにサリエリは、宮廷内部で根回しを始める。 しかし、皇帝に直談判したモーツァルトは、オペラの稽古を始めてしまい、サリエリは、彼に協力していると見せかけて、禁じられているバレエに音楽をつけることを止めさせる。 サリエリを疑いもしないモーツァルトは、彼に助けを請うが、 同情を装うもののサリエリは何もせずにいた。 その後、リハーサルを見た皇帝は、音楽のないバレエをばかげたことだと批判して音楽を付けさせ、結果的にそれがサリエリのお陰だと、モーツァルトは思い込む。 そして上演された”フィガロの結婚”は、圧巻のうちに第4幕を迎え、サリエリは完全に敗北感を味わう。 その時、サリエリにとっての奇跡が起きる。 皇帝があくびをした瞬間、サリエリの敗北は勝利に変わり、 ”フィガロの結婚”の上演は9回で打ち切りになってしまう。 一方、サリエリの作曲は、”最高のオペラ”だと皇帝に称えられる。 父レオポルトが死去した直後、モーツァルトは、彼の書いた最も暗い曲”ドン・ジョヴァンニ”の舞台で、父を甦らせる。 そして、サリエリは舞台を5回で打ち切りにさせ、未だにモーツァルトを支配しているのは、父レオポルトだと悟る。 そして、大衆に受けなくなったモーツァルトに対し、サリエリは恐ろしい企みを実行に移す。 父レオポルトの幻影に怯えるモーツァルトの前に、仮面の男(サリエリ)が現れ、”レクイエム”の作曲を依頼する。 サリエリにとって、それはモーツァルトだけでなく神を嘲り笑うための計画だったのだ。 モーツァルトは大衆劇場の作曲家に成り下がり、この頃から借金返済に苦しむようになる。 金のために作曲を続け、ストレスで酒に溺れ、精神と肉体は限界に達するが、劇団興行主エマヌエル・シカネーダー(サイモン・キャロウ)や仮面の男は、モーツァルトに執拗に曲の完成を迫る。 1791年。 サリエリは、見舞いに来たシカネーダーを仮面の男と偽り、 モーツァルトの手助けをして作曲を続けさせる。 翌朝、静養先から戻ったコンスタンツェは、モーツァルトの傍らで眠っていたサリエリに、夫の作曲を止めさせることを告げる。 そしてモーツァルトは、肉体にむち打ち、徹夜で書いた曲を残し息を引き取る。 神童と呼ばれた名声も、既に消えうせていた35歳の若者の亡骸は、無雑作に集団墓地に放り込まれてしまう。 モーツァルトの、死の真相を知ったフォーグラー神父は愕然とする。 そんな神父に、追い討ちをかけるように、サリエリは語りかける。 ”モーツァルトを殺し、凡庸な自分を生き地獄に追いやったのは神だ”と。
神童から成長し、その名がヨーロッパ中に広まる才能とは裏腹に、モーツァルト(トム・ハルス)が、実は下品で、大変な女たらしだということを知り、サリエリはショックを受ける。
...全てを見る(結末あり)
”魔笛”を完成させたモーツァルトは、劇中倒れてしまい、居合わせたサリエリに自宅に運ばれる。
_________
*(簡略ストー リー)
かつて宮廷音楽家だったアントニオ・サリエリは、自分が関わった天才作曲家のウォルフガング・アマデウス・モーツァルトの死の真相を、収容される精神病院を訪れた神父に語り始める。
それは、下品な若者に才能を与え、彼の前では全く凡庸に見える自分を苦しみに追いやった神への、サリエリの執念の復讐でもあった・・・。
__________
イギリスの劇作家ピーター・シェーファーによる戯曲で、1979年にロンドン、翌年ニューヨークのブロードウェイでも上演されてヒットしトニー賞を受賞した舞台劇の映画化。
35歳の若さでこの世を去ったオーストリアの天才作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトが謀殺されたという設定で、モーツァルトと彼の身に降り立った神を憎む、宮廷作曲家のアントニオ・サリエリの回顧で進行するヒューマン・ドラマの傑作。
チェコスロバキア出身のミロシュ・フォアマンの、ヨーロッパ人としての感性が見事に活かされ、前回オスカーを獲得した「カッコーの巣の上で」(1975)の製作者ソウル・ゼインツと再び手を組み、前作とは全く違う作風での二度目の同賞受賞は見事だ。
第57回アカデミー賞では10部門でノミネートされ、作品賞をはじめ8部門で受賞する快挙を成し遂げた。
・受賞
作品・監督
主演男優(F・マーリー・エイブラハム)
脚色・美術・衣裳デザイン・メイクアップ
音響賞
・ノミネート
主演男優(トム・ハルス)
撮影・編集賞
特に、主演の二人が揃って主演賞にノミネートされ、F・マーリー・エイブラハムが見事に受賞した際に、モーツァルトを演じたトム・ハルスを称えたスピーチが印象的だった。
2019年、アメリカ議会図書館が、国立フィルム登録簿に登録した作品でもある。
南米人役が多いエイブラハムは、ラテンの血を活かし、自分の才能を”凡庸な物”にした神を憎むイタリア人作曲家サリエリ役を完璧に演じ切っている。
誰もが認めるモーツァルトの功績に隠くれ、有名宮廷音楽家だったとは言え、同情したくもなる、狂気と悲哀が入り混じった人物を演じ、オスカー受賞に相応しい名演を見せてくれる。
そのエイブラハムの名演は、何といってもモーツァルトを演じたトム・ハルスあってのことで、猛特訓したピアノの腕前はさることながら、”天才モーツァルト”という多くの人が抱いていたイメージを覆す難しい役柄を熱演している。
結局、彼は、本作以外に役に恵まれてはいないが、この名演は映画史に永遠に残る。
私自身、モーツァルトの曲を口ずさめと言われても、恥ずかしながら数曲 知っているだけだったが、神父同様、曲を聴けば覚えのあるものばかりなのも事実で、天才の成し得た事とは、こういうことかと実感もする。
また、個人的に、どうもこの時代背景物に拒否反応を示してしまうのだが、 それを払拭するきっかけとなった本作は、何度見ても飽きのこな い素晴らしさがある。
それは、モーツァルトの曲と同様であることも間違いない。
実際は、悪妻ではなかったと言われるコンスタンツェ演ずるエリザベス・ベリッジ、とぼけた表情が実にいいヨーゼフ2世のジェフリー・ジョーンズ、”魔笛”の台本を手がけた興行主のエマヌエル・シカネーダーのサイモン・キャロウ、モーツァルトの父レオポルトを厳格に演ずるロイ・ドートリス、オペラ歌手クリスティン・エバソール、神父役のリチャード・フランク、 メイド役シンシア・ニクソン、そして、ミロシュ・フォアマン作品の常連で、冒頭の精神患者役ヴィンセント・スキャヴェリ、シカネーダー劇団の座員役でケニー・ベイカーなどが共演している。